資産運用を始めると、多くの人が一度は直面するのが株価下落への不安です。
新NISAで積立投資を始めた直後に相場が下がり、投資信託の評価額がマイナスになる。ニュースやSNSでは「まだ下がる」「今回の暴落は過去とは違う」「今すぐ売るべき」といった情報が流れる。そのような状況になると、「このまま積立を続けて大丈夫なのか」「損失が広がる前に売ったほうがよいのではないか」と不安になるのは自然なことです。
しかし、株価が暴落したときの対応は、全員が同じとは限りません。老後まで使わない資金で、幅広く分散された投資信託を積み立てている人と、3年後に使う教育費を個別株へ投資している人とでは、取るべき行動が異なります。
暴落時に避けたいのは、恐怖だけを理由にすべて売却することです。一方で、「長期投資だから何があっても売ってはいけない」と決めつけるのも適切ではありません。生活防衛資金が不足している場合や、近いうちに使うお金を投資していた場合、投資先の前提が崩れた場合には、売却や資産配分の見直しが必要になることもあります。
株価が暴落したら、すぐに売る・買うを決めるのではなく、次の順番で確認することが大切です。
- 生活防衛資金を確保できているか
- 近いうちに使うお金を投資していないか
- 投資対象は十分に分散されているか
- 借入やレバレッジを使っていないか
- 当初の資産配分や運用目的からずれていないか
長期投資で大切なのは、暴落を正確に予測して避けることではありません。暴落が起きても家計を守り、投資方針を維持できる仕組みを平常時から作っておくことです。
この記事では、金融商品の販売を目的としない独立系FPの立場から、株価暴落時に初心者が避けたい行動、売却や積立継続の判断基準、買い増しやリバランスの考え方、年代別の対応について分かりやすく解説します。
株価の暴落とは?長期投資で下落を避けきれない理由
株価の「暴落」という言葉に、法律や金融制度上の統一された定義があるわけではありません。短期間に数%下がっただけでも暴落と感じる人がいれば、株価指数が20%以上下落した状態を指して使う人もいます。
一般には、株式市場が短期間に大きく下落し、投資家の不安が急速に高まる局面を暴落と呼びます。
似た言葉として、一時的に価格が下がる「調整局面」や、高値から一定割合以上下落した「弱気相場」が使われることもあります。ただし、何%下がれば暴落、何%なら調整と明確に区別できるものではありません。
また、同じ時期でも投資対象によって下落率は異なります。世界の株式へ分散する投資信託と、一つの国や業種に集中する商品、個別株では、受ける影響が大きく違います。外貨建て資産を日本円で評価する場合は、株価だけでなく為替の影響も受けます。
株式市場は一直線には成長しない
株式市場が長期的に成長してきたという話を聞くと、緩やかな右肩上がりを想像するかもしれません。しかし、実際の相場は一直線に上昇するものではありません。
株価は、企業の利益や景気だけでなく、次のような要因で大きく変動します。
- 景気後退や企業業績の悪化
- 金融危機や信用不安
- 政策金利の引き上げ
- インフレや原材料価格の上昇
- 戦争や国際情勢の悪化
- 感染症や自然災害
- 市場参加者の過度な期待とその反動
過去にも、ITバブル崩壊、世界金融危機、新型コロナウイルスの感染拡大、インフレと金融引き締めなど、異なる原因による大幅な下落が起きてきました。
その後に市場全体が回復した事例はありますが、回復までの期間は同じではありません。
株価が暴落したらどうする?初心者が避けたい行動と正しい対処法を独立系FPが解説
NISAやiDeCoで資産運用を始めると、多くの人が一度は経験するのが株価下落への不安です。
積立投資を始めた直後に株価が下がり、投資信託の評価額がマイナスになる。ニュースやSNSでは「まだ下がる」「今回は過去と違う」「今すぐ逃げたほうがよい」といった情報が流れる。このような状況になると、「このまま持ち続けて大丈夫なのか」「損失が広がる前に売ったほうがよいのか」と迷うのは自然なことです。
暴落時の対応については、「何があっても売ってはいけない」「むしろ一気に買い増すべき」といった両極端な意見も見られます。しかし、誰にでも同じ対応が適しているわけではありません。
暴落したときに最初に確認すべきなのは、今後の株価予想ではなく、自分の家計、資金を使う時期、投資対象、資産配分です。
生活防衛資金を確保し、長期間使わない余裕資金で、幅広く分散された資産へ積立投資しているなら、相場が下がったという理由だけで慌てて売る必要はありません。一方、数年以内に使う教育費や住宅購入資金を投資していた場合や、一つの個別株へ集中していた場合は、保有を続けることが常に正解とは限りません。
大切なのは、暴落を完璧に予測したり避けたりすることではなく、暴落しても生活を守りながら適切な判断ができるようにしておくことです。
この記事では、株価が暴落したときに最初に確認すること、初心者が避けたい行動、売却を検討したほうがよいケース、積立や買い増しの判断基準、年代別の対応について、金融商品の販売を目的としない独立系FPの立場から解説します。
株価の暴落とは?長期投資で下落を避けきれない理由
「暴落」という言葉に、法律や制度で決められた統一的な定義があるわけではありません。
短期間に数%下がっただけでも暴落と表現されることがあれば、高値から20%以上下落した状態を指すこともあります。一般的には、株価が短期間に大きく下落し、投資家の不安や売りが急速に広がる局面を暴落と呼びます。
何%下がったら暴落なのかという線引きより、その下落によって自分の家計や資産形成にどのような影響が出るのかを考えるほうが重要です。
株式市場は一直線には成長しない
株式市場は、長期的に成長する可能性がある一方、毎年一定の割合で上昇するわけではありません。上昇と下落を繰り返しながら推移します。
株価が大きく下落する原因には、次のようなものがあります。
- 世界的な景気後退や金融危機
- 市場金利の急上昇
- 戦争や地政学的な緊張
- 感染症の拡大
- 企業業績の悪化
- 株価が企業の実力以上に上昇した反動
- 金融機関や企業の信用不安
過去には、ITバブルの崩壊、世界金融危機、新型コロナウイルス感染拡大時の急落、インフレと金融引き締めに伴う下落など、さまざまな原因で株式市場が大きく値下がりしました。
ただし、過去に市場が回復してきたからといって、次の暴落も同じ期間で回復するとは限りません。下落幅や回復までの期間は、投資先の国、株価指数、通貨、投資を始めた時期によって異なります。
特定の企業や業種、テーマに集中した投資では、価格が以前の水準まで戻らない可能性もあります。「暴落後は必ずすぐに回復する」と考えるのではなく、回復に長い時間がかかっても保有を続けられる資金で投資することが基本です。
暴落に耐えられるかは平常時の設計で決まる
資産運用で大切なのは、「暴落が来ないことを祈る」のではなく、「暴落が来ても続けられる設計にしておく」ことです。
生活費や数年以内に使うお金まで投資に回している人は、評価額が下がったとき、精神的にも家計的にも追い込まれやすくなります。お金が必要になれば、株価が下がっている時期でも売却せざるを得ません。
一方、生活防衛資金を確保し、当面使わない余裕資金で積立投資をしている人は、相場が下がっても回復を待つ時間を持てます。
暴落に強い人とは、下落を正確に予測できる人ではありません。相場が下がっても生活が崩れず、事前に決めた方針に沿って判断できる人です。
株価が暴落したらどうする?最初に確認する5項目
株価が大きく下がっても、すぐに売るか買うかを決める必要はありません。まずは証券口座を閉じ、家計と当初の投資計画を確認しましょう。
1.生活防衛資金を確保できているか
最初に確認したいのが、失業、病気、休職、転職、急な修繕などへ備える生活防衛資金です。
一つの目安として、会社員であれば生活費の6か月分程度、収入の変動が大きい自営業者や子育て世帯などは、状況に応じて1年分程度を確保する考え方があります。ただし、必要額は雇用の安定性、家族構成、保険の保障内容、配偶者の収入などによって変わります。
生活防衛資金が十分にあれば、株価が下がっても、日々の生活費を確保するために投資資産を急いで売る必要はありません。
反対に、生活防衛資金がほとんどない場合は、積立投資の継続より現金の確保を優先したほうがよいこともあります。
暴落時に感じる不安の原因は、評価額が減ったことだけではありません。「病気になったらどうしよう」「収入が減ったら投資資産を売るしかない」という家計上の不安も影響します。現金の土台を用意することは、長期投資を続けるための重要な準備です。

2.近いうちに使うお金を投資していないか
次に、投資しているお金をいつ使う予定なのか確認します。
老後まで10年以上使わないお金であれば、一時的な下落から回復を待つ時間を確保できます。一方、数年以内に使う予定のお金を株式や株式投資信託で運用していると、必要な時期に値下がりしている可能性があります。
特に注意したいのは、次のような資金です。
- 子どもの進学に使う教育費
- 住宅の頭金や購入諸費用
- 車の購入費
- 結婚や独立に必要な資金
- 住宅の修繕費
- 退職直後の生活費
使う時期が近いお金まで投資していた場合、「長期投資だから保有を続ければよい」とはいえません。必要になる時期と金額を整理し、現金へ戻すべき部分と、長期運用を続けられる部分を分ける必要があります。
3.投資対象は十分に分散されているか
「暴落時は売らずに回復を待つ」という考え方は、すべての投資対象へそのまま当てはまるものではありません。
世界中の幅広い企業へ分散された投資信託であれば、業績が悪化した企業が構成銘柄から外れ、新しい成長企業が組み入れられることがあります。市場全体の成長を長期的に待つという考え方が成り立ちやすい投資です。
一方、特定の個別株、業種、国、流行のテーマへ集中している場合、その投資対象だけが長期間低迷する可能性があります。企業が経営破綻すれば、株価が回復しないこともあります。
確認したいのは、保有商品の本数ではなく、中身です。複数の投資信託を保有していても、すべてが米国の同じ大型企業を中心に投資していれば、実質的には集中している可能性があります。
「いつか戻る」と無条件に考えず、何へ投資し、どの程度分散されているかを確認しましょう。


4.借入やレバレッジを利用していないか
自分の保有資金以上の取引を行う信用取引やレバレッジ商品は、下落時に損失が急速に拡大する可能性があります。
現物の投資信託であれば、評価額が下がっても、保有を続けて回復を待つ選択ができます。一方、借入を伴う取引では、追加の資金を求められたり、自分の意思にかかわらず強制的に決済されたりすることがあります。
住宅ローンや教育費がある家庭が、損失を取り戻すために借入で追加投資することも避けるべきです。投資の損失を大きなリスクで取り戻そうとすると、家計全体を不安定にしかねません。
借入やレバレッジを利用している場合は、「長期で持てばよい」と単純に判断せず、損失の上限や追加資金の必要性をすぐに確認する必要があります。
5.目標とする資産配分からどの程度ずれているか
株式、債券、現金などの資産配分を決めている場合は、暴落によって現在の比率がどの程度変わったかを確認します。
例えば、株式60%、債券20%、現金20%で運用を始めた後、株式が大きく下落すれば、株式の比率が目標より低くなります。このとき、事前のルールに従って配分を元へ戻すのがリバランスです。
一方、「怖いから株式をすべて売る」「安そうだから現金をすべて株式へ移す」という行動は、当初の計画とは異なる感情的な方針変更です。
目標配分を決めていなかった場合は、現在の値下がり額だけでなく、さらに下落しても生活と投資を続けられるかを考えます。証券口座を何度も確認してしまう、仕事が手につかない、眠れないという状態なら、リスクを取りすぎている可能性があります。
初心者が暴落時にやってはいけない行動
投資で大きな失敗につながりやすいのは、下落そのものより、下落時の焦りから取る行動です。
恐怖だけを理由にすべて売却する
最も避けたいのは、評価額が下がった恐怖だけを理由に、保有資産を一度にすべて売却することです。
暴落中に売却すれば、その価格で損失が確定します。幅広く分散された資産を長期保有する計画だった場合、売却後に相場が反発すると、回復局面へ参加できません。
「もっと下がったら買い直そう」と考えていても、相場が反発すると、「また下がるかもしれない」と感じて買えなくなることがあります。上昇が続いてから慌てて買い戻せば、安い価格で売り、高い価格で買うことになりかねません。
ただし、保有を続ければ必ず価格が戻るという意味ではありません。避けたいのは、家計や投資対象を確認せず、恐怖だけですべて売却することです。近いうちに必要なお金を投資していた場合などは、売却が必要になることもあります。
相場が下がったという理由だけで積立を止める
定額の積立投資では、価格が高いときには少ない口数を、価格が低いときには多くの口数を購入します。
下落したときだけ積立を止め、価格が上がって安心してから再開すると、安い時期に購入するという積立投資の効果を生かしにくくなります。
生活防衛資金を確保し、長期間使わないお金で、幅広く分散された資産へ投資しているなら、相場が下がったという理由だけで積立を止める必要性は高くありません。
一方、収入が減った、家計が赤字になった、近いうちに大きな支出が発生するという場合は、積立額の減額や一時停止も合理的です。
判断基準は「相場が怖いか」ではなく、「現在の家計で無理なく続けられるか」です。
SNSやニュースを見て投資方針を変える
暴落時には、ニュースやSNSで強い言葉が増えます。
「今回は過去と違う」「さらに半値になる」「現金化すべき」「今が人生最大の買い場」といった正反対の意見が同時に流れます。極端で不安を刺激する情報ほど目立ちやすく、拡散されやすい傾向があります。
相場の先行きを正確に予測できる人はいません。専門家同士でも見通しは異なりますし、予想が外れても、その投稿が後から検証されるとは限りません。
暴落時には、情報の量を増やすより、事実と予想を分けることが大切です。必要であれば、証券口座やニュースを見る回数を減らし、投資目的、運用期間、目標配分を記した自分の計画へ立ち返りましょう。
生活費を削って一気に買い増す
暴落は、長期的に成長する資産を以前より安く購入できる局面になる可能性があります。しかし、「価格が下がったから買うこと」と「自分の家計に買う余裕があること」は別問題です。
生活費や教育費、生活防衛資金を投じてしまうと、その後さらに下落したときに家計が苦しくなります。急な出費が発生すれば、安値で売却せざるを得ないこともあります。
相場には「落ちてくるナイフはつかむな」という格言があります。急落中に底値を決めつけ、一度に大きな資金を投じる危険性を示した言葉です。
これは、下落中に一切投資してはいけないという意味ではありません。通常の積立を続けること、事前に決めた範囲でリバランスすることと、底値を狙って生活資金まで一括投入することは分けて考えましょう。
追加投資を検討できるのは、生活防衛資金を確保し、近い将来の支出にも備えたうえで、さらに余裕資金がある場合です。
損失を取り戻そうとして投機へ移る
評価額が下がると、「早く元の金額まで戻したい」という気持ちが強くなります。その結果、インデックス型の投資信託から短期売買へ切り替えたり、レバレッジ商品や信用取引へ手を出したりする人もいます。
しかし、大きな損失を短期間で取り戻すには、一般にさらに大きなリスクを取らなければなりません。成功すれば回復が早まる可能性がある一方、失敗すれば家計へ深刻な影響を与えます。
当初の目的が老後資金の形成なら、暴落によって目的が短期的な損失回復へ変わっていないか確認しましょう。投資方法を見直すこと自体は悪くありませんが、焦りや悔しさを理由に、理解していない商品へ乗り換えるのは避けるべきです。
含み損を理由なく放置する
「売らなければ損ではない」という言葉も、誤解を招くことがあります。
売却前の含み損と、売却後の確定損には税務や取引上の違いがあります。しかし、評価額が下がっている時点で、保有資産の経済的な価値は減っています。売らなければ損失が消えるわけでも、必ず元の価格へ戻るわけでもありません。
幅広く分散された市場全体への長期投資なら、一時的な値下がりを受け入れて保有を続ける考え方があります。一方、業績や財務状態が悪化した個別企業、投資テーマ自体が衰退した商品、過大な手数料がかかる商品を「いつか戻るはず」と持ち続けることは、単なる塩漬けになる可能性があります。
保有を続ける理由が「売るのが怖いから」だけになっていないか、当初の投資理由が現在も成り立っているかを確認しましょう。
暴落時に売却したほうがよいケースもある
暴落時の売却がすべて間違いというわけではありません。相場の先行きを当てるためではなく、家計や投資設計の問題を修正するために売却が必要になることもあります。
近い将来使うお金を投資していた場合
数年以内に必要な教育費や住宅購入資金を株式へ投資していた場合は、必要額と使用時期を確認し、不足が許されない部分を現金へ戻すことも検討します。
「今売ると損だから」と保有を続け、さらに下落すると、必要な支払いができなくなる可能性があります。損失を取り戻すことより、ライフイベントに必要なお金を守ることを優先すべき場面です。
生活防衛資金が不足している場合
失業や病気に対応できる現金がない場合は、積立を止めたり、投資資産の一部を現金化したりして、家計の土台を作り直す必要があります。
生活防衛資金を確保するための売却は、相場への恐怖から逃げる行動ではありません。投資を無理なく続けるための家計修正です。

投資先の前提が崩れた場合
個別株で企業の競争力が失われた、財務状態が著しく悪化した、購入時に期待していた事業が成立しなくなったという場合は、株価が下がっていても売却を検討する理由になります。
投資信託でも、運用方針が大きく変わった、コストが上昇した、当初考えていた分散投資になっていなかったという場合があります。
購入価格まで戻るかどうかではなく、「現在の価格で、この商品を新しく買いたいと思えるか」という視点で確認すると、保有を続ける理由を整理しやすくなります。
リスク許容度を明らかに超えていた場合
株式100%の運用を始めたものの、実際の下落を経験して生活に支障が出るほど不安になった場合は、資産配分が自分に合っていなかった可能性があります。
この場合も、恐怖から一度にすべて売るのではなく、必要な現金を確保したうえで、株式比率を段階的に下げる方法があります。今後の積立先を債券などへ振り向け、売却せずに比率を調整することも選択肢です。
相場が回復する時期を待ってから見直そうとしても、いつ回復するかは分かりません。生活や健康へ影響が出ているなら、相場予想より、継続できる資産配分へ修正することを優先します。
暴落時の判断は、「全部売る」か「何もしない」かの二択ではありません。必要な資金だけを現金化する、積立額を減らす、新しい積立先で配分を調整するなど、家計と目的に応じて対応を分けることが大切です。
暴落時こそ積立投資の意味が表れやすい
積立投資の特徴は、相場の先行きを予測せず、決まった金額を定期的に投資することです。
株価が上がっているときは保有資産の評価額が増えやすく、下がっているときは同じ金額で多くの口数を購入できます。どちらか一方だけではなく、上昇と下落の両方を経験しながら続けることを前提とした方法です。
価格が下がると同じ金額で多くの口数を買える
例えば、毎月1万円を積み立てる場合、1口100円のときには100口購入できます。価格が50円まで下がれば、同じ1万円で200口購入できます。
その後、価格が回復すれば、下落中に購入した口数も資産全体の回復に貢献します。価格が高いときには少なく、安いときには多く買うことで、購入価格を平準化しやすくなるのが定額積立の特徴です。
ただし、価格が下がれば必ず有利になるわけではありません。積立投資によって購入単価を下げても、投資対象の価格が長期的に下がり続ければ利益は得られません。
この考え方が機能しやすいのは、幅広い国や企業に分散され、長期的な成長を期待できる資産へ投資している場合です。経営状態が悪化した個別企業や、一時的な流行で作られたテーマ型商品を買い続けても、価格が以前の水準へ戻らない可能性があります。

積立を続ければ必ず利益が出るわけではない
積立投資は、利益を保証する仕組みではありません。投資する時期を分散することはできますが、投資先の価格下落そのものをなくすことはできないからです。
また、積立期間が長ければ、どのような商品でも利益を得られるわけではありません。大切なのは、積立という購入方法だけでなく、投資先の分散、運用期間、手数料、家計に無理のない投資額を組み合わせることです。
暴落時に積立を継続するかどうかは、次の条件から判断します。
- 生活防衛資金を確保できている
- 近い将来使う予定のないお金で投資している
- 幅広く分散された商品を選んでいる
- 借入やレバレッジを利用していない
- さらに下落しても家計を維持できる
- 当初の投資目的や運用期間が変わっていない
これらを満たしているなら、相場の下落だけを理由に積立を止める必要性は高くありません。反対に、家計が赤字になった、収入が減った、近いうちにまとまった支出があるという場合は、積立の減額や一時停止を検討します。
買い増しは余剰資金と資産配分で判断する
暴落時に通常の積立とは別に追加投資をする場合も、株価の安さより家計の余裕を先に確認します。
余裕資金があったとしても、一度に全額を投入する必要はありません。下落がどこまで続くか、いつ反発するかは分からないためです。
買い増しには、次のような方法があります。
- 通常の積立だけを継続する
- 余裕資金を数回に分けて投資する
- 目標とする資産配分へ戻す範囲で買い増す
- 毎月の積立額を一時的に増やす
追加投資後もさらに下がる可能性があります。「底値で買う」のではなく、「さらに下落しても生活と積立を続けられる金額だけ投資する」と考えましょう。
暴落時のリバランスはどう考える?
リバランスとは、相場の値動きによって崩れた資産配分を、あらかじめ決めた目標へ戻す作業です。
例えば、株式60%、債券20%、現金20%で運用していたところ、株式の下落によって配分が株式50%、債券23%、現金27%になったとします。この場合、株式を買い増すか、債券や現金の一部を株式へ移すことで、目標配分へ近づけます。
リバランスと投資方針の変更は異なる
暴落中に避けたいのは、恐怖や焦りから投資目的や目標配分そのものを急に変えることです。
一方、事前に決めた配分へ戻すリバランスは、投資方針を守るための行動です。株式が下落したときに株式を買い増すことになるため、不安を感じやすいものの、感情ではなく事前のルールに沿って行います。
ただし、暴落を経験して、当初の資産配分が家計やリスク許容度に合っていなかったと分かった場合は、目標配分自体の修正も必要です。この場合は、次の3つを分けて考えましょう。
| 対応 | 内容 |
|---|---|
| リバランス | 事前に決めた目標配分へ戻す |
| 方針変更 | 相場予想や恐怖から投資目的・配分を変える |
| リスクの修正 | 家計や運用期間に合っていなかった設計を直す |
リスクの修正が必要だからといって、株式をすべて一度に売却する必要はありません。今後の積立先を変えたり、複数回に分けて比率を下げたりする方法もあります。
事前に決めたルールで行う
相場の底を確認してからリバランスしようとしても、本当の底値は後からでなければ分かりません。「もっと下がるかもしれない」と待っている間に、株価が大きく反発することもあります。
そのため、次のようなルールを平常時に決めておくと、感情に左右されにくくなります。
- 年1回など決まった時期に確認する
- 目標配分から5ポイント以上ずれたら調整する
- 一度に戻さず数回に分ける
- 新しく積み立てるお金を優先して使う
「5ポイント」は一例であり、すべての人に共通する基準ではありません。資産額、売買コスト、税金、値動きの大きさに応じて決めます。
初心者は積立額による調整でもよい
リバランスでは、必ずしも保有商品を売却する必要はありません。
株式比率が目標より低くなっているなら、新しい積立資金を株式へ多めに配分します。株式比率が高すぎるなら、今後の積立を債券や現金へ回すことで、時間をかけて目標へ近づけられます。
売却せずに調整すれば、課税口座で利益が出ている資産を売る際の税負担や、売買に伴う心理的負担を抑えやすくなります。資産額がまだ小さい積立初期であれば、新規資金による調整だけで対応できる場合もあります。
NISAで暴落したら売却するべき?
NISAは、対象商品から得た売却益や配当・分配金を一定の範囲で非課税にする制度です。非課税であることと、値下がりしないことは別であり、NISAで購入した株式や投資信託にも元本割れの可能性があります。
NISAで含み損が出たときも、「NISAだから売ってはいけない」「非課税枠があるから持ち続ける」と決めるのではなく、家計、使用時期、投資対象を確認して判断します。
NISAの損失は損益通算できない
NISA口座で生じた損失は、税務上ないものとして扱われます。そのため、特定口座や一般口座で得た上場株式等の売却益や配当と損益通算できません。翌年以降へ損失を繰り越すこともできません。
課税口座であれば、一定の条件を満たすことで売却損をほかの利益と相殺できる場合がありますが、NISAでは同じ取扱いにならない点に注意が必要です。
ただし、損益通算できないからといって、価格の回復が期待できない商品を持ち続ける必要はありません。税制よりも、その商品を今後も保有する合理的な理由があるかを優先します。
売却した取得価額分の総枠は翌年以降に再利用できる
2024年以降のNISAでは、保有商品を売却すると、その商品の取得価額に相当する非課税保有限度額を翌年以降に再利用できます。
例えば、NISAで100万円分購入した商品を70万円で売却した場合、翌年以降に再利用できる総枠は、売却額の70万円ではなく取得価額の100万円です。
ただし、売却しても、その年の年間投資枠が復活するわけではありません。また、総枠が翌年に復活しても、売却による損失そのものが取り戻せるわけではありません。
NISAの枠を守ることは目的ではなく、家計に合った資産形成を行うための手段です。「枠がもったいない」という理由だけで、必要な売却や見直しを避けないようにしましょう。
年代別に考える暴落時の対応
暴落時の対応は、年齢だけで決まるものではありません。しかし、資産を使う時期までの長さは、下落への対応を考える重要な要素です。
同じ30%の下落でも、老後まで30年ある人と、翌年から取り崩す人では影響が異なります。
20代・30代の場合
20代・30代は、老後資金であれば長い運用期間を確保しやすい年代です。生活防衛資金を持ち、余裕資金で幅広く分散投資しているなら、積立を継続することが基本的な選択肢になります。
下落中にも購入を続けることで、同じ積立額で多くの口数を保有できます。短期的な評価額より、今後も無理なく積立を続けられる家計を作ることが大切です。
ただし、若いから株式100%でよいとは限りません。結婚、出産、住宅購入、転職などが続く時期でもあり、数年以内に使うお金まで投資すると、下落時に売却が必要になります。
年齢だけでリスクを決めず、今後のライフイベントと、自分が実際に耐えられる下落幅を確認しましょう。
40代・50代の場合
40代・50代は、老後までの運用期間を残しながら、教育費や住宅ローンの負担が大きくなりやすい年代です。50代になると、退職金や年金を受け取る時期も現実的に見えてきます。
暴落したからといって、保有資産をすべて売却する必要はありません。一方、退職直前まで株式比率の高い状態を続け、受取時期に初めてリスクを下げようとすると、その直前に暴落が起きた場合の影響が大きくなります。
iDeCoや企業型DCでは、次の2つを分けて考えます。
- 配分変更:今後の掛金で購入する商品の割合を変える
- スイッチング:すでに保有する商品を売却し、別の商品へ入れ替える
退職が近いからといって、暴落後に保有資産をすべて元本確保型商品へ移すと、下がった価格で損失を確定する可能性があります。退職までの年数と、ほかに保有する預貯金を確認し、平常時から段階的に株式比率を調整することが大切です。
60代以降の場合
60代以降は、資産を増やす段階から、運用しながら使う段階へ移ります。この時期に注意したいのが、取り崩し開始直後の暴落です。
資産価格が下がっているときに生活費として多くの資産を売ると、保有口数が大きく減ります。その後に相場が回復しても、回復の恩恵を受ける資産が少なくなり、資産寿命が短くなる可能性があります。これをシーケンス・オブ・リターンリスクといいます。
対策として、次の方法が考えられます。
- 数年以内に使う生活費を預貯金などで分ける
- 暴落中は預貯金から生活費を支出する
- 相場に応じて取り崩し額や臨時支出を調整する
- 退職前から段階的に株式比率を下げる
- 公的年金や退職金を含めて家計全体を見る
生活費2〜3年分を現金や比較的値動きの小さい資産で確保する方法は一つの目安です。ただし、公的年金で生活費の大部分を賄える人と、資産から毎月多く取り崩す人では必要額が異なります。
長寿化や物価上昇を考えれば、60代になったらすべてを現金にすることが常に適切とは限りません。すぐ使うお金、中期的に使うお金、長期間使わないお金に分け、長期資金の一部は株式などで運用を続ける方法もあります。
FP相談で考える「NISA開始後に15%下落したケース」
例えば、40代の子育て世帯から、「新NISAを始めて数か月で投資信託が15%下がった。これ以上損をする前に、すべて売ったほうがよいか」という相談を受けたとします。
家計を確認すると、投資したお金には老後資金だけでなく、3年後に使う予定の教育費も含まれていました。また、毎月の余剰資金のほとんどを積立投資へ回していたため、預貯金にも十分な余裕がありません。
この場合、「長期投資だからそのまま持ち続けましょう」と一律に判断するのは適切ではありません。
まず、3年後に必要な教育費の金額を確認します。そのうえで、不足が許されない部分は現金へ移すことを検討します。売却によって損失が確定しても、教育費がさらに減るリスクを抑えることを優先するためです。
一方、老後まで使わない部分については、投資信託の中身と分散状況を確認します。長期運用を前提とした幅広い分散投資であり、家計にも無理がなければ、保有と積立を続ける選択肢があります。
さらに、毎月の積立額を減らし、預貯金を増やすように家計を修正します。
このケースで必要なのは、全部売るか、全部持ち続けるかという二択ではありません。教育費と老後資金を分け、それぞれの使用時期に合った置き場所へ戻すことです。
暴落時に不安を感じる背景には、投資対象の問題より、目的の違うお金を一緒に運用していることや、現金不足が隠れている場合があります。
暴落に強い投資設計を平常時に作る
暴落が起きてから最善の対応を考えるのは簡単ではありません。評価額が下がっている最中は、不安や焦りによって判断が偏りやすいためです。
暴落時の行動を安定させるには、平常時に投資額、資産配分、売却条件を決めておくことが有効です。
余剰資金の範囲で投資する
投資に回すのは、生活防衛資金と近い将来使うお金を除いた資金です。
余剰資金のうち何割を投資するかについて、誰にでも当てはまる比率はありません。収入が安定している共働き世帯と、収入変動の大きい自営業者では、必要な現金額が異なります。子どもの進学や住宅購入を控えている場合も、現金を多めに確保する必要があります。
最も多く投資できる金額ではなく、収入が減ったときや株価が大きく下がったときにも継続できる金額を基準にしましょう。
値動きの異なる資産へ分散する
「卵を一つのかごに盛るな」という相場格言があります。一つの企業や資産だけへ集中すると、問題が起きたときに資産全体が大きな影響を受けるため、複数の投資先へ分けようという意味です。
株式は長期的な成長を期待できる一方、短期間に大きく下落することがあります。債券や現金などを組み合わせれば、株式だけを保有する場合より値動きを抑えられることがあります。
ただし、分散すれば損失がなくなるわけではありません。金も価格や為替の影響を受け、REITも株式市場と同時に下落する場合があります。商品名を増やすだけでなく、どのような原因で値動きする資産なのかを確認することが大切です。
暴落時の行動ルールを書いておく
相場が落ち着いているときに、次のようなルールを決めておくと、暴落時に判断しやすくなります。
- 積立を減らすのは家計が赤字になったとき
- 生活防衛資金は投資へ回さない
- 買い増しは年間○万円までにする
- 目標配分から一定以上ずれたらリバランスする
- 個別株は一銘柄当たり資産の○%までにする
- 相場予想だけを理由に全売却しない
- 証券口座の確認は週1回までにする
具体的な数値は、家計や資産額によって異なります。重要なのは、暴落中にその場の感情で決めないことです。
投資の出口から逆算する
投資を始めるときは、何を買うかだけでなく、いつ、何のために使うかも決めておきます。
老後資金であれば、退職の5〜10年前から、株式比率を段階的に下げることを検討します。教育費や住宅資金であれば、使用時期が近づくにつれて現金などへ移し、直前の暴落による影響を抑えます。
資金を次のように分けると、出口を考えやすくなります。
| 使用時期 | 主な置き場所の考え方 |
|---|---|
| すぐに使うお金 | 預貯金など流動性を重視 |
| 数年以内に使うお金 | 元本の値動きを抑えることを優先 |
| 10年以上使わないお金 | リスク許容度に応じて株式なども活用 |
実際の資産配分は、使用時期だけでなく、収入、保有資産、公的年金、家族構成によって変わります。
暴落は自分のリスク許容度を確認する機会
投資を始める前に、価格が20%下がっても大丈夫だと思っていても、実際に数百万円の評価損を目にすると、想像以上に不安を感じることがあります。
リスク許容度には、家計上どこまで損失に耐えられるかという「経済的な許容度」と、値下がりをどこまで受け入れられるかという「心理的な許容度」があります。
収入や預貯金が十分でも、下落が気になって生活に支障が出るなら、その資産配分を何十年も続けるのは難しいでしょう。反対に、心理的には平気でも、近い将来使うお金まで投資していれば、家計上のリスクは高い状態です。
暴落を経験したら、次の点を振り返ります。
- どの程度の下落で不安を感じたか
- 生活費や近い将来の支出に影響があるか
- 投資額が大きすぎなかったか
- 一つの資産へ偏っていなかったか
- 売りたくなった理由は相場か、家計か
- 当初の運用目的と使用時期は変わっていないか
見直すべきなのは、将来の相場予想ではなく、自分で管理できる投資額、資産配分、運用期間、家計です。
まとめ|暴落時に大切なのは「売らないこと」より続けられる設計
株価が暴落したとき、初心者が避けたいのは、恐怖だけを理由にすべて売却すること、相場の下落だけを理由に積立を止めること、生活費を削って買い増すこと、SNSの予想で方針を変えることです。
ただし、保有を続けることが常に正しいわけではありません。近い将来使うお金を投資していた、生活防衛資金が不足している、個別株や特定テーマへ集中している、リスク許容度を大きく超えていたという場合は、売却や積立額の調整が必要になることもあります。
暴落時には、まず生活防衛資金、資金の使用時期、投資先の分散、借入の有無、目標とする資産配分を確認しましょう。そのうえで、保有継続、積立の減額、一部売却、リバランスなどから、目的に合う対応を選びます。
長期投資で大切なのは、相場が下がっても絶対に売らないことではありません。暴落しても生活を守り、必要以上に不安を抱えず、合理的な判断を続けられる仕組みを作ることです。
暴落を完璧に避けることはできません。しかし、生活防衛資金を確保し、使う時期に応じてお金を分け、無理のない投資額と資産配分を決めておけば、暴落によって資産形成そのものを断念する可能性を抑えられます。









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