「新NISAを始めたほうがよい」「預金だけではお金が増えない」と聞き、投資を始めるべきか迷っている方は多いのではないでしょうか。物価上昇が続くなか、預貯金だけに頼らず、将来に向けて資産を育てることは大切です。しかし、投資は誰もが今すぐ始めるべきものではありません。
生活費に余裕がない、数年後に使う予定のお金しかない、高金利の借入れを抱えているといった状態で投資を始めると、資産形成どころか家計を不安定にする可能性があります。相場が下落したときに生活費が必要になり、損失が出た状態で売却せざるを得なくなることも考えられます。
ただし、「投資してはいけない人」とは、一生投資に向いていない人のことではありません。多くの場合、現在は家計や資金の準備が整っておらず、投資を始める順番を見直したほうがよいという意味です。
この記事では、金融商品の販売を目的としない独立系FPの視点から、投資を急がないほうがよい人の特徴と、投資を始められる状態か判断するための基準を解説します。新NISAを始めるか迷っている方も、周囲に流されるのではなく、自分の家計とライフプランに合った判断をするための参考にしてください。
投資してはいけない人とは「今は準備が整っていない人」
投資は、将来の資産形成に役立つ手段の一つです。預貯金より高い収益を期待できる一方で、投資信託や株式などには元本割れの可能性があります。必要なときに投資した金額を下回っていても、金融機関が損失を補ってくれるわけではありません。
そのため、投資を始める前に考えたいのは「どの商品を買うか」ではなく、「値下がりしても生活に影響が出ない状態か」という点です。どれほど評価の高い商品を選んでも、生活費が足りなくなって下落時に売却すれば、長期運用を続けられません。
投資を始める基本的な順番は、次のとおりです。
- 毎月の家計収支を安定させる
- 生活防衛資金と近い将来に使うお金を確保する
- 投資の目的と運用期間を決める
- 無理のない金額で投資を始める
新NISAには運用益が非課税になるメリットがありますが、利用できる投資枠をすべて埋めることが資産形成のゴールではありません。NISAは投資による利益に税金がかからない制度であり、損失を防いでくれる制度ではないからです。金融庁も、NISAを利用する場合を含め、ライフプランや今後必要になる資金を考えたうえで資産形成に取り組むことが大切だと案内しています。

「投資しない」と「少額に抑える」は異なる
投資資金を十分に用意できないからといって、必ずしも投資を一切してはいけないわけではありません。生活防衛資金を貯めながら、家計に影響しない範囲で少額の積立投資を経験する方法もあります。
たとえば、毎月3万円の黒字がある人が、その全額を投資に回すのは慎重に考える必要があります。一方、2万5,000円を預貯金として確保し、残りの5,000円で投資の仕組みや値動きを学ぶ方法であれば、家計によっては選択肢になります。
重要なのは、NISAの年間投資枠や他人の積立額を基準にするのではなく、自分が損失を抱えても生活に困らない金額を基準にすることです。投資をしない、少額だけ始める、本格的な投資を始めるという選択肢を分けて考えましょう。
投資前に確認したい3つの余裕
投資を始めてよい状態か判断するには、「資金」「時間」「心」の3つの余裕を確認する必要があります。
資金の余裕とは、投資したお金が一時的に減っても、日々の生活や予定している支出に影響が出ない状態です。時間の余裕とは、値下がりしたときに回復を待てるだけの運用期間があることを指します。心の余裕は、価格変動を受け入れ、相場が下落しても衝動的に売買しないでいられることです。
この3つのうち、特に優先したいのは資金の余裕です。値下がりに耐えられると思っていても、生活費が不足すれば売却するしかありません。気持ちの問題だけではなく、実際の家計が損失に耐えられるかを考える必要があります。
投資してはいけない人の特徴を一覧で確認
投資を急がないほうがよい人の主な特徴は、次の7つです。
| 現在の状態 | 基本的な判断 | 先に取り組みたいこと |
|---|---|---|
| 生活防衛資金がない | 投資を急がない | 当面の生活費を現金で確保する |
| 毎月の収支が赤字、または不安定 | 家計改善を優先する | 固定費や日常支出を見直す |
| 高金利の借入れがある | 返済を優先しやすい | 金利と返済条件を確認する |
| 近い将来に使うお金しかない | 値動きの大きい投資を避ける | 預貯金などで分けて管理する |
| 価格変動を受け入れられない | 投資額とリスクを抑える | 許容できる損失額を決める |
| 投資の目的や期限がない | 目的を整理してから始める | 必要額と使う時期を決める |
| 仕組みを理解せず情報に従う | 大きな金額を投じない | 基礎知識と運用ルールを持つ |
一つでも当てはまれば投資が禁止されるわけではありません。問題の程度や家計への影響は人によって異なるため、どの項目をどの程度改善すべきかを個別に考えることが大切です。
特徴1.生活防衛資金が確保できていない人
投資を始める前に優先したいのが、生活防衛資金の確保です。生活防衛資金とは、病気やけが、失業、休職、売上の減少などで収入が減った場合でも、当面の生活を維持するためのお金を指します。家電の故障や冠婚葬祭、急な帰省など、予定外の支出にも備えられます。
投資信託や株式の価格は、必要なときに上がっているとは限りません。生活防衛資金を用意せずに手元のお金を投資へ回すと、相場が下がっている時期に生活費が不足し、保有商品を売却しなければならなくなる可能性があります。
たとえば、100万円を投資した直後に相場が20%下落すれば、評価額は単純計算で80万円です。その時点で失業し、100万円の生活費が必要になっても、投資資産だけでは不足します。回復を待つ余裕がなければ、20万円の損失を確定させることになりかねません。
投資で避けたいのは、価格が下がること自体ではなく、下落している時期に生活上の事情から売却を強いられることです。日常生活に必要なお金と投資資金を分けることで、相場が不安定なときにも長期的な判断をしやすくなります。
生活費6カ月~1年分はあくまで目安
生活防衛資金は、一般的に生活費の6カ月から1年分が一つの目安とされます。ただし、すべての家庭に同じ金額が必要なわけではありません。
会社員で雇用や収入が比較的安定しており、単身で扶養家族がいない人は、まず3~6カ月分を目標にする考え方もあります。一方、収入の変動が大きい個人事業主やフリーランス、子どものいる世帯、主な収入源が一人に集中している家庭などでは、6カ月から1年分、場合によってはそれ以上を確保したほうが安心です。
必要額を考える際は、次の条件を確認します。
- 雇用と収入はどの程度安定しているか
- 夫婦のどちらかが働けなくなっても収入を維持できるか
- 傷病手当金や雇用保険などを利用できるか
- 毎月の住宅費や教育費はいくらか
- 近くに経済的な支援を頼める親族がいるか
- 病気や失業時に削減できる支出はいくらか
生活防衛資金が十分でなくても、学習を目的に月数千円程度から投資を始める選択はあり得ます。ただし、預貯金より投資を優先してよいという意味ではありません。基本的には現金の確保を中心にし、投資は家計を圧迫しない金額に抑えます。

特徴2.毎月の収支が赤字、または貯蓄が安定しない人
毎月の給料だけでは生活費を賄えず、賞与や貯蓄の取り崩しで補っている場合は、投資より先に家計改善へ取り組む必要があります。収入の範囲内で生活できていない状態で積立投資を始めても、投資を続けるために預貯金を取り崩すことになり、資産全体は増えない可能性があるからです。
一時的な赤字だけで判断する必要はありません。固定資産税や自動車税、旅行、家電の買い替えなどが重なり、特定の月だけ赤字になることはあります。重要なのは、年間の収支で黒字を維持できているか、将来の大きな支出も含めて貯蓄できているかという点です。
投資額を決めるときは、単純に「手取り収入の何%」と考えるのではなく、次の順番で整理します。
- 毎月の基本生活費を確認する
- 税金や家電の買い替えなど、年間支出を月割りで見込む
- 生活防衛資金と近い将来の支出に必要な貯蓄額を決める
- 残った金額から無理のない投資額を設定する
毎月3万円余るように見えても、年間24万円の固定資産税や保険料、修繕費などが発生するなら、月平均2万円は将来の支払いに備える必要があります。この場合、本当の余裕額は月1万円です。家計の黒字額と投資に使える余剰資金は、必ずしも同じではありません。
また、収入減少や急な支出によって積立を減額・停止することは失敗ではありません。生活を守るための合理的な判断です。問題なのは、最初から無理な金額を設定し、生活費を補うために保有資産まで売却する状況です。相場環境にかかわらず続けられる金額を考え、状況が変わったときは柔軟に見直しましょう。
特徴3.リボ払いやカードローンなど高金利の借入れがある人
リボ払いやカードローン、消費者金融など、比較的金利の高い借入れがある人は、投資より返済を優先したほうがよい場合が多くなります。
投資から得られる収益は不確実です。運用がうまくいく年もあれば、資産が大きく減る年もあります。一方、借入金の利息は契約に基づいて発生します。たとえば、年利15%の借入れを残したまま、年率5%程度の収益を期待して投資をしても、家計全体では借入金利の負担が上回ります。そもそも投資で毎年5%の収益を得られる保証もありません。
高金利の借入れがある場合は、まず残高、適用金利、毎月の返済額、完済予定時期を確認します。そのうえで生活防衛資金として最低限の現金を残し、繰り上げて返済できるか検討するのが基本です。
ただし、借入れがある人はすべて投資してはいけない、ということではありません。住宅ローンはリボ払いやカードローンより金利が低い傾向があり、住宅ローン控除を利用しているケースもあります。返済を急いで手元資金がなくなると、急な支出に対応できず、別の高金利借入れが必要になる可能性もあります。
住宅ローンの返済と投資の優先順位は、適用金利、固定金利か変動金利か、住宅ローン控除の適用状況、完済予定年齢、生活防衛資金、退職後の収支などを踏まえて判断します。「借金があるから投資は一切しない」「低金利だから返済は考えなくてよい」と単純に決めないことが大切です。
特徴4.近い将来に使う予定のお金を投資しようとしている人
投資に回さないほうがよい代表的なお金が、数年以内に使う予定の資金です。具体的には、住宅購入の頭金、大学の入学金や学費、結婚費用、車の買い替え資金、住宅の修繕費などが該当します。
株式や株式を中心に運用する投資信託は、短期間で10~20%以上下落することがあります。経済危機などが起きれば、下落幅がさらに大きくなったり、価格の回復に何年もかかったりする可能性も否定できません。どの程度値下がりするか、いつ回復するかを正確に予測することは困難です。
たとえば、3年後に必要な300万円の教育費を株式型の投資信託で運用し、進学直前に20%下落した場合、評価額は単純計算で240万円になります。進学時期を相場の回復まで延期することは難しいため、不足する60万円を別の預貯金や借入れで補わなければなりません。
このように、投資期間の長さだけでなく、お金を使う時期を変更できるかが重要です。老後資金の一部であれば、取り崩す時期や金額を調整できる場合があります。一方、入学金や住宅購入代金などは、支払時期を自由に変えられません。
「長期投資なら必ず安全」というわけではありませんが、運用期間が長ければ、一時的な下落から回復を待つ時間を確保しやすくなります。金融庁が紹介している過去のデータでも、国内外の株式と債券に積立・分散投資した場合、保有期間が長いほど運用結果の振れ幅が小さくなる傾向が示されています。ただし、これは一定の条件による過去の結果であり、全世界株式や先進国株式など、株式だけに投資した場合の将来を保証するものではありません。
資金の使い道に応じた大まかな考え方は、次のとおりです。
| 資金を使う時期 | 基本的な管理方法 |
|---|---|
| 5年以内 | 預貯金など元本の変動が小さい方法を中心にする |
| 5~10年程度 | 必要時期と損失許容度を踏まえ、投資割合を慎重に決める |
| 10年以上先 | 長期・積立・分散投資を検討しやすい |
| 使う時期が決まっていない | 目的を整理し、必要に応じて長期運用を検討する |
この年数は絶対的な基準ではありません。10年以上先に使う予定でも、その全額を株式へ投資してよいとは限らず、5年以内に使う資金でも預貯金以外の選択肢が一切ないわけではありません。必要な時期、必要額、値下がりした場合の代替資金を踏まえて判断します。
また、現在は使う予定がなくても、運用を続けるうちに資金の目的が変わることがあります。子どもの進学や住宅購入が近づいたら、必要なお金を投資資産から預貯金などへ段階的に移すことも必要です。
投資は「使う予定のないお金」で行うというより、「値下がりしている時期に無理に売らなくてもよいお金」で行うと考えると分かりやすいでしょう。短期的な予定資金と長期的な資産形成資金を分けることが、相場に振り回されず投資を続けるための土台になります。
特徴5.価格変動を受け入れられない人
投資信託や株式などに投資すると、購入後の価格は日々変動します。長期的な成長が期待できる投資対象であっても、途中で10%、20%と値下がりすることはあります。経済危機などが起きれば、それを超える下落も想定しなければなりません。
問題は、値下がりが起きること自体ではなく、そのときにどのような行動を取るかです。相場が上がっているのを見て予定以上の金額を投資し、下がり始めると不安になって売却する。この行動を繰り返すと、高いときに買って安いときに売ることになり、長期的な資産形成が難しくなります。
投資を始める前には、「どのくらいの損失までなら生活と気持ちの両面で耐えられるか」を考えておきましょう。100万円を投資するなら、評価額が一時的に80万円や70万円になったときにも保有を続けられるかを想像します。20万円、30万円の含み損を見ると冷静でいられないと思うなら、100万円は現在の自分にとって大きすぎる投資額かもしれません。
リスク許容度とリスク負担能力は別のもの
投資で取れるリスクを考えるときは、「リスク許容度」と「リスク負担能力」を分ける必要があります。
リスク許容度とは、値下がりを心理的にどの程度受け入れられるかという感覚です。リスク負担能力とは、実際に損失が発生しても家計やライフプランを維持できるかという経済的な余力を指します。
たとえば、値下がりをあまり気にしない性格でも、数年後に教育費が必要で預貯金が少なければ、リスク負担能力は高くありません。反対に、十分な資産と安定収入があっても、少し値下がりしただけで眠れなくなる人は、心理的なリスク許容度が低いと考えられます。
どちらか一方だけを見て投資額を決めるのではなく、より低いほうに合わせるのが基本です。「自分は積極的な性格だから株式100%でよい」と判断するのではなく、家計の余裕、投資期間、予定している支出も含めて考えましょう。
値下がりが怖い人にも調整方法はある
価格変動が怖いからといって、すぐに「投資に向いていない」と結論づける必要はありません。投資額や資産配分を調整すれば、受け入れられる範囲までリスクを抑えられる場合があります。
具体的には、毎月の積立額を小さくする、投資資金の一部を預貯金として残す、株式だけに集中させず債券などを組み合わせるといった方法があります。価格を毎日確認すると不安が強くなる人は、自動積立を設定し、確認頻度を月1回や数カ月に1回へ減らすのも一つの方法です。
ただし、値動きの異なる資産を組み合わせても元本割れを完全に防げるわけではありません。自分が耐えられないほどの投資額を、精神力だけで持ち続けようとしないことが大切です。
特徴6.投資の目的・必要額・期限が決まっていない人
「預金より増えそうだから」「周囲がNISAを始めたから」という理由だけで投資を始めると、途中で判断基準を見失いやすくなります。
投資方法は、何のためのお金を、いつまで運用し、いくら準備したいかによって変わります。20年以上先の老後資金と、5年後に必要な住宅購入資金では、選択できる投資対象や取れるリスクが同じではありません。
目的が決まっていなければ、相場が上昇したときに利益を確定すべきか、下落したときに積立を続けるべきか判断できません。値上がりしている商品を次々と買い足し、気づいたときには当初想定していなかった大きなリスクを抱えていることもあります。
投資を始める前に、少なくとも次の3点を整理しましょう。
- 何のために使うお金か
- いつごろ必要になるか
- 目標額はいくらか
たとえば、老後まで20年以上あり、公的年金や退職金だけでは不足すると見込まれる場合は、長期の積立投資を検討しやすくなります。一方、3年後に必要な子どもの大学入学資金なら、増やすことよりも必要額を確保することが優先されます。
目標額が決まったら、必要額のすべてを投資で準備しようとせず、預貯金、退職金、公的年金なども含めて考えます。投資はライフプランを実現するための手段であり、投資すること自体が目的ではありません。


特徴7.仕組みを理解せず、SNSや他人の意見で売買する人
投資経験や専門知識がないこと自体は、投資をしてはいけない理由ではありません。誰でも最初は初心者です。避けたいのは、商品の仕組みやリスクを確認せず、「今後上がるらしい」「有名な人が勧めていた」といった理由だけで大きな金額を投じることです。
SNSや動画では、短期間で大きな利益を得た事例が目立ちやすい一方、その裏にある損失や取ったリスクまでは分からないことがあります。紹介者にとって適した投資方法が、自分の家計や目的にも適しているとは限りません。
特に、次のような状態なら、すぐに購入せず内容を確認したほうがよいでしょう。
- どのような資産に投資する商品か説明できない
- 元本割れ以外にどのようなリスクがあるか分からない
- 手数料を確認していない
- 値上がりすると考える理由が他人の予想だけである
- いつ売却するか決めていない
- 損失が出た場合の対応を考えていない
- 借入れや信用取引を使わないと購入できない
初心者は、商品の値上がりを予測することより、まず長期・積立・分散の基本や手数料、元本割れの可能性を理解することが大切です。少なくとも、自分が何に投資し、どのような理由で値下がりする可能性があるのかを説明できない商品には、大きな金額を投じないほうがよいでしょう。
NISAを利用しても損失は発生する
NISAを利用すれば、対象となる投資から得た売却益や配当・分配金が非課税になります。しかし、NISAは元本を保証したり、価格の下落を防いだりする制度ではありません。
「NISAだから安全」と考えて、近いうちに使う予定のお金まで投資するのは避ける必要があります。また、非課税投資枠を使い切るために、必要以上の金額を投資する必要もありません。NISAは家計と目的に合った投資を行う際に活用する制度であり、利用すること自体がゴールではないからです。
iDeCoにも税制上のメリットがありますが、原則として老齢給付金を受け取れる年齢になるまで資産を自由に引き出せません。税制上のメリットだけで制度を選ぶのではなく、資金を必要なときに使えるかも確認しましょう。
FP相談で想定される事例|教育費を投資に回そうとする子育て世帯
ここで、FP相談で想定される一般的な事例を見てみましょう。特定の相談者の事例ではなく、複数の家庭で起こり得る状況を組み合わせた例です。
共働きの夫婦に小学生の子どもが一人おり、世帯収入は安定しています。毎月の家計は3万円程度の黒字ですが、現預金は100万円ほどです。夫婦は「預金では増えないから」と考え、現預金の一部と毎月の黒字全額をNISAで運用しようとしています。将来的には私立中学への進学や住宅購入も検討していますが、具体的な時期と予算はまだ決まっていません。
この家庭の場合、収入が安定していることだけを見れば、積立投資を始める余地はあります。しかし、現預金が生活防衛資金として十分なのか、進学や住宅購入にいくら必要なのかが整理されていません。毎月の黒字を全額投資すると、急な支出が発生したときに積立を止めるだけでなく、保有資産を売却する可能性があります。
まずは毎月の生活費を確認し、必要な生活防衛資金を決めます。そのうえで、数年以内に必要となる可能性がある教育費や住宅購入費を預貯金で分けて準備します。残った資金のうち、老後など長期間使う予定がない部分を投資へ回すのが基本的な順番です。
一方、生活防衛資金を準備し終えるまで投資を全面的に禁止する必要はありません。毎月3万円の黒字のうち、2万5,000円を預貯金、5,000円を積立投資とするなど、家計を優先しながら少額で経験を積む方法も考えられます。
大切なのは、「投資するか、しないか」の二択にしないことです。現金を優先して確保する時期、少額で経験する時期、本格的に資産形成を進める時期を分ければ、家計の安全性と将来の資産形成を両立しやすくなります。
初心者が陥りやすい投資の失敗例
初心者によく見られるのが、NISAの投資枠を使い切ること自体が目的になるケースです。年初や賞与の時期にまとまった金額を投資したものの、税金や教育費の支払いで現金が不足し、購入した商品を短期間で売却することがあります。
また、相場が上昇しているときに「乗り遅れたくない」と感じ、当初の予定を超えて投資することもあります。その後に価格が下落すると、不安から積立を停止し、保有商品まで売却してしまいます。これは、価格が高いときに買い、安くなってから売る典型的な失敗です。
ほかにも、分散したつもりで似た内容の投資信託を多数購入し、資産全体の構成が分からなくなるケースがあります。商品数を増やせば必ずリスクが下がるわけではありません。投資先が重複していれば、同じ市場や企業へ集中している可能性があります。
こうした失敗を防ぐには、投資を始める前に金額、目的、購入する商品、下落時の対応を決めておくことが有効です。相場が動いてから考えると、感情に左右されやすくなります。
投資を始めてもよい状態か判断するチェックリスト
投資を始める前に、次の項目を確認してみましょう。
- 当面の生活費を預貯金で確保している
- 毎月ではなく年間で家計が黒字になっている
- 数年以内に必要な教育費や住宅資金を分けている
- リボ払いやカードローンなどの高金利借入れがない
- 投資する目的と使う時期が決まっている
- 投資した資産が一時的に減ることを理解している
- 損失が出ても生活に影響しない金額である
- 購入する商品の投資先と主なリスクを説明できる
- 相場が下落したときの対応を決めている
- NISAの非課税投資枠を無理に使い切ろうとしていない
すべてに「はい」と答えられなければ投資できない、というチェックリストではありません。該当しない項目が家計にどの程度影響するかを確認し、投資額を抑える、開始時期を遅らせるなどの判断に利用してください。
まだ投資してはいけない人が先に取り組む5つの手順
手順1.家計の収支を安定させる
まずは毎月の収入と支出を確認し、年間を通して黒字になる状態をつくります。家計簿を細かくつけるのが難しければ、銀行口座やクレジットカードの履歴から、住居費、保険料、通信費などの固定費と、年間に発生する特別支出を確認するだけでも構いません。
手順2.生活防衛資金と近い将来の支出を確保する
生活防衛資金、教育費、住宅購入費、車の買い替え費用などを投資資金と分けます。一つの口座で管理すると区別しにくいため、目的別に口座を分ける方法も有効です。
手順3.高金利の借入れを整理する
借入残高と金利を確認し、高金利の借入れから返済を進めます。ただし、返済によって手元資金がほとんどなくならないよう、最低限の生活資金は残しておきましょう。
手順4.投資の目的・期限・必要額を決める
老後資金、子どもの将来資金、余裕資金の長期運用など、目的を明確にします。必要額のすべてを投資だけで準備しようとせず、預貯金、公的年金、退職金なども含めて計画を立てます。
手順5.無理のない少額から始める
準備が整ったら、家計に影響しない少額から始めます。実際の値動きを経験すると、自分がどの程度の下落に耐えられるか分かることがあります。値下がりして不安が強い場合は、投資をやめる前に、積立額や株式の割合が大きすぎないか見直しましょう。
投資してはいけない人に関するよくある質問
貯金がいくらあれば投資を始められますか?
必要な貯金額は、生活費、雇用の安定性、家族構成、今後の支出によって異なります。一律に「100万円あればよい」とは判断できません。一般的には生活費の数カ月から1年分を一つの目安とし、教育費や住宅購入費など、近い将来の支出を別に確保します。
生活防衛資金を貯めながら少額投資をしてもよいですか?
家計が黒字で、急な支出にもある程度対応できるなら、生活防衛資金の確保を優先しながら少額投資を始める方法はあります。ただし、投資額を増やすために必要な貯蓄を後回しにしないことが前提です。
住宅ローンがあっても投資できますか?
住宅ローンがあるだけで投資してはいけないとは限りません。適用金利、住宅ローン控除、手元資金、返済期間、完済時年齢などによって判断が変わります。変動金利の場合は、将来の金利上昇時にも返済できるかを確認しておきましょう。
NISAなら初心者でも損をしませんか?
NISAを利用しても、購入した株式や投資信託の価格が下がれば損失が発生します。NISAのメリットは、対象となる利益が非課税になることであり、元本が保証されることではありません。
40代・50代からでは運用期間が短すぎますか?
年齢だけで投資の可否は決まりません。50代でも、すぐに全資産を使うとは限らず、老後に20年以上運用を続ける可能性があります。ただし、退職直前に使うお金まで値動きの大きい商品へ投資するのは慎重に考える必要があります。資金を使う時期ごとに、預貯金と投資資産を分けることが大切です。
値下がりが怖い人は投資をしないほうがよいですか?
値下がりを全く受け入れられないなら、無理に投資する必要はありません。一方で、投資額を小さくする、現金の割合を増やす、値動きの異なる資産を組み合わせることで、不安を抑えられる場合もあります。誰にでも同じ投資割合が適しているわけではありません。
まとめ|「今は投資しない」ことも大切な投資判断
投資してはいけない人とは、一生投資に向いていない人ではありません。生活防衛資金がない、家計が赤字、高金利の借入れがある、近い将来に使うお金しかないなど、現時点では投資より優先すべき課題がある人です。
投資を始める前には、資金、時間、心の3つに余裕があるかを確認しましょう。特に重要なのは、相場が下落しても生活費のために売却しなくて済む家計をつくることです。
また、投資の目的と期限を決め、自分が理解できる商品を無理のない金額で利用する必要があります。NISAやiDeCoに税制上のメリットがあっても、家計に合わなければ利用を急ぐ必要はありません。
投資は、始める時期が早いほど常によいとは限りません。家計を整え、必要な現金を確保し、長期間続けられる状態になってから始めることが、結果として安定した資産形成につながります。「今は投資しない」「少額にとどめる」という判断も、自分と家族の生活を守るための大切な投資判断です。







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