はじめに
NISAの普及によって、投資信託で資産形成を始める人が増えています。
投資信託は、少額から分散投資ができる便利な金融商品です。個別株のように一社ずつ企業を選ばなくても、1本の投資信託を購入するだけで、多くの企業や地域にまとめて投資できます。
そのため、初心者にとって投資信託は非常に使いやすい商品です。
しかし、実際に投資信託を選ぼうとすると、多くの方が迷います。
「オルカンが良いと聞いた」
「S&P500の方がリターンが高いらしい」
「ランキング上位の商品を選べば安心なのでは」
「信託報酬が低ければ、それだけで良いのでは」
このような疑問を持つ方は少なくありません。
私がFPとして相談を受ける中でも、「結局、どの投資信託を選べばいいですか」という質問は非常に多くあります。
ただし、この質問にすぐ商品名で答えるのは、本来あまり良い方法ではありません。
なぜなら、投資信託は「商品名」から選ぶものではなく、「自分の運用目的」から逆算して選ぶものだからです。
この記事では、金融商品の販売を行わない独立系FPの立場から、初心者が投資信託を選ぶときに見るべきポイントを、できるだけ分かりやすく解説します。
投資信託選びで初心者が失敗しやすい理由
多くの人は「商品」から選んでしまう
投資信託選びで初心者が最も失敗しやすいのは、いきなり商品から選んでしまうことです。
たとえば、証券会社のランキングを見て上位の商品を選ぶ。SNSや動画で紹介されていた商品を選ぶ。周りの人が買っているから同じものを買う。
こうした選び方が必ず悪いわけではありません。
人気の商品には、低コストで優れた商品もあります。特にオルカンやS&P500に連動する低コストインデックスファンドは、長期投資の有力な選択肢です。
しかし、どれだけ良い商品でも、自分の目的や運用年数に合っていなければ、適切な選択とは言えません。
投資信託選びで本当に大切なのは、「良い商品を探すこと」ではなく、「自分に合う商品を選ぶこと」です。
ランキング上位の商品が自分に合うとは限らない
証券会社のランキングは、多くの人が参考にします。
たしかにランキングを見ると、今どのような商品が人気なのかは分かります。
しかし、ランキング上位の商品が、あなたの家計や人生設計に合っているとは限りません。
ランキングには、販売金額、アクセス数、値上がり率など、さまざまな基準があります。中には、直近の相場で大きく値上がりした商品が上位に入ることもあります。
その場合、すでに価格が上がった後に購入することになり、購入後に下落するリスクもあります。
また、ランキングでは「その商品を何年持つべきか」「どれくらい値下がりする可能性があるか」「どんな人に向いているか」までは分かりません。
だからこそ、ランキングは参考情報の一つにとどめるべきです。
FP相談で実際にあったケース
以前相談を受けた方の中に、ランキング上位の投資信託を購入した方がいました。
その方は、証券会社の人気ランキングを見て、上位に入っていた株式型の投資信託を購入しました。商品自体は決して悪いものではありませんでした。
しかし問題は、その資金の使い道でした。
話を聞いてみると、そのお金は数年後に住宅購入資金として使う可能性がある資金でした。
株式型の投資信託は、長期で運用できる資金には向いています。一方で、数年以内に使う予定がある資金には向きにくい面があります。
なぜなら、株式市場は短期的に大きく下落することがあるからです。
その方は、
「ランキング上位だから安心だと思っていた」
「もう少し運用年数を考えて選べばよかった」
と話されていました。
このケースから分かるのは、投資信託そのものの良し悪しだけでは判断できないということです。
投資信託は、資金の目的と運用期間に合っているかどうかが重要なのです。
投資信託は「最後」に選ぶ
正しい順番は、運用年数から考えること
投資信託を選ぶときは、いきなり商品名を見るのではなく、次の順番で考えることをおすすめします。
1. 運用年数を決める
2. 投資対象を決める
3. 投資地域を決める
4. 最後に具体的な投資信託を選ぶ
この順番が大切です。
なぜなら、運用年数によって取れるリスクが変わるからです。
たとえば、20年以上使う予定のないお金であれば、一時的な値下がりがあっても回復を待てる可能性があります。
一方で、3年後に住宅購入や教育費で使う予定のお金であれば、暴落時に回復を待てないかもしれません。
つまり、同じ投資信託でも、ある人にとっては良い選択になり、別の人にとってはリスクが高すぎる選択になることがあります。
STEP1:まず運用年数を決める
運用年数は投資信託選びの土台
投資信託選びで最初に考えるべきなのは、何年運用できるかです。
これは、リターンを考えるより先に確認すべきポイントです。
なぜなら、投資のリスクは「値下がりすること」だけではなく、「値下がりした時に売らざるを得ないこと」だからです。
長期で運用できる資金であれば、一時的に下落しても時間をかけて回復を待てる可能性があります。
しかし、短期で使う予定の資金であれば、下落した状態で売却しなければならないことがあります。
そのため、投資信託を選ぶ前に、そのお金をいつ使う予定なのかを明確にする必要があります。
5年以内に使うお金は慎重に考える
5年以内に使う予定のある資金は、株式型の投資信託に大きく入れるのは慎重に考えるべきです。
たとえば、住宅購入資金、数年以内の教育費、車の購入資金などです。
株式市場は長期的には成長が期待できますが、短期では大きく下がることがあります。
もし使いたい時期に相場が下落していれば、損失を抱えたまま売却することになります。
このような資金は、現預金や比較的値動きの小さい資産を中心に考える方が安心です。
投資で増やすことよりも、必要な時に確実に使えることを優先するべき資金です。
10年以上運用できるお金は株式も検討しやすい
10年以上運用できる資金であれば、株式型の投資信託も検討しやすくなります。
株式は短期的には大きく上下しますが、長期では企業の成長を取り込める可能性があります。
もちろん10年あれば必ず利益が出るわけではありません。
しかし、5年以内に使う資金よりは、下落から回復する時間を確保しやすくなります。
老後資金や長期の資産形成資金であれば、株式型投資信託を中心に考えることも現実的です。
20年以上運用できるお金は時間を味方にできる
20年以上運用できる資金であれば、株式の比率を高める選択肢も考えやすくなります。
20代、30代、40代の老後資金形成では、運用期間が長いため、短期的な値動きよりも長期的な成長を重視しやすくなります。
長期投資では、時間が大きな味方になります。
積立投資を続けることで、価格が高い時も安い時も買い続けることになります。
これにより、購入タイミングを一度に集中させるリスクを抑えることができます。
ただし、長期運用できるからといって、何でも買ってよいわけではありません。
次に考えるべきなのが、投資対象です。
STEP2:投資対象を決める
投資対象とは何か
投資対象とは、投資信託が何に投資しているかということです。
主な投資対象には、株式、債券、REIT、金などがあります。
投資信託の商品名だけを見ると分かりにくいこともありますが、実際には「どの資産に投資しているか」が値動きの大部分を決めます。
たとえば、同じ投資信託でも、株式に投資するものと債券に投資するものでは、リスクもリターンも大きく違います。
そのため、商品名を選ぶ前に、まずどの資産に投資するのかを決める必要があります。
株式:長期の資産形成に向きやすい
株式は、企業に投資する資産です。
企業が利益を上げ、成長すれば、株価の上昇や配当を通じてリターンが期待できます。
長期の資産形成では、株式は中心的な役割を持ちます。
ただし、株式は値動きが大きい資産です。
景気後退、金融危機、金利上昇、戦争や感染症などの影響で、大きく下落することがあります。
そのため、株式型投資信託は長期で運用できる資金に向いています。
短期間で使う予定のお金を株式中心にするのは、慎重に考えるべきです。
債券:安定性を高めるための資産
債券は、国や企業にお金を貸す形の資産です。
株式に比べると、値動きは比較的小さい傾向があります。
そのため、資産全体の安定性を高める役割があります。
特に50代以降や、老後資金を取り崩す時期が近づいている人にとって、債券は重要な選択肢になります。
ただし、債券も絶対に安全ではありません。
金利が上昇すると債券価格は下がる傾向があります。
また、外国債券の場合は為替の影響も受けます。
債券は安全資産というよりも、株式より値動きを抑えやすい資産として考えるのが現実的です。
REIT:不動産に分散投資する資産
REITは、不動産投資信託です。
投資家から集めた資金でオフィスビル、商業施設、住宅、物流施設などに投資し、賃料収入などを分配する仕組みです。
REITの特徴は、不動産に少額から投資できることです。
不動産はインフレに比較的強い面があります。
物価が上がる局面では、賃料や不動産価格が上昇する可能性があるためです。
一方で、REITは金利上昇に弱い傾向があります。
金利が上がると借入コストが増えたり、投資家がREITより債券を選びやすくなったりするためです。
REITは株式や債券とは異なる値動きをするため、資産全体の一部として活用する考え方があります。
金:守りの役割を持つ資産
金は、株式や債券のように配当や利息を生む資産ではありません。
しかし、インフレ、通貨不安、地政学リスクなどに強い傾向があります。
たとえば、金融市場が不安定な時には、金が買われることがあります。
そのため、金は資産全体を守るための一部として使われることがあります。
ただし、金だけで資産形成をするのは効率的とは言えません。
長期的な成長を期待するなら、株式の方が中心になりやすいです。
金は増やすための資産というより、守るための資産として考えると分かりやすいでしょう。
STEP3:投資地域を決める
同じ株式でも、投資する地域でリターンは変わる
投資対象を株式に決めたとしても、次に考えるべきことがあります。
それが投資地域です。
株式型投資信託には、全世界株式、先進国株式、米国株式、日本株式、新興国株式などがあります。
どの地域に投資するかによって、リスクもリターンも変わります。
近年は、オルカン、先進国株式、S&P500で迷う人が多くなっています。
それぞれの違いを理解しておくことが大切です。
オルカン:世界全体に広く投資する
オルカンとは、一般的に全世界株式に投資する投資信託を指します。
日本、米国、欧州、新興国など、世界中の株式に広く投資できます。
オルカンの考え方はシンプルです。
将来どの国が成長するか分からないから、世界全体に投資する。
この考え方に納得できる人に向いています。
オルカンは1本で地域分散ができるため、初心者にも分かりやすい商品です。
ただし、全世界に投資するということは、好調な地域だけでなく、不調な地域も含めるということです。
そのため、米国株が好調な時期には、S&P500よりリターンが低くなることがあります。
先進国株式:新興国を除いて投資する
先進国株式は、主に米国、欧州、カナダ、オーストラリアなどの先進国に投資する投資信託です。
日本を除く先進国株式に投資する商品も多くあります。
先進国株式の特徴は、新興国を含まないことです。
新興国は成長性が期待される一方で、政治リスク、通貨リスク、制度リスクなどが大きい傾向があります。
そのため、新興国の値動きを避けたい人にとっては、先進国株式が選択肢になります。
近年は新興国株式のリターンが先進国株式に比べて伸び悩んだ時期があり、結果として先進国株式の方がオルカンより高いリターンになっている期間もあります。
S&P500:米国の成長を重視する
S&P500は、米国を代表する大型企業500社で構成される指数です。
Apple、Microsoft、Amazon、NVIDIAなど、世界的な大企業が多く含まれます。
S&P500の魅力は、米国経済の成長を強く取り込めることです。
過去20年を見ると、米国株式は非常に高いリターンを上げてきました。
そのため、S&P500は日本でも非常に人気があります。
ただし、S&P500は米国集中型です。
米国が今後も強ければ高いリターンが期待できますが、米国市場が長期間不調になれば、その影響を大きく受けます。
分散よりも米国の成長を重視する人向けの選択肢です。
オルカン・先進国株式・S&P500の過去リターン比較
過去20年ではS&P500が高かった
過去20年の円ベース・配当込みリターンを見ると、概ね次のような結果でした。
・S&P500:約12.5%
・先進国株式:約11.1%
・オルカン:約10.3%
この期間だけを見ると、S&P500が最も高く、次に先進国株式、オルカンの順です。
ただし、これは過去の実績です。
将来も同じ順番になるとは限りません。
投資信託を選ぶときは、過去のリターンを参考にしつつも、それだけで判断しないことが大切です。
なぜオルカンは先進国株式より低かったのか
オルカンと先進国株式の大きな違いは、新興国が含まれているかどうかです。
オルカンには新興国株式が含まれます。
新興国は、人口増加や経済成長の可能性がある一方で、政治不安、通貨安、制度面の不透明さなどのリスクもあります。
近年は、米国を中心とした先進国株式が強かった一方で、新興国株式は伸び悩む時期がありました。
そのため、新興国を含むオルカンは、先進国株式よりリターンが少し低くなりました。
ただし、これは「新興国を入れるべきではない」という意味ではありません。
将来、新興国が大きく成長する可能性もあります。
オルカンは、どの地域が伸びるか分からないから全部持つ、という考え方です。
一方で、先進国株式は、新興国リスクを避けて先進国中心にする考え方です。
どちらが正しいというより、自分がどちらの考え方に納得できるかが重要です。
STEP4:最後に具体的な投資信託を選ぶ
同じ投資対象でも商品は複数ある
運用年数を考え、投資対象を決め、投資地域を決めたら、最後に具体的な投資信託を選びます。
たとえば、S&P500に投資すると決めても、S&P500に連動する投資信託は複数あります。
オルカンに投資すると決めても、全世界株式型の投資信託は複数あります。
ここで見るべきなのが、信託報酬、純資産総額、分配金、運用実績です。
信託報酬は長期運用で重要
信託報酬とは、投資信託を保有している間にかかる運用管理費用です。
投資信託では、保有しているだけで信託報酬が差し引かれます。
そのため、長期運用では信託報酬の差が大きく影響します。
特にインデックスファンドでは、同じ指数に連動する商品であれば、運用成果に大きな差は出にくいです。
その場合、コストが低い商品ほど有利になります。
ただし、信託報酬が低ければ何でも良いというわけではありません。
純資産総額や運用の安定性も合わせて確認する必要があります。
純資産総額はファンドの規模を見る指標
純資産総額とは、その投資信託に集まっている資金の規模です。
純資産総額が大きいファンドは、多くの投資家に選ばれていることを意味します。
一方で、純資産総額が極端に小さいファンドは注意が必要です。
資金が集まらない場合、繰上償還といって、予定より早く運用が終了する可能性があります。
長期投資を前提にしている場合、途中でファンドが終了してしまうと、別の商品を選び直す必要があります。
そのため、初心者は純資産総額が十分に大きく、資金流入が続いているファンドを選ぶと安心です。
分配金は「多ければ良い」わけではない
投資信託には、分配金を出すタイプと、分配金を出さずに再投資するタイプがあります。
初心者が資産形成を目的にする場合は、分配金なし、または分配を抑えた商品が基本です。
なぜなら、分配金を受け取ると、その分だけ運用資産が減るからです。
特に毎月分配型の投資信託は、安定収入のように見えますが、資産形成期には向かないことがあります。
分配金の一部が元本の払い戻しになっている場合もあります。
長期で資産を増やしたいなら、複利効果を活かしやすい再投資型の商品を選ぶ方が合理的です。
運用実績は長期で見る
運用実績を見るときは、直近1年だけで判断しないようにしましょう。
短期の成績は、相場環境に大きく左右されます。
たまたま直近の相場に合っていた商品が、翌年には大きく下がることもあります。
見るべきなのは、3年、5年、10年といった中長期の実績です。
ただし、過去の運用実績は将来の成果を保証するものではありません。
運用実績は、将来を予測するためではなく、その商品がどのような値動きをしてきたかを確認するために見るものです。
FPとして考える初心者向けの選び方
商品名ではなく家計から考える
FPとして相談を受ける際、私は最初に商品名を聞くことはあまりありません。
それよりも先に確認するのは、家計の状況です。
毎月いくら積み立てられるのか。
生活防衛資金は確保できているのか。
何年後に使う予定のお金なのか。
どのくらいの値下がりなら耐えられるのか。
これらを確認しないまま商品を選ぶと、相場が下がった時に不安になりやすくなります。
投資信託選びは、商品比較ではなく、家計設計の一部です。
初心者はシンプルな商品から始める
初心者は、最初から複雑な商品を選ぶ必要はありません。
まずは低コストで分かりやすいインデックスファンドを中心に考えるのが現実的です。
複雑なテーマ型ファンドや高コストのアクティブファンドは、仕組みやリスクを理解してから検討すれば十分です。
資産形成では、難しい商品を選ぶことよりも、続けられる商品を選ぶことが大切です。
まとめ
投資信託選びで最も大切なのは、商品から選ばないことです。
人気ランキングやSNSの情報は参考になりますが、それだけで判断すると、自分の運用目的に合わない商品を選んでしまう可能性があります。
まずは、何年運用できるのかを考えます。
次に、株式、債券、REIT、金など、どの資産に投資するのかを決めます。
その後、全世界、先進国、米国など、投資地域を考えます。
最後に、信託報酬、純資産総額、分配金、運用実績を確認して、具体的な投資信託を選びます。
重要なポイントを整理すると、次の通りです。
・投資信託は商品名から選ばない
・最初に運用年数を確認する
・次に投資対象を決める
・その後に投資地域を決める
・最後に具体的な投資信託を比較する
・ランキング上位の商品が自分に合うとは限らない
・オルカン、先進国株式、S&P500は投資範囲が違う
・過去20年ではS&P500、先進国株式、オルカンの順にリターンが高かった
・ただし過去の実績は将来を保証しない
・家計や人生設計に合った商品を選ぶことが重要
投資信託は、正しく使えば資産形成の強い味方になります。
しかし、選び方を間違えると、リスクを取りすぎたり、目的に合わない運用になったりします。
大切なのは、人気商品を探すことではありません。
自分の家計、運用期間、人生設計に合った商品を選ぶことです。
金融商品の販売を行わない独立系FPの立場から見ると、投資信託選びで最も重要なのは「納得して長く続けられること」です。
そのためにも、商品名ではなく、運用年数、投資対象、投資地域の順番で考えていきましょう。






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