就業不能保険は必要?傷病手当金で足りない場合の備えを会社員・フリーランス別にFPが解説

病気やケガで働けなくなったとき、治療費と並んで大きな問題になるのが収入の減少です。入院や手術にかかる費用は医療保険や貯蓄で準備していても、「働けない間の生活費」まで具体的に計算している人は、それほど多くありません。

会社員であれば、一定の条件を満たすことで健康保険から傷病手当金を受け取れます。しかし、通常の給与が全額保障されるわけではなく、住民税や社会保険料、住宅費、教育費などの支払いは休業中も続きます。一方、一般的な国民健康保険に加入するフリーランスには、会社員と同じような傷病手当金が原則としてありません。働けなくなると、生活費だけでなく事業上の固定費も負担しなければならない可能性があります。

こうした収入減少に備える方法の一つが就業不能保険です。ただし、働けなくなることが心配だからといって、誰もが加入すべきとは限りません。公的保障や勤務先の福利厚生、配偶者の収入、貯蓄などで対応できるのであれば、民間保険の必要性は低くなります。

大切なのは、就業不能保険が必要か不要かを感覚で決めるのではなく、「働けなくなったら毎月いくら不足するのか」「その不足は何か月続くと家計に影響するのか」を計算することです。本記事では、会社員とフリーランスの公的保障の違いを整理し、独立系FPの立場から就業不能保険の必要性を判断する方法を解説します。

目次

就業不能保険とは?医療保険との違いを理解しよう

就業不能保険とは、病気やケガによって保険会社所定の就業不能状態になった場合に、毎月一定額の給付金を受け取れる保険です。

商品によって「就業不能保険」「所得補償保険」「給与サポート保険」などの名称が使われていますが、名称が似ていても保障内容は同じではありません。給付の対象になる状態、保障される病気、給付開始までの日数、給付を受けられる期間などには違いがあります。

そのため、「病気やケガで仕事を休んだら受け取れる保険」と単純に理解するのではなく、どのような状態になれば給付対象になるのかを確認することが欠かせません。

就業不能保険は働けない期間の収入減少に備える保険

就業不能保険の主な目的は、治療費を支払うことではなく、働けない期間の生活費を補うことです。所定の就業不能状態が続いている間、契約時に設定した月額給付金を受け取るのが一般的です。

たとえば、毎月の給与が35万円の会社員が病気で長期間休業したとします。勤務先から給与が支払われなくなっても、住宅ローン、食費、水道光熱費、通信費、教育費などはなくなりません。傷病手当金や配偶者の収入を差し引いても毎月5万円不足するのであれば、その不足を補う方法の一つとして就業不能保険を検討できます。

ただし、実際の収入が減少しただけで給付金を受け取れるとは限りません。保険会社が定める就業不能状態に該当し、さらに一定の状態が免責期間を超えて継続していることなどが必要です。

また、「以前と同じ仕事ができない状態」を基準にするのか、「ほかの仕事を含めて働けない状態」を基準にするのかによっても、給付の受けやすさは異なります。身体を使う仕事ができなくなっても、事務作業などはできると判断されれば、商品によっては給付対象にならない可能性があります。

就業不能保険を比較するときは、給付金額や保険料だけでなく、就業不能状態の定義まで確認する必要があります。

医療保険と就業不能保険は目的が異なる

医療保険と就業不能保険は、どちらも病気やケガに関係する保険ですが、備える対象が異なります。

医療保険は、入院や手術などを受けたときの医療費負担に備えるものです。入院給付金、手術給付金、先進医療給付金などを受け取れる商品が一般的です。

一方、就業不能保険は、働けないことによって生じる収入減少に備えます。入院中だけでなく、所定の条件を満たせば自宅療養中も給付対象になる商品があります。

たとえば、退院後も体調が回復せず、半年間自宅で療養することになった場合、医療保険の入院給付金は退院時点で終了するのが一般的です。しかし、働けなければ収入の減少は続きます。このような入院後の長期療養や、入院を伴わない病気による就業不能に備えるのが就業不能保険の役割です。

反対に、短期間の入院や手術をしても、早期に仕事へ復帰できれば、就業不能保険から給付を受けられない可能性があります。医療保険に加入しているから収入減少にも備えられている、あるいは就業不能保険に加入すれば治療費も十分に賄える、とは限りません。

保険を検討するときは、「治療費」と「収入減少」を分けて考えることが大切です。

収入保障保険や所得補償保険とは何が違う?

就業不能保険と混同されやすいものに、収入保障保険があります。一般的な収入保障保険は、被保険者が死亡または所定の高度障害状態になった場合に、遺族が毎月一定額を受け取る生命保険です。主に、残された家族の生活費や教育費を準備する目的で利用されます。

これに対して就業不能保険は、本人が生存していても、病気やケガによって働けなくなった場合に給付を受けるものです。死亡リスクへの保障と、働けないリスクへの保障は分けて考える必要があります。

所得補償保険も就業不能保険と似ていますが、損害保険会社が取り扱い、一定期間の所得減少を補償する商品が多く見られます。就業不能保険には長期間を保障する商品がある一方、所得補償保険では1年や2年など比較的短い補償期間が設定される場合もあります。ただし、実際の仕組みは商品ごとに異なるため、名称だけで区別することはできません。

確認したいのは、主に次の項目です。

  • どのような病気やケガが対象になるのか
  • どのような状態を「働けない」と判断するのか
  • 働けなくなってから何日後に給付が始まるのか
  • 毎月いくら受け取れるのか
  • いつまで給付を受けられるのか
  • 精神疾患や在宅療養が保障されるのか

商品名や広告の印象だけで判断せず、自分の働き方に給付条件が合っているかを見ることが大切です。

働けなくなったときに家計で起こること

就業不能への備えを考えるときに、「現在の月収がなくなるから、月収と同額の保障が必要」と考える人がいます。しかし、実際の家計はそれほど単純ではありません。

会社員には傷病手当金を受け取れる可能性があり、共働き世帯であれば配偶者の収入も残ります。また、仕事を休むことで減る支出もあります。一方、社会保険料や税金、治療に伴う費用など、見落としやすい負担も存在します。

就業不能保険の必要保障額は、現在の収入ではなく、休業後の収入と支出の差から計算するのが基本です。

収入が減っても生活費のすべてがなくなるわけではない

働けなくなっても、家賃や住宅ローン、食費、水道光熱費、通信費、保険料、教育費などの支払いは続きます。住宅ローンや家賃は短期間で減らすことが難しく、子どもの学校や習い事にかかる費用も、休業したからといってすぐにゼロにはできません。

その一方で、通勤費、仕事中の外食費、交際費、被服費などは減る可能性があります。自家用車を仕事で利用していたフリーランスであれば、ガソリン代などの変動経費も少なくなるでしょう。

ただし、療養中には別の支出が増えることもあります。公的医療保険が適用される治療費のほか、差額ベッド代、入院中の食事代、通院交通費、日用品代などが発生する可能性があります。家事や育児を担っていた人が療養する場合は、家事代行、ベビーシッター、配食サービスなどの費用が必要になるかもしれません。

したがって、現在の家計簿をそのまま使うのではなく、次の3つに分けて考えると整理しやすくなります。

  • 休業しても続く支出
  • 休業によって減らせる支出
  • 療養により新たに増える支出

就業不能への備えで重視すべきなのは、普段の生活費ではなく、休業中にも必要となる生活費です。

短期の休業と長期の就業不能は分けて考える

2週間仕事を休む場合と、1年以上働けない場合では、家計への影響も必要な備えも異なります。

数週間から数か月程度の休業であれば、有給休暇、傷病手当金、貯蓄などで対応できる家庭は少なくありません。短期の収入減少まで保険で完全に補おうとすると、保険料が高くなることもあります。

一方、働けない期間が1年、2年と長期化すれば、貯蓄だけでは対応しにくくなります。会社員の傷病手当金にも支給期間の限度があるため、その後も復職できなければ収入が大きく減少する可能性があります。

長期療養の場合には障害年金を受給できる可能性もありますが、「病気で働けない」という理由だけで必ず支給される制度ではありません。初診日や保険料の納付状況、障害の程度など、複数の要件を満たす必要があります。

そのため、就業不能への備えは、期間ごとに次のように分けて考えると合理的です。

  • 短期:有給休暇や普通預金で対応する
  • 中期:傷病手当金や生活防衛資金を利用する
  • 長期:障害年金、勤務先制度、就業不能保険などを組み合わせる

保険は、発生する可能性はそれほど高くなくても、起きたときに家計だけでは負担しきれないリスクに向いています。短期間の休業をすべて保険で補うのではなく、長期間働けない場合に家計が耐えられるかを中心に検討することが大切です。

医療費より収入減少の方が大きな問題になることもある

公的医療保険が適用される治療には、高額療養費制度があります。これは、1か月の医療費の自己負担が一定額を超えた場合に、超過分が支給される制度です。年齢や所得によって上限額は異なり、差額ベッド代や入院時の食事代など対象外となる費用もありますが、保険診療の自己負担が際限なく増えるわけではありません。

一方、収入減少には高額療養費制度のような上限がありません。毎月10万円の赤字が1年間続けば、単純計算で120万円の貯蓄を取り崩すことになります。住宅ローンや教育費の負担が大きい家庭では、治療費よりも収入減少の方が家計に与える影響が大きくなることもあります。

医療保険の加入状況だけを見て安心するのではなく、働けなくなった場合の収入と生活費まで確認する必要があります。

会社員が働けなくなったときに利用できる公的保障

会社員には、傷病手当金をはじめとする公的保障や勤務先の休職制度があります。そのため、就業不能保険を検討する前に、利用できる制度を確認することが先です。

公的保障を把握しないまま民間保険へ加入すると、保障が重複して保険料を払いすぎる可能性があります。反対に、「会社員なら傷病手当金があるから大丈夫」と考えるだけでは、実際の不足額を見落とすことがあります。

傷病手当金とは

傷病手当金は、健康保険の被保険者である会社員などが、業務外の病気やケガによって働けず、勤務先から十分な給与を受けられない場合に支給される制度です。被扶養者は対象ではありません。

主な支給要件は、次のとおりです。

  • 業務外の病気やケガの療養であること
  • 療養のため、これまで行っていた仕事に就けないこと
  • 連続する3日間を含めて4日以上仕事を休んでいること
  • 休業期間について給与の支払いがないこと

連続する最初の3日間は「待期」と呼ばれ、4日目以降の休業日が支給対象です。待期には有給休暇や土日・祝日などの公休日も含められますが、3日間が連続している必要があります。

支給額は、おおむね支給開始前12か月間の標準報酬月額の平均を基に計算した日額の3分の2です。支給期間は、支給開始日から通算して1年6か月が限度となります。途中で復職して傷病手当金が支給されない期間があっても、一定の範囲で支給日数を通算する仕組みです。

給与が一部支払われる場合は、傷病手当金との差額が支給されることがあります。反対に、休業中も傷病手当金以上の給与を受け取っていれば、傷病手当金は支給されません。

なお、業務中や通勤中の病気・ケガは、原則として健康保険の傷病手当金ではなく、労災保険の対象です。実際の支給要件や申請方法は、加入している健康保険や勤務先に確認してください。

参考:全国健康保険協会「傷病手当金」

傷病手当金は手取り給与の3分の2ではない

傷病手当金について、「普段の手取り給与の3分の2を受け取れる」と理解している人もいますが、正確には異なります。計算の基礎となるのは、原則として支給開始前12か月間の標準報酬月額の平均です。

標準報酬月額とは、毎月の給与などを一定の幅で区分し、健康保険料や厚生年金保険料を計算するために用いる金額です。賞与は傷病手当金の日額計算に直接含まれないため、賞与への依存度が高い人は、年間収入と比べて休業中の収入が大きく減る可能性があります。

また、傷病手当金自体には所得税がかかりませんが、休業中も住民税の支払いや社会保険料の負担が続く場合があります。勤務先が立て替えた社会保険料を後から支払うケースもあるため、実際に自由に使える金額は傷病手当金の支給額より少なくなる可能性があります。

たとえば、普段の手取り収入が月30万円あり、休業中に受け取れる傷病手当金が月20万円程度だとしても、生活に使えるお金が単純に20万円残るわけではありません。住民税や社会保険料などを支払ったうえで、住宅費、食費、教育費などを賄う必要があります。

就業不能保険の必要性を判断するときは、傷病手当金の額面だけでなく、休業中の実質的な手取り額を見積もることが重要です。

有給休暇や会社独自の休業保障も確認する

会社員の保障は、傷病手当金だけではありません。勤務先によっては、有給休暇、休職中の給与、見舞金、団体保険、共済制度などを利用できる場合があります。

たとえば、有給休暇を使っている期間は通常の給与を受け取り、その後に傷病手当金へ移行できれば、収入が大きく減る時期を遅らせることができます。休職中も一定割合の給与が支給される会社や、傷病手当金に上乗せして給付を行う健康保険組合もあります。

一方、休職できる期間や復職の条件、休職期間満了後の取り扱いは勤務先によって異なります。傷病手当金は健康保険から支給される制度ですが、会社に在籍し続けられる期間を保障する制度ではありません。傷病手当金の支給期間が残っていても、就業規則上の休職期間が終了すれば、退職に至る可能性もあります。

保険への加入を検討する前に、勤務先の就業規則や福利厚生資料で、少なくとも次の点を確認しておきましょう。

  • 有給休暇の残日数
  • 休職できる期間
  • 休職中の給与や手当
  • 健康保険組合独自の付加給付
  • 団体の所得補償保険や共済制度
  • 復職の条件と休職期間満了後の取り扱い

勤務先の保障が充実していれば、個人で加入する就業不能保険の給付額を抑えられる可能性があります。

業務上・通勤中の病気やケガは労災保険を確認する

傷病手当金が対象とするのは、原則として業務外の病気やケガです。仕事中や通勤中に発生した病気・ケガについては、労災保険の対象になる可能性があります。

労災保険には、療養に関する給付のほか、働けず給与を受け取れない期間に対する休業補償給付などがあります。雇用形態にかかわらず、労働者であればパートやアルバイトも原則として対象です。

ただし、病気の場合には業務との因果関係が分かりにくいこともあります。長時間労働などを原因とする精神疾患や脳・心臓疾患では、労災認定に一定の基準があります。本人や勤務先が業務外と判断しただけで結論を出さず、労働基準監督署などへ確認することが大切です。

傷病手当金と労災保険では給付の仕組みが異なるため、「どちらから、どのような給付を受けられるか」を確認したうえで不足額を計算します。

長期化した場合は障害年金を受給できる可能性がある

病気やケガによる障害が長期化し、生活や仕事に一定以上の支障が生じた場合は、障害年金を受給できる可能性があります。

障害年金は、身体障害者手帳の有無だけで決まる制度ではありません。初診日に加入していた年金制度、保険料の納付状況、初診日から一定期間が経過した時点などにおける障害の程度によって判断されます。身体の障害だけでなく、精神疾患やがん、糖尿病、心疾患などの内部疾患も、状態によっては対象になる可能性があります。

会社員が厚生年金加入中に初診日を迎えた場合、障害基礎年金に加えて障害厚生年金の対象になることがあります。ただし、「仕事を休んでいる」「以前と同じ仕事ができない」というだけで必ず受給できるわけではありません。傷病手当金よりも障害状態に関する要件が厳しく、働けない期間のすべてを埋める制度ではない点に注意が必要です。

傷病手当金の支給が終了したら、自動的に障害年金へ切り替わるわけでもありません。長期療養が見込まれる場合は、早めに年金事務所や社会保険労務士などへ相談することが考えられます。

傷病手当金があっても不足しやすい会社員とは

会社員には傷病手当金がありますが、それだけで休業中の生活費を賄えるとは限りません。特に、固定費が高い世帯や、本人の収入に家計が大きく依存している世帯では、不足額が大きくなりやすい傾向があります。

住宅費や教育費などの固定費が高い人

住宅ローンや家賃、教育費、自動車ローンなどは、収入が減ってもすぐには減らせません。普段は無理なく支払えていても、手取り収入が3割以上減少すれば、毎月の収支が赤字になる可能性があります。

たとえば、休業中に必要な生活費が月28万円、傷病手当金などから税・社会保険料の負担を考慮した実質的な収入が月18万円なら、毎月10万円が不足します。生活防衛資金が180万円あれば単純計算では18か月補えますが、その貯蓄に教育資金や住宅修繕費が含まれていれば、全額を生活費には使えません。

「預貯金がいくらあるか」だけではなく、そのうち休業時に使えるお金がいくらあるかを分けて考える必要があります。

本人の収入に家計が大きく依存している人

片働き世帯や、夫婦の収入差が大きい世帯では、収入の多い方が働けなくなったときの影響が大きくなります。

共働きであっても、配偶者の収入だけで家計を維持できるとは限りません。子育てや介護をしながら働いている場合、配偶者が勤務時間を増やすのは難しいことがあります。療養中の本人が担っていた家事や育児を補うため、かえって支出が増える可能性もあります。

夫婦の合計収入だけを見るのではなく、どちらが働けなくなった場合に家計への影響が大きいかを個別に確認することが大切です。

生活防衛資金が少ない人

就業不能保険の必要性は、病気やケガが起きる確率だけでなく、起きたときに家計で損失を吸収できるかによって変わります。

毎月5万円の不足であれば、十分な預貯金がある家庭では保険に頼らず対応できるでしょう。しかし、貯蓄が少なければ、数か月の休業でも家賃や住宅ローンの支払いに影響する可能性があります。

ここで注意したいのが、NISAやiDeCoの残高を生活防衛資金と同じように考えることです。NISAの運用資産は必要に応じて売却できますが、就業不能になった時期と相場下落が重なれば、損失が出ている状態で売却する可能性があります。iDeCoの資産は、原則として60歳まで引き出せないため、休業中の生活費には使えません。

生活防衛資金は、投資資産とは分け、普通預金など価格変動がなく換金しやすい資産で確保するのが基本です。

賞与や残業代、歩合給への依存度が高い人

傷病手当金は、通常の手取り収入を基準に支給されるわけではありません。賞与の割合が高い人、残業代が多い人、営業成績による歩合給が大きい人は、普段の生活水準と傷病手当金の間に大きな差が生じることがあります。

毎月の基本給はそれほど高くなくても、賞与を住宅ローンのボーナス返済や教育費、固定資産税などに充てている家庭では、賞与がなくなることで年間収支が悪化します。

月々の生活費だけでなく、年単位で発生する支出も含めて、不足額を確認する必要があります。

住宅ローンの団体信用生命保険だけでは足りない場合

住宅ローンを利用している人の多くは、団体信用生命保険に加入しています。一般的な団信は、債務者が死亡または所定の高度障害状態になった場合に、住宅ローン残高が保険金で返済される仕組みです。

がん、急性心筋梗塞、脳卒中などを保障する特約や、一定期間の就業不能状態を保障する特約が付いている場合もあります。ただし、病気になっただけで住宅ローンが免除されるとは限りません。診断確定、所定の状態の継続、就業不能期間などの条件は契約によって異なります。

また、団信によって住宅ローンの返済がなくなっても、食費、教育費、水道光熱費などの生活費は残ります。団信があることと、就業不能時の収入保障が十分であることは分けて考えましょう。

会社員に就業不能保険が必要か判断する方法

会社員の必要保障額は、現在の給与から決めるのではなく、次の式を基本に計算します。

休業中に必要な生活費-休業中に得られる収入=毎月の不足額

休業中に得られる収入には、傷病手当金、勤務先からの給与や給付、配偶者の収入、継続的な副収入などを含めます。必要生活費については、現在の生活費から通勤費などの減少分を差し引き、治療や家事代行などで増える費用を加えます。

会社員世帯のモデルケース

35歳の会社員、配偶者、子ども1人の3人世帯を例に考えてみます。本人の手取り収入が月30万円、配偶者の手取り収入が月10万円で、世帯の通常生活費が月35万円だったとします。

本人が働けなくなった後、通勤費や外食費などが減る一方、通院費などが増え、休業中に必要な生活費は月33万円になりました。傷病手当金から税・社会保険料などの負担を考慮した実質的な収入を月18万円、配偶者の収入を月10万円とすると、毎月の不足額は次のようになります。

33万円-18万円-10万円=5万円

この家庭に、ほかの目的と分けた生活防衛資金が180万円あれば、単純計算では毎月5万円の不足を36か月補えます。ただし、傷病手当金は無期限ではありません。支給終了後も働けなければ、不足額はさらに大きくなります。

このケースでは、短期の不足は貯蓄で対応し、傷病手当金が終了した後の長期リスクだけを就業不能保険で補う方法が考えられます。一方、貯蓄が30万円しかなければ、傷病手当金の受給中でも半年ほどで使い切る計算になるため、保障の必要性は高くなります。

同じ収入、同じ家族構成でも、保有する現預金や勤務先の保障によって結論は変わります。

会社員でも必要性が比較的低いケース

次のような会社員は、就業不能保険の必要性が比較的低いと考えられます。

  • 共働きで、一方の収入だけでも基本生活費を賄える
  • 休業中の不足を長期間補える現預金がある
  • 勤務先の休業補償や健康保険組合の付加給付が充実している
  • 住宅費などの固定費が低い
  • 働かなくても一定の資産収入や継続収入が得られる

ただし、これらの条件に一つ当てはまるだけで不要と判断できるわけではありません。たとえば共働きでも、配偶者の収入が月10万円で生活費が月30万円なら、家計を維持するには不足します。現預金が多くても、数年以内に使う教育資金や住宅購入資金であれば、就業不能時の生活費に充てることが適切とは限りません。

保険を使わず貯蓄で備えるのであれば、「毎月の不足額を何か月補えるか」まで計算する必要があります。

反対に、傷病手当金、勤務先の保障、配偶者収入、貯蓄を合わせても長期の不足が残る場合は、その不足分を就業不能保険で補う考え方があります。月収全額を保障するのではなく、家計で吸収できない金額に絞ることで、保険料の負担も抑えやすくなります。

フリーランスが働けなくなったときの公的保障

フリーランスが就業不能への備えを考える場合、会社員以上に公的保障の内容を丁寧に確認する必要があります。

フリーランスの多くは国民健康保険と国民年金に加入しています。一般的な国民健康保険には、会社員が加入する健康保険のような傷病手当金が原則としてありません。また、本人が働かなければ売上が止まる事業では、生活費と事業経費の両方を貯蓄から支払うことになります。

ただし、すべてのフリーランスが同じ制度に加入しているわけではありません。加入している国民健康保険組合に独自の給付が設けられている場合や、会社員から独立した後も健康保険の任意継続被保険者になっている場合など、状況によって利用できる制度は異なります。

「フリーランスには公的保障が何もない」と決めつけるのではなく、自分が加入している健康保険や年金制度を確認したうえで、不足する保障を計算することが大切です。

一般的な国民健康保険には傷病手当金が原則ない

市区町村の国民健康保険に加入しているフリーランスは、病気やケガで仕事を休んでも、会社員と同じ傷病手当金を原則として受け取れません。医療機関を受診した際の医療費には公的医療保険が適用されますが、働けない期間の収入まで保障されるわけではありません。

たとえば、会社員であれば、一定の条件を満たすことで傷病手当金を最長で通算1年6か月受け取れる可能性があります。一方、同じ病気で同じ期間働けなくなったフリーランスでも、一般的な国民健康保険から毎月の所得を補う給付が行われるとは限りません。

この違いは、就業不能保険の必要性を判断するうえで大きなポイントです。

ただし、業種ごとに設けられた国民健康保険組合などでは、独自の傷病手当金や休業に関する給付を設けていることがあります。名称が同じでも、支給額や支給期間、対象となる傷病などは組合によって異なります。加入者は、自分の保険証や資格情報を確認し、加入している保険者へ問い合わせるとよいでしょう。

また、会社を退職して健康保険を任意継続している人についても、任意継続期間中に新たに発生した病気やケガに対する傷病手当金は原則として支給されません。退職前から傷病手当金を受け、資格喪失後の継続給付の要件を満たしている場合などは取り扱いが異なるため、個別の確認が必要です。

休業しても事業上の固定費が続く

フリーランスの就業不能リスクを考えるときは、家計と事業を分けて計算する必要があります。

働けなくなっても、家賃や住宅ローン、食費、水道光熱費、教育費といった生活費は続きます。それに加えて、事務所家賃、業務用通信費、クラウドサービスの利用料、リース料、従業員や外注先への支払いなど、事業上の固定費が残る場合があります。

売上がなくなれば事業経費もすべてなくなるわけではありません。仕入れや交通費などの変動費は減っても、事業を再開するために維持しなければならない契約や設備があります。

たとえば、普段の生活費が月25万円、事業の固定費が月10万円かかるフリーランスの場合、完全に休業しても月35万円が必要になる可能性があります。配偶者の収入が月10万円、本人が働かなくても残る継続収入が月5万円なら、毎月の不足額は20万円です。現預金が240万円あっても、単純計算では1年で使い切ることになります。

さらに、前年の所得を基に計算される住民税や国民健康保険料などは、売上が減った直後に同じ割合で下がるとは限りません。所得が大きく減少した場合には減免や納付猶予などを利用できる可能性がありますが、自治体や制度によって要件が異なります。

就業不能への備えを計算する際は、生活費だけでなく、事業を維持するために最低限必要な支出も含めましょう。

完全に休業しなくても売上が減る可能性がある

フリーランスの場合、「働けるか、まったく働けないか」という二者択一にならないこともあります。

体調を崩して稼働時間を半分に減らしたり、対面業務を休んで事務作業だけを続けたりすることもあるでしょう。完全に仕事を休んでいなくても、受けられる案件が減り、売上が大きく落ちる可能性があります。休業中に顧客が離れ、体調が回復してからも売上が元の水準に戻らない場合もあります。

ここで注意したいのは、売上が減少したからといって、就業不能保険から必ず給付を受けられるわけではないことです。商品によっては、入院していることや、医師の指示による在宅療養をしていること、所定の障害状態に該当することなどが給付条件になります。

週5日の仕事を週2日に減らしたものの、一定の業務を続けている場合は、保険会社が定める就業不能状態に該当しない可能性があります。特に、パソコンや電話を使って自宅で仕事ができる職種は、どの状態で給付対象になるのかを確認しておく必要があります。

フリーランスが保険を選ぶときは、「売上が減った場合」ではなく、「契約上どのような状態になった場合に給付されるか」を基準に比較しましょう。

労災保険に特別加入できる場合もある

労災保険は、本来、事業主に雇用される労働者を対象とした制度です。しかし、業務の実態や災害の発生状況などから労働者に準じて保護することが適当と考えられる人については、一定の要件を満たすことで特別加入できる制度があります。

制度改正により特別加入の対象は拡大していますが、加入手続きが必要です。加入していなければ、仕事中の事故だからという理由だけで自動的に労災保険を利用できるわけではありません。

また、労災保険が対象とするのは、業務または通勤が原因となった病気やケガなどです。私生活中の転倒や、業務と関係のない病気による就業不能まで幅広く保障する制度ではありません。

フリーランスにとって労災保険の特別加入は有力な備えの一つですが、就業不能保険と完全に同じ役割ではありません。仕事内容、加入対象、給付内容を確認したうえで使い分ける必要があります。

参考:厚生労働省「労災保険への特別加入」

障害基礎年金だけではカバーできない空白がある

国民年金に加入しているフリーランスも、一定の要件を満たせば障害基礎年金を受給できる可能性があります。ただし、障害基礎年金は、病気やケガで一時的に仕事ができなくなった人すべてに所得を補償する制度ではありません。

障害基礎年金は、原則として障害等級1級または2級に該当する状態が対象です。初診日や保険料納付などの要件もあり、売上が減った、以前と同じ働き方ができなくなったという理由だけで受給できるとは限りません。

また、厚生年金に加入している会社員は、初診日や障害状態などの要件を満たせば障害厚生年金の対象になる可能性があります。障害厚生年金には3級があり、報酬比例部分もあるため、原則として国民年金だけに加入するフリーランスとは保障範囲に差が生じます。

フリーランスには障害年金があるから就業不能への備えは不要と考えるのではなく、障害年金の対象にならない休業期間や障害状態も想定しておく必要があります。

フリーランスに就業不能保険が必要か判断する方法

フリーランスの必要保障額は、次の式を基本に考えます。

休業中の生活費+継続する事業経費-休業中も得られる収入=毎月の不足額

休業中も得られる収入には、配偶者の収入、本人が働かなくても発生する継続報酬、家賃収入などを含めます。逆に、働かなければ発生しない仕入れや交通費などは、必要経費から除外します。

普段の売上額をそのまま必要保障額にするのではなく、休業中に本当に不足する金額を計算することがポイントです。

フリーランス世帯のモデルケース

40歳のフリーランス、会社員の配偶者、子ども2人の4人世帯を例に考えます。休業中の生活費を月30万円、事務所家賃やシステム利用料など継続する事業経費を月8万円とします。

配偶者の手取り収入が月15万円、本人が働かなくても継続する収入が月3万円あれば、毎月の不足額は次のとおりです。

30万円+8万円-15万円-3万円=20万円

この世帯に、生活費と事業資金を合わせて600万円の現預金があれば、単純計算では30か月分の不足を補えます。ただし、その中に納税資金、教育資金、設備更新資金などが含まれているなら、全額を休業中の支出には使えません。

一方、自由に使える現預金が100万円しかなければ、5か月ほどで不足する可能性があります。この場合、まず生活防衛資金と事業予備資金を増やしつつ、長期の就業不能に対して民間保険を利用する考え方があります。

給付月額を20万円に設定すれば安心とは限りません。給付開始までに60日や180日などの免責期間がある場合、その間は貯蓄で生活費と事業経費を負担する必要があります。保障額と同時に、給付が始まるまでの資金を確保しておくことが大切です。

フリーランスで必要性が高くなりやすいケース

次のようなフリーランスは、就業不能保険の必要性が比較的高くなります。

  • 本人が働かなければ売上がほぼ止まる
  • 扶養する家族がいる
  • 生活費と事業固定費の負担が大きい
  • 仕事を代替できる従業員や外注先がいない
  • 傷病手当金などの所得保障がない
  • 生活防衛資金や事業予備資金が少ない
  • 長期間休業すると顧客を失いやすい事業をしている

ただし、フリーランスだから必ず加入すべきという意味ではありません。十分な現預金があり、配偶者の収入で生活費を賄え、事業固定費も小さい場合は、保険に頼らず自分の資産で備えることもできます。

逆に、保険へ加入していても、給付条件に該当しなければ売上減少を補えません。保険の必要性だけでなく、事業を継続できる仕組みも一緒に考える必要があります。

フリーランスは保険以外の備えも整える

フリーランスの就業不能対策は、保険だけでは完成しません。本人が休んでも最低限の業務を維持できる体制を作ることが、収入減少を抑える助けになります。

具体的には、次のような対策が考えられます。

  • 生活防衛資金と事業予備資金を別々に確保する
  • 緊急時に業務を引き継げる外注先や同業者を見つけておく
  • 顧客情報や契約状況を整理し、本人以外でも確認できるようにする
  • 不要な固定費を定期的に見直す
  • 本人が休んでも一部収入が残る事業構造を検討する
  • 納税資金を生活費と分けて管理する

就業不能保険は、こうした対策を行っても残る長期的な不足を補う手段として位置づけると、過剰な保障を避けやすくなります。

会社員とフリーランスの就業不能時の違い

会社員とフリーランスでは、利用できる公的保障だけでなく、休業中に発生する支出や事業への影響も異なります。

比較項目会社員フリーランス
傷病手当金一定の要件を満たせば受給できる一般的な国民健康保険では原則なし
勤務先の休業制度休職制度や独自給付がある場合も原則として自分で準備する
労災保険労働者は原則として対象対象者は特別加入を検討できる
障害年金障害基礎年金と障害厚生年金の可能性原則として障害基礎年金
休業中の負担生活費、税金、社会保険料など生活費に加えて事業固定費も考慮
収入への影響傷病手当金などで一部補える場合がある本人が働かなければ売上が止まりやすい
最初に確認すること健康保険、就業規則、福利厚生加入中の健康保険、事業固定費、予備資金

会社員は、まず傷病手当金と勤務先の制度を確認し、不足分を計算します。フリーランスは、家計と事業の両方について休業中の収支を作る必要があります。

ただし、雇用形態だけで結論を出すことはできません。公的保障の少ないフリーランスでも、現預金が十分にあり、事業を代替できる体制があれば、保険の必要性は低くなります。反対に、会社員でも固定費が高く、貯蓄が少なければ、傷病手当金だけでは家計を維持できない可能性があります。

就業不能保険が必要な人・必要性が低い人

就業不能保険の必要性は、「働けなくなる可能性があるか」ではなく、「働けなくなったときに家計でどこまで対応できるか」で判断します。病気やケガによる就業不能は誰にでも起こり得ますが、家計への影響は世帯によって大きく異なるからです。

就業不能保険の必要性が高い人

次のような人は、民間の就業不能保障を検討する余地があります。

  • 本人の収入が止まると早い段階で家計が赤字になる
  • 傷病手当金がない、または受給しても生活費が不足する
  • 配偶者や子どもなど扶養家族がいる
  • 住宅ローン、家賃、教育費などの固定費が大きい
  • 生活防衛資金が十分ではない
  • 本人が働けないと事業収入が止まる
  • 勤務先の休業保障や団体保険が少ない

特に、毎月の不足額が大きく、貯蓄で対応できる期間が短い人は、就業不能が家計に与える影響も大きくなります。

必要性が比較的低い人

一方、次のような人は、保険に加入しない、または保障額を抑える選択も考えられます。

  • 長期間の不足を補える現預金がある
  • 配偶者の収入だけで基本生活費を賄える
  • 勤務先の休業補償や健康保険組合の付加給付が充実している
  • 住宅費などの固定費が低い
  • 本人が働かなくても継続する収入がある
  • 業務を代替できる仕組みが整っている

保険を利用せず貯蓄で備えれば、給付条件に左右されず自由に資金を使えます。ただし、必要な貯蓄額を確保できていることが前提です。

「加入しない」という判断にも条件がある

就業不能保険へ加入しないことは、何も備えなくてよいという意味ではありません。

貯蓄で対応するなら、株式や投資信託だけでなく、値動きのない現預金を確保しておく必要があります。就業不能になった時期と相場下落が重なれば、生活費のために運用資産を安値で売却する可能性があるからです。

また、NISAの資産は売却できますが、iDeCoの資産は原則として60歳まで引き出せません。老後資金が十分に積み上がっていても、現在の休業に使える資金が不足していることはあります。

保険に加入しない場合も、毎月の不足額、使用できる現預金、対応できる月数を定期的に確認しましょう。

就業不能保険を選ぶときに確認したいポイント

就業不能保険は、給付月額が同じでも保障内容が異なります。保険料の安さだけで決めると、想定していた病気や療養状態が給付対象にならない可能性があります。

「就業不能状態」の定義

最も確認したいのは、保険会社がどのような状態を就業不能と判断するかです。

医師から休養を勧められただけで、自動的に給付対象になるとは限りません。入院していること、医師の指示による在宅療養をしていること、所定の障害状態に該当することなど、商品ごとに条件が定められています。

また、現在の職業に就けない状態を保障するのか、ほかの職業を含めて働けない状態を保障するのかも確認が必要です。美容師、建設業、介護職など身体を使う仕事と、在宅勤務が可能な事務職では、同じ病状でも仕事への影響が異なります。

自分の職業や働き方に照らして、どのような場合に給付を受けられるかを約款や契約概要で確認しましょう。

精神疾患が保障されるか

長期休業の原因は、身体の病気やケガだけではありません。うつ病などの精神疾患によって働けなくなる場合もあります。

しかし、精神疾患を保障しない商品や、身体疾患よりも給付期間が短い商品もあります。精神疾患が保障される場合でも、診断を受けただけで給付されるとは限らず、入院、障害等級、就業不能期間などの条件が定められていることがあります。

「精神疾患も対象」という表示だけで判断せず、給付条件、免責期間、給付上限期間まで確認することが大切です。

免責期間は何日あるか

免責期間とは、就業不能状態になってから給付金の支払いが始まるまでの期間です。60日、180日など、商品や契約によって異なります。

たとえば免責期間が60日なら、働けなくなってから約2か月間は給付金を受け取れません。その期間の生活費は、有給休暇、傷病手当金、配偶者の収入、貯蓄などで対応する必要があります。

会社員は傷病手当金を利用できる可能性があるため、あえて免責期間を長くして保険料を抑え、長期就業不能だけを保険で補う方法もあります。一方、傷病手当金がないフリーランスは、免責期間中の資金をより厚く準備しなければなりません。

免責期間が短いほど安心とは限りません。短期の休業を貯蓄で対応できるなら、保険は家計で負担しにくい長期リスクに絞る方が合理的な場合もあります。

給付期間はいつまでか

就業不能保険には、給付期間が1年、2年、5年などに限定されるものや、所定の状態が続く限り60歳・65歳などまで給付されるものがあります。

長期間保障される商品は安心感がありますが、その分、保険料が高くなる傾向があります。短期の収入減少に弱いのか、傷病手当金終了後の長期リスクに弱いのかによって、適した給付期間は変わります。

会社員で傷病手当金と十分な生活防衛資金がある場合は、長期就業不能に重点を置く考え方があります。フリーランスで貯蓄が少ない場合は、給付期間だけでなく、給付開始までの空白期間にも注意が必要です。

毎月の給付額はいくら必要か

給付月額は、現在の月収や売上額から決めるものではありません。必要なのは、休業中の不足額です。

会社員なら、休業中の生活費から傷病手当金、勤務先給付、配偶者収入などを差し引きます。フリーランスなら、生活費に継続する事業経費を加え、休業中も残る収入を差し引きます。

たとえば毎月の不足額が7万円で、貯蓄から2万円を負担できるなら、保険で補う金額は月5万円でもよいかもしれません。月収全額を保障しようとすると、保険料が高くなり、現在の貯蓄や資産形成を圧迫する可能性があります。

就業不能保険は生活水準を完全に維持するためではなく、家計が破綻しないための最低限の不足を補うものとして考えると、保障額を設定しやすくなります。

保険料を長期間払い続けられるか

保障を手厚くしても、保険料の支払いが家計を圧迫しては本末転倒です。

就業不能保険へ加入するために生活防衛資金を確保できなかったり、新NISAなどの長期的な資産形成を大幅に減らしたりすれば、別の家計リスクが大きくなります。必要な保障と現在の資産形成のバランスを考えることが大切です。

加入時には、保障される年齢、保険料が一定か更新時に上がるか、解約時に戻るお金があるかなども確認します。結婚、出産、住宅購入、独立、子どもの独立、貯蓄の増加などによって必要保障額は変わるため、一度加入した保険をそのままにせず定期的に見直しましょう。

就業不能保険で初心者が陥りやすい失敗

就業不能保険は、仕組みを十分に確認しないまま加入すると、保障が過剰になったり、必要なときに給付条件を満たさなかったりする可能性があります。

傷病手当金を考えずに月収全額を保障する

会社員が、現在の月収をそのまま就業不能保険の給付月額に設定すると、公的保障と重複する可能性があります。

まず傷病手当金の概算額、勤務先の給付、配偶者の収入を確認し、それでも不足する金額を計算することが先です。保障を重ねすぎれば、その分だけ現在の保険料負担が大きくなります。

「病気なら何でも支払われる」と思い込む

就業不能保険では、病名だけで給付の可否が決まるとは限りません。同じ病気でも、入院しているか、在宅療養の指示があるか、仕事を続けられるかなどによって判断が異なる可能性があります。

広告の説明だけでなく、契約概要、注意喚起情報、約款で給付条件を確認しましょう。

フリーランスが売上額を基準に保障額を決める

フリーランスの売上には、仕入れや外注費などの経費が含まれています。休業すれば発生しない経費まで保険で補う必要はありません。

売上ではなく、本人や家族の生活費と、休業中も続く事業固定費を基準に不足額を計算します。所得の変動が大きい場合は、好調だった月の売上だけを基準にしないことも大切です。

医療保険があれば収入減少にも備えられると思う

医療保険の入院給付金は、基本的に入院日数などに応じて支給されます。退院後の療養や、入院を伴わない長期休業では、収入減少を十分に補えない場合があります。

医療費への備えと、働けない間の生活費への備えは、分けて確認する必要があります。

貯蓄をすべて投資に回す

就業不能保険に加入していても、免責期間中は給付金を受け取れません。申請から支払いまで時間がかかることも想定されます。その間に使える現預金は必要です。

生活防衛資金まで投資に回すと、相場が下落しているときに売却を迫られる可能性があります。まず短期の休業を乗り切る現預金を確保し、それでは対応できない長期リスクを保険で補いましょう。

一度加入したら見直さない

必要保障額は、家族構成や働き方、貯蓄額によって変化します。子どもが独立して教育費がなくなったり、住宅ローンを完済したりすれば、必要な給付額を減らせる可能性があります。

一方、会社員からフリーランスになれば傷病手当金や勤務先保障がなくなり、保障を増やす必要が生じることもあります。少なくとも、結婚、出産、住宅購入、転職、独立などのタイミングで見直しましょう。

FP相談の現場で想定される3つの事例

事例1:傷病手当金と貯蓄で対応できる単身会社員

30代の単身会社員で、住宅費を含む基本生活費が月18万円、休業中の実質的な傷病手当金が月16万円になるケースを考えます。毎月の不足額は約2万円です。

勤務先には1年間の休職制度があり、本人は生活費とは別に200万円の現預金を持っています。この場合、傷病手当金の支給中に発生する不足は貯蓄で十分に補える可能性があります。

長期化した場合の不安は残りますが、高額な就業不能保険へ加入する必要性は高くありません。勤務先制度や障害年金を確認したうえで、保険に加入しない、または長期保障だけを少額で用意する判断が考えられます。

事例2:住宅ローンと教育費がある会社員世帯

40代の会社員、パート勤務の配偶者、子ども2人の家庭で、休業中の生活費が月38万円、本人の実質的な傷病手当金が月20万円、配偶者の手取り収入が月8万円とします。

この場合、毎月の不足額は約10万円です。生活防衛資金が120万円なら、単純計算で1年分を補えます。しかし、その後も復職できなければ、傷病手当金の終了後に不足がさらに拡大します。

この家庭では、短期の不足を貯蓄で補い、長期化した場合に月5万~10万円程度を受け取れる保障を検討する余地があります。ただし、団信の疾病保障、勤務先の休職期間、教育費を減らせる時期なども含めて判断します。

事例3:本人が働けないと売上が止まるフリーランス

40代のフリーランスで、休業中の生活費と事業固定費が合計月35万円、配偶者収入などが月10万円あるとします。毎月の不足額は25万円です。

自由に使える現預金が150万円なら、約6か月で不足する可能性があります。就業不能保険を検討する余地は大きいものの、給付開始が180日後の商品では、それまでの資金がほぼなくなってしまいます。

このケースでは、保険へ加入するだけでなく、生活防衛資金と事業予備資金を増やすこと、免責期間を確認すること、業務を代替できる外注先を準備することが必要です。保険と事業継続策を組み合わせることで、休業時の影響を抑えやすくなります。

就業不能への備えを考える5つの手順

就業不能保険が必要か迷ったときは、次の順番で整理すると判断しやすくなります。

ステップ1:公的保障と勤務先制度を確認する

会社員は、傷病手当金の概算額、休職期間、休職中の給与、健康保険組合の付加給付、団体保険などを確認します。

フリーランスは、加入している健康保険に独自給付があるか、労災保険へ特別加入しているかなどを調べます。障害年金についても、長期化した場合の保障として概要を把握しておきましょう。

ステップ2:休業中の支出を計算する

現在の生活費から、通勤費や仕事上の交際費など減らせる支出を差し引きます。そのうえで、治療費、通院交通費、家事・育児の外部委託費など、増える可能性がある支出を加えます。

フリーランスは、休業中も残る事業固定費を別に計算します。

ステップ3:毎月の不足額を算出する

休業中の支出から、傷病手当金、配偶者収入、勤務先給付、継続収入などを差し引きます。

不足額は、傷病手当金を受給している期間と、支給終了後に分けて考えることがポイントです。期間によって収入が変わるため、毎月の赤字額も同じとは限りません。

ステップ4:貯蓄で対応できる期間を確認する

休業時に使える現預金を、毎月の不足額で割れば、おおよその対応可能期間が分かります。

ただし、教育資金、納税資金、事業の運転資金など、使い道が決まっているお金は除外します。NISAなどの投資資産も、価格変動を考慮して現預金と同額には評価しない方が安全です。

ステップ5:家計で負担できない部分を保険で補う

公的保障、勤務先制度、貯蓄を使っても長期の不足が残る場合に、就業不能保険を検討します。

給付額は不足額の全額でなくても構いません。一部を貯蓄で負担し、家計で吸収できない部分だけを保険で補う方法もあります。免責期間、給付期間、対象疾病、精神疾患の取り扱い、保険料まで比較し、無理なく続けられる保障にします。

就業不能保険に関するよくある質問

傷病手当金があれば就業不能保険はいりませんか?

傷病手当金で休業中の生活費を賄え、支給終了後にも対応できる現預金があれば、必要性は低くなります。一方、固定費が高い、貯蓄が少ない、本人の収入への依存度が高い場合は、傷病手当金を受け取っても不足する可能性があります。

フリーランスは必ず加入すべきですか?

必ずしも加入する必要はありません。十分な現預金があり、配偶者の収入や継続収入で生活を維持できる人もいます。ただし、一般的な国民健康保険には傷病手当金が原則ないため、会社員よりも自分で準備すべき金額が大きくなりやすい点には注意が必要です。

生活防衛資金は何か月分あればよいですか?

会社員であれば生活費の6か月から1年分、収入が不安定なフリーランスでは1年分以上が一つの目安になります。ただし、家族構成、配偶者収入、固定費、公的保障によって必要額は変わります。月数だけでなく、就業不能時の不足額を何か月補えるかで判断しましょう。

うつ病でも給付を受けられますか?

商品によって異なります。精神疾患が対象外のもの、給付期間が限定されるもの、所定の入院や障害状態を条件とするものがあります。契約前に精神疾患の対象範囲と給付条件を確認してください。

在宅療養でも給付対象になりますか?

医師の指示による在宅療養を対象とする商品がありますが、単に自宅で休んでいるだけでは対象にならない場合があります。医師の診断、治療への専念、外出や業務に関する条件などを確認する必要があります。

副業や一部の仕事を続けた場合はどうなりますか?

保険会社が定める就業不能状態に該当するかによって異なります。一部でも働いて収入を得ている場合に対象外となる商品もあれば、就業状況や所得減少に応じて判断するものもあります。副業をしている人や複数の事業を営む人は、特に確認が必要です。

就業不能保険の給付金に税金はかかりますか?

被保険者本人が病気やケガにより受け取る給付金は、一般的に所得税の課税対象になりません。ただし、契約者、被保険者、受取人の関係や給付の性質によって取り扱いが異なる可能性があります。個別の判断は保険会社や税務署、税理士などに確認してください。

医療保険と就業不能保険は両方必要ですか?

両方が必ず必要とは限りません。医療費を貯蓄や高額療養費制度で負担できても、収入減少には対応できない人もいます。反対に、休業中の生活費は問題なくても、入院時の諸費用が心配な人もいるでしょう。医療費と収入減少を別々に計算し、家計で負担できない部分だけを保障することが基本です。

まとめ|就業不能保険は公的保障で足りない金額から考える

就業不能保険が必要かどうかは、会社員かフリーランスかという区分だけでは決まりません。働けなくなったときの収入、支出、貯蓄、家族構成を整理し、家計で負担できない不足がどのくらい残るかによって判断します。

会社員には、一定の条件を満たすと傷病手当金が支給されます。ただし、通常の給与が全額保障されるわけではありません。休業中も住民税や社会保険料、住宅費、教育費などの負担は続くため、傷病手当金の額面だけで安心せず、実質的な手取りと生活費を比べることが大切です。

勤務先の休職制度、健康保険組合の付加給付、団体保険などが充実していれば、個人で用意する保障は少なくて済みます。反対に、固定費が高く、本人の収入に家計が大きく依存している世帯では、傷病手当金を受け取っても不足する可能性があります。

フリーランスは、一般的な国民健康保険から傷病手当金を受け取れないため、自分で備える必要性が高くなりやすい立場です。生活費だけでなく、休業中も残る事業固定費を含めて不足額を計算しましょう。ただし、十分な現預金がある、配偶者収入で生活できる、本人が休んでも事業を継続できるといった場合には、保険の必要性を抑えられます。

就業不能への備えは、保険だけで考えるものではありません。有給休暇、公的保障、勤務先制度、生活防衛資金、固定費の削減、業務の代替体制などを組み合わせ、それでも残る長期的な不足を民間保険で補うのが基本です。

保険を選ぶ場合は、毎月の給付額や保険料だけでなく、就業不能状態の定義、免責期間、給付期間、在宅療養や精神疾患の取り扱いまで確認します。「病気になれば受け取れる」と思い込まず、自分の職業や働き方に給付条件が合っているかを見ることが欠かせません。

就業不能保険は、収入を完全に再現するためのものではなく、働けない期間に家計が行き詰まることを防ぐための選択肢です。まずは公的保障と休業中の家計を確認し、毎月の不足額と貯蓄で対応できる期間を計算することから始めましょう。

※本記事は執筆時点の一般的な制度を基に解説しています。傷病手当金、障害年金、労災保険などの支給要件や金額は、加入制度、病状、就業状況などによって異なります。民間保険の保障内容も商品ごとに異なるため、加入先の保険者、勤務先、保険会社などで最新情報をご確認ください。

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