「NISAは早く始めたほうがよい」「投資をしないと将来困る」といった情報を見て、焦りを感じている人もいるのではないでしょうか。周囲でNISAを始める人が増えると、自分だけ取り残されているように感じることもあります。
NISAは、投資によって得た利益に税金がかからなくなる、資産形成に活用しやすい制度です。しかし、NISAを利用すれば誰でも資産が増えるわけではなく、すべての人が今すぐ始めるべきものでもありません。
生活防衛資金がない、近いうちに使うお金しかない、家計が赤字になっているといった状態で投資を始めると、相場が下落したときに売却せざるを得なくなる可能性があります。損失を経験したことで、投資そのものが嫌になってしまう人もいるでしょう。
大切なのは、NISAを始めたかどうかではなく、自分の家計と目的に合った方法で続けられるかどうかです。この記事では、NISAを始めないほうがいい人の特徴、運用期間や余剰資金の考え方、始める前に整えておきたい条件を、金融商品の販売を目的としない独立系FPの視点から説明します。
結論|NISAを始めないほうがいいのは家計と投資の準備が整っていない人
NISAを始めないほうがいいのは、単に収入が少ない人や、投資経験がない人ではありません。家計と投資の準備が整っておらず、価格が下落したときに生活へ影響が出る人です。
特に、次のいずれかに当てはまる場合は、今すぐ始める必要はありません。
- 生活防衛資金を確保できていない
- 家計が赤字で、投資資金を安定して用意できない
- リボ払いやカードローンなど、高金利の借入がある
- 数年以内に使う予定のお金を投資しようとしている
- 元本割れを受け入れられない
- 購入する商品の内容やリスクを理解していない
- 値下がりすると、すぐに売却してしまいそう
- 短期売買を繰り返すことを前提にしている
一つ当てはまったからといって、将来にわたってNISAを利用できないわけではありません。今は見送り、生活防衛資金を作る、借入を返済する、投資の基本を学ぶなど、必要な準備を進めればよいのです。
また、条件が完全に整うまで待つのではなく、家計に影響しない少額で投資を経験する方法もあります。「始める」「始めない」の二択ではなく、今は見送る、少額で始める、十分な余剰資金で始めるという段階で考えることが大切です。
NISAは「全員が今すぐ始めるべき制度」ではない
NISAには、運用益や売却益などが非課税になるメリットがあります。通常、株式や投資信託から得た利益には税金がかかりますが、NISA口座で得た対象となる利益には税金がかかりません。
税制上有利な制度であることは確かですが、利益が出なければ非課税のメリットは生まれません。投資した商品の価格が下がれば、NISA口座であっても元本割れします。
つまり、「NISAが有利な制度であること」と「現在の自分が投資を始めるべきこと」は、分けて考える必要があります。生活費が足りない人にとっては、税制上のメリットより、すぐに使える預貯金を確保することのほうが優先順位は高くなります。
NISAは投資商品ではなく税制優遇制度
初心者が特に誤解しやすいのが、「NISAを買う」という考え方です。NISAという名前の金融商品があるわけではありません。NISAは、株式や投資信託などを保有するための非課税制度です。
同じNISA口座を使っていても、どの商品を購入するかによって、値動きやリスクは大きく異なります。幅広い国や企業に分散する投資信託もあれば、特定の国、業種、テーマに集中する商品もあります。成長投資枠を利用すれば個別株やETF、REITなどを購入することも可能です。
したがって、「NISAは安全か」「NISAは危険か」という問いだけでは、正確な判断はできません。確認すべきなのは、NISA口座の中で何を購入し、その商品がどのような値動きをする可能性があるかです。
始めるかどうかは年齢より資金の目的で判断する
20代だから積極的に投資すべき、50代だからNISAを始めるのは遅いと、一律に決めることもできません。若くても数年後に住宅購入を予定している人は、頭金や諸費用を投資に回さないほうがよい場合があります。一方、50代でも十分な預貯金があり、使う予定のない資金を10年以上運用できる人なら、NISAを活用する余地があります。
判断の中心になるのは、年齢ではなく、そのお金をいつ、何のために使うのかです。教育費、住宅購入費、車の買い替えなど、使う時期が近いお金には値下がりから回復するまで待つ余裕がありません。老後資金など、長期間使わないお金は、価格変動を受け入れられる範囲で投資を検討できます。
まず確認したいNISAの仕組み
NISAを始めるべきか判断するには、制度のメリットだけでなく、投資枠や損失が出た場合の扱いも理解しておく必要があります。
つみたて投資枠と成長投資枠の違い
2026年7月時点の成人向けNISAには、「つみたて投資枠」と「成長投資枠」があります。
| 項目 | つみたて投資枠 | 成長投資枠 |
|---|---|---|
| 年間投資枠 | 120万円 | 240万円 |
| 主な対象商品 | 長期・積立・分散投資に適した一定の投資信託など | 上場株式、ETF、REIT、一定の投資信託など |
| 非課税保有期間 | 無期限 | 無期限 |
| 非課税保有限度額 | 2つの枠を合計して1,800万円 | 1,800万円のうち1,200万円まで |
| 購入方法 | 原則として積立 | 積立・一括のいずれも可能 |
2つの枠は併用でき、年間では最大360万円まで投資できます。ただし、これは制度上の上限であり、毎年360万円を投資したほうがよいという意味ではありません。月1,000円や5,000円など、金融機関が設定する最低金額以上であれば、家計に合った少額から始めることもできます。
また、NISA口座の商品を売却すると、売却した商品の取得額に相当する非課税保有限度額を翌年以降に再利用できます。ただし、その年に使用した年間投資枠が、売却直後に復活するわけではありません。
制度の詳細は変更される可能性があるため、利用時には金融庁のNISA特設サイトや金融機関の公式情報も確認してください。
NISAのメリットは運用益などが非課税になること
通常の課税口座で株式や投資信託を売却して利益が出ると、原則として税金がかかります。NISA口座では、制度の対象となる運用益や売却益、配当金・分配金が非課税になります。
ただし、上場株式の配当金を非課税で受け取るには、受取方法として株式数比例配分方式を選ぶ必要があるなど、手続き上の条件があります。また、海外資産へ投資する商品では、海外で課される税金まで必ず免除されるわけではありません。
NISAのメリットは、あくまで利益が生じた場合に税負担を抑えられることです。商品の運用成績を良くしたり、損失を補償したりする制度ではありません。
NISAでも元本割れする可能性はある
NISA口座で購入できる株式や投資信託には、価格変動があります。市場全体の下落、為替の変動、企業業績の悪化などによって、購入額を下回る可能性があります。
長期・積立・分散投資を行えば、購入時期や投資先を分けることで、一つのタイミングや資産に集中するリスクを抑えやすくなります。しかし、元本割れがなくなるわけではありません。
「NISAだから安全」「つみたて投資枠の対象商品だから損をしない」と考えず、その商品が何に投資し、どの程度値下がりする可能性があるかを確認する必要があります。
NISAの損失は損益通算・繰越控除ができない
NISAには、利益が非課税になる一方、損失が出たときに税務上の損失として扱われないという特徴があります。
課税口座では、一定の条件を満たせば、株式や投資信託の利益と損失を相殺する「損益通算」ができます。相殺しきれない損失についても、確定申告によって翌年以降へ繰り越せる場合があります。
しかし、NISA口座の損失は、特定口座や一般口座で得た利益との損益通算ができません。損失の繰越控除も利用できません。
長期的な資産形成を目的とする人にとって、この点だけでNISAを避ける必要はありません。ただし、短期売買を繰り返す人や、複数の口座で積極的に取引し、損益通算を重視する人は、すべての取引をNISA口座で行うことが適切とは限りません。
NISAを始めないほうがいい人の特徴
ここからは、NISAを今すぐ始めないほうがよい人の具体的な特徴を確認します。該当する場合も、NISAを永久に利用すべきではないという意味ではありません。何を整えれば利用できる状態になるのかを考えてみましょう。
生活防衛資金を確保できていない人
生活防衛資金とは、病気、失業、休職、家電の故障など、予期しない出来事に備える預貯金です。
生活防衛資金がない状態で投資を始めると、急に現金が必要になったときに、投資商品を売却しなければならない可能性があります。相場が上昇していればよいものの、価格が下がっている時期と重なれば、回復を待てないまま損失を確定することになります。
必要額は、働き方、家族構成、配偶者の収入、住宅ローンの有無などによって異なります。最初から生活費の数か月分を用意するのが難しければ、まず5万円、10万円、生活費1か月分というように段階的に増やしてもよいでしょう。
大切なのは、NISAの積立額を増やすことより、家計の緊急事態で投資を売らずに済む状態を先に作ることです。

リボ払いやカードローンなど高金利の借入がある人
リボ払いやカードローンなど、比較的金利の高い借入がある場合は、一般的にNISAより返済を優先したほうが合理的です。
投資で得られる収益は不確実ですが、借入を返済すれば、その後に発生するはずだった利息負担を確実に減らせます。投資によって借入金利を上回る収益が出る可能性はあるものの、反対に投資で損失が発生し、借入だけが残ることもあります。
ただし、すべての借入を同じように考える必要はありません。住宅ローンのように比較的金利が低く、長期返済を前提とする借入については、手元資金、住宅ローン控除、返済期間、老後の残債などを含めて判断します。
借入の種類、金利、毎月の返済額を確認し、高金利の借入がある場合は、まず返済計画を整えましょう。
数年以内に使う予定のお金しかない人
数年後の住宅購入、子どもの進学、自動車の買い替え、結婚など、使い道と時期が決まっているお金をNISAで運用する場合は慎重な判断が必要です。
株式や投資信託は、必要になる直前に価格が下落する可能性があります。「使う時期までに相場が回復するだろう」と考えても、回復まで何年かかるかは分かりません。
特に、使う時期を延ばせない資金は、普通預金や定期預金など、元本の安全性と換金性を重視した方法で準備するのが基本です。将来必要な金額のすべてを投資するのではなく、「絶対に必要な部分は預貯金、時期や金額を調整できる部分は投資」という分け方も考えられます。
家計が赤字で余剰資金を安定して用意できない人
生活費が毎月の収入を上回り、預貯金を取り崩している状態では、NISAの積み立てを優先すべきではありません。
投資資金を確保するためにクレジットカードの支払いを先送りしたり、生活費を借りたりすれば、家計全体のリスクが高くなります。NISAの利用枠を埋めることより、家計を黒字に戻すことが先です。
まずは銀行口座やクレジットカードの履歴から、毎月の収入と支出を確認します。住宅費、保険料、通信費、車などの固定費を見直し、それでも余裕がない場合は、働き方や公的制度も含めて収入面を検討します。
収支が一時的に悪化しているだけなら、積み立てを休止しても構いません。NISAは家計を犠牲にして続けるものではありません。
元本割れを受け入れられない人
投資では、評価額が一時的に20%、30%と下がることもあります。どの程度下落する可能性があるかは商品によって異なりますが、株式を中心に運用する以上、一定の値下がりは避けられません。
損失が出る可能性を理解していても、実際に評価額が減ると不安になる人は多いものです。毎日価格を確認して眠れなくなる、仕事や家族との生活に影響が出るという場合は、投資額や商品のリスクが自分に合っていない可能性があります。
元本割れを一切受け入れられないお金は、NISAで投資せず、預貯金などで管理する必要があります。少額なら値下がりを受け入れられる場合は、生活に影響しない範囲から経験する方法もあります。
購入する商品の仕組みを理解していない人
「人気ランキングの上位だから」「SNSでおすすめされているから」という理由だけで商品を選ぶのは危険です。購入前に、少なくとも次の点を確認しましょう。
- 何に投資する商品なのか
- 投資先の国や地域はどこか
- 株式、債券、不動産などのうち何を含むか
- 一つの業種やテーマに偏っていないか
- どのようなときに価格が下がるのか
- 信託報酬などの保有コストはいくらか
- 分配金を出す商品か、内部で再投資する商品か
すべての専門用語を理解する必要はありませんが、自分のお金が何に投資されているのかを説明できない商品は、購入を急ぐべきではありません。
値動きを見て感情的に売買してしまう人
相場が上昇していると積立額を増やし、下落すると怖くなって売却する行動を繰り返すと、高いときに多く買い、安いときに手放すことになりかねません。
投資を始める前に、「どの程度下がる可能性を想定するか」「下落したときも積み立てを続けられるか」「どのような場合に売却するか」を考えておく必要があります。
ただし、状況に関係なく積立額を固定し続けることが正しいわけではありません。収入低下や教育費の増加など、家計に変化があれば減額や休止をすることは合理的です。避けたいのは、家計ではなく日々の相場だけを理由に、方針を頻繁に変えることです。
短期売買と損益通算を重視する人
NISAでは非課税保有期間が無期限となっていますが、短期間で売却すること自体は禁止されていません。それでも、頻繁な売買には注意が必要です。
その年に商品を売却しても、使用した年間投資枠は同じ年には戻りません。また、損失が出ても課税口座の利益と損益通算できないため、短期売買を繰り返す人にとって、NISAが常に最適な口座とは限りません。
長期保有する資産をNISA口座、短期売買する資産を課税口座に分けるなど、目的に応じた使い分けが必要です。
「10年以上運用できれば大丈夫」とは限らない
既存記事では、NISAを利用するなら10年以上の運用期間を確保することを一つの目安としていました。長期間使わない資金で投資するという考え方は重要ですが、「10年間運用すれば損をしない」と受け取らないよう注意が必要です。
長期投資で価格変動の影響を抑えやすくなる理由
株式市場は、短期間では景気、金利、企業業績、政治情勢などによって大きく変動します。投資直後に相場が下落すれば、数年間にわたって購入額を下回る可能性もあります。
運用期間が長ければ、下落から回復するまで待てる可能性が高まり、得られた利益を再び運用する複利効果も期待できます。積立投資を続ければ、高い時期にも安い時期にも購入するため、一つのタイミングに資金を集中させることを避けられます。
ただし、これはリスクをなくす方法ではありません。投資先が一つの国や業種に偏っていたり、長期的に成長しなかったりすれば、長く保有しても十分に回復しない可能性があります。
10年という期間は元本保証を意味しない
10年は長期投資を考えるうえで一つの目安になりますが、元本が保証される境目ではありません。購入した商品、積立を始めた時期、売却時期によっては、10年以上運用しても損失が残る可能性があります。
また、10年後に必ず全額を使う予定がある場合、運用期間の最後に大きな下落が起きるリスクも考えなければなりません。必要になる直前まで株式中心で運用するのではなく、時期が近づいたら一部を売却し、預貯金などへ移す方法があります。
使う時期が決まっている資金は徐々に現金化する
たとえば、15年後に大学進学費用として使う資金をNISAで積み立てる場合、15年間ずっと同じ運用を続けるだけでは不十分です。
大学入学まで残り5年、3年と近づいたら、必要額と現在の評価額を確認します。目標額に近づいていれば、一部を現金化して値下がりの影響を受けにくくする方法が考えられます。
「長期投資だから売ってはいけない」のではありません。予定していた目的のために、必要な時期へ向けて計画的に現金化することは、投資の失敗ではなく出口戦略の一部です。
短期間でもNISAを利用できるケース
数年以内に売却する可能性があるからといって、NISAを一切利用できないわけではありません。十分な預貯金があり、投資した資金の使用時期を延ばせる場合や、値下がりしていれば別の資金を使える場合は、選択肢になります。
また、個別株の配当を受け取りながら保有するなど、つみたて投資枠とは異なる使い方もあります。ただし、短期間では価格変動の影響を受けやすく、損失が出ても損益通算できない点を理解しておく必要があります。
「何年以上ならNISAを使ってよい」と年数だけで決めず、損失が出た場合に使用時期を延ばせるか、別の資金で生活や目的を守れるかまで確認することが大切です。
積立額を変更する人はNISAに向いていない?
NISAで積立投資を始めるなら、最初に決めた金額を変えずに続けたほうがよいといわれることがあります。確かに、相場の上昇や下落に反応して積立額を頻繁に変更すると、感情に左右された投資になりやすいため注意が必要です。
しかし、積立額を変更すること自体が悪いわけではありません。家計やライフプランの変化に応じて金額を調整することは、無理なく運用を続けるために必要です。
相場を見て増減させる行動には注意が必要
相場が上昇し、投資で利益を得た人の話を聞くと、積立額を増やしたくなることがあります。反対に、価格が下落して評価額が減ると、積立額を減らしたり、投資をやめたりしたくなるでしょう。
しかし、この行動を繰り返すと、価格が上昇した後に多く買い、安くなったときに買う量を減らすことになりかねません。
積立投資には、毎回同じ金額で購入することによって、価格が高いときには少なく、安いときには多く購入できる特徴があります。これをドルコスト平均法といいます。ただし、この方法も利益を保証するものではなく、価格が長期的に下がり続ければ損失が発生します。
積立額を決めるときは、今後の値上がりを予想するのではなく、現在の収入から長期間無理なく出せる金額を基準にしましょう。
家計やライフイベントに合わせた変更は問題ない
次のような理由で積立額を変更することは、場当たり的な相場判断とは異なります。
- 収入が減った
- 子どもの教育費が増えた
- 住宅を購入して返済負担が増えた
- 育児や介護のため働く時間が短くなった
- 生活防衛資金が不足した
- 昇給や支出の減少によって余裕が生まれた
- 退職が近づき、資産全体のリスクを下げる必要が出てきた
たとえば、毎月3万円の積み立てによって生活費が不足するようになった場合、そのまま続けることが正解ではありません。1万円へ減額し、家計が落ち着いてから元に戻すほうが、長期的には継続しやすくなります。
積立額を固定することより、家計が赤字にならない範囲で投資を続けることを優先しましょう。
積立の減額や休止は失敗ではない
NISAは、毎月必ず積み立てなければならない制度ではありません。積み立てを減額したり、一時的に休止したりしても、それまで購入した商品を保有し続けることは可能です。
家計が苦しい時期に積み立てを継続し、その不足分を借入で補うのは本末転倒です。一度休止して生活防衛資金を立て直し、余裕ができたら再開する方法もあります。
ただし、値下がりだけを理由に積み立てをやめる場合は、当初の運用方針を確認しましょう。価格が下がったときにも投資を続ける前提だったにもかかわらず、不安で耐えられないのであれば、積立額や商品のリスクが自分に合っていなかった可能性があります。
続けられる金額を自動積立する
初心者は、相場を見ながら毎月購入を判断するより、金融機関の自動積立を設定したほうが継続しやすくなります。
積立額は、「最大でいくら出せるか」ではなく、「予想外の支出があっても続けられるか」という視点で決めます。月3万円出せそうでも、まず1万円から始め、数か月後に増額する方法もあります。
定期的に見直す場合は、相場が上昇したときや下落したときではなく、昇給、転職、子どもの進学、住宅購入など、家計の変化を基準にするとよいでしょう。
貯金が苦手な人はNISAを使ってもよい?
貯金が苦手な人にとって、自動積立はお金を先に分ける有効な仕組みです。NISAでも投資信託の自動積立を設定できるため、長期的な資産形成に活用できる可能性があります。
ただし、NISAは貯金そのものではありません。貯蓄がない人が、預貯金を作らずにNISAだけを始めることは避けたほうがよいでしょう。
NISAは預貯金の代わりにはならない
銀行の預貯金とNISA口座で購入する投資商品には、役割の違いがあります。
| 比較項目 | 預貯金 | NISAを利用した投資 |
|---|---|---|
| 主な目的 | 緊急時や近い将来に使う資金の確保 | 長期的な資産形成 |
| 元本 | 預金保険制度の対象範囲では安全性が高い | 元本割れの可能性がある |
| 値動き | 原則として小さい | 市場環境によって変動する |
| 換金 | 比較的すぐに引き出せる | 売却手続きと受け取りまでの日数が必要 |
| 向いているお金 | 生活防衛資金、特別費、近く使うお金 | 長期間使わない余剰資金 |
NISA口座に残高があっても、必要なときに購入額を下回っていれば、十分な備えにならない可能性があります。まずはすぐに使える預貯金を確保し、その後に長期資金をNISAへ回すのが基本です。
まず預貯金の自動積立で生活防衛資金を作る
あるとお金を使ってしまう人は、給料日の直後に貯蓄用口座へ自動で移す仕組みを作ります。勤務先の財形貯蓄や銀行の自動積立定期預金、別口座への定額自動振込などを利用できます。
まず5万円、次に10万円、生活費1か月分と段階的に増やし、家族構成や働き方に応じて必要額を整えます。
生活防衛資金を確保した後は、毎月の積立額を預貯金とNISAに分けることもできます。たとえば、毎月2万円を積み立てられるなら、1万円を預貯金、1万円をNISAに回す方法です。これは一例であり、近く大きな支出を予定している人は預貯金の割合を高くする必要があります。

長期資金を分けられるなら自動積立を活用できる
生活防衛資金や数年以内の支出を確保できている人は、老後など長期の目的に向けてNISAの自動積立を活用できます。
給料日の後に自動で購入するよう設定すれば、毎月購入のタイミングを考える必要がありません。生活口座に残っていると使ってしまう人にとって、お金を先に分ける仕組みとして役立つでしょう。
ただし、これはNISAを貯金として扱うという意味ではありません。短期資金と長期資金を分けたうえで、長期資金の運用先として利用する考え方です。
NISAを「簡単に引き出せない貯金」と考えない
現在のNISAには、原則としていつでも商品を売却できる仕組みがあります。iDeCoのように、原則60歳まで引き出せない制度ではありません。
証券会社によっては、アプリから比較的簡単に売却できます。そのため、「引き出しに手間がかかるから強制的に貯まる」とは限りません。
貯蓄を取り崩してしまう人は、NISAだから使わずに済むと考えるのではなく、生活口座、特別費口座、貯蓄口座、長期運用資金を目的別に管理する必要があります。
NISAを始めてもよい人の判断基準
NISAを始める準備ができているかは、次の表を目安に確認できます。
| 家計・投資の状態 | 判断の目安 |
|---|---|
| 家計が赤字で生活防衛資金もない | 今は見送り、家計改善と預貯金を優先する |
| 生活防衛資金は少ないが、毎月少額の余裕がある | 預貯金を優先しつつ、経験目的の少額投資を慎重に検討する |
| 当面の預貯金があり、長期間使わない資金がある | 無理のない金額で始めやすい |
| 元本割れを受け入れられない | NISAでの投資は見送り、預貯金を中心にする |
| 商品の内容を理解していない | 購入前に投資先、リスク、コストを確認する |
| 値下がりしても生活や予定に影響しない | リスクを理解したうえで検討できる |
特に確認したいのは、次の5点です。
当面使わない余剰資金がある
余剰資金とは、単に今月余ったお金ではありません。生活防衛資金、近く必要になる特別費、数年以内のライフイベント資金を差し引いても、当面使わずに済むお金です。
積立投資の場合も、積立後に生活費が不足しないことを確認しましょう。
値下がりしても生活に影響しない
評価額が下がっても生活費に困らず、住宅購入や教育費などの予定を変更しなくて済むなら、回復を待つ余裕があります。
反対に、値下がりすると必要な支払いができなくなる資金は、余剰資金とはいえません。
商品の投資対象とコストを理解している
初心者がすべての市場を詳しく分析する必要はありません。ただし、何に投資しているか、どの程度分散されているか、どのような費用がかかるかは確認しましょう。
低コストで幅広く分散されたインデックスファンドは、初心者が検討しやすい選択肢の一つです。ただし、インデックス型でも特定の国や業種に集中していれば、値動きが大きくなることがあります。
長期・積立・分散の意味を理解している
長期・積立・分散は、損失をなくす方法ではありません。一つの時期や投資先へ資金が集中するリスクを抑え、長期的な資産形成に取り組みやすくする考え方です。
この特徴と限界の両方を理解したうえで、自分の目的に合う方法を選びます。
売却する目的や時期を考えている
投資は始め方だけでなく、どのように使うかも重要です。老後資金、教育費、住宅購入資金など、目的によって必要になる時期が異なります。
目標額に近づいたときや、使う時期が迫ったときには、一部を現金化して価格変動の影響を減らします。売却は投資の失敗ではなく、目的を達成するために必要な手続きです。
NISA初心者が陥りやすい失敗例
年間投資枠を使い切ろうとして生活費が不足する
つみたて投資枠と成長投資枠を合わせた年間360万円は、投資すべき目標額ではありません。制度上利用できる上限です。
枠が余ることを損だと考え、生活費や預貯金を投資へ回す必要はありません。自分の家計に合う金額を優先しましょう。
SNSで人気の商品を内容を知らずに購入する
過去の運用成績や短期間の値上がりだけを見て商品を選ぶと、価格が下落した理由や、今後どのような値動きがあり得るかを判断できません。
他人にとって適切な商品が、自分の目的や運用期間にも合うとは限りません。人気ランキングは候補を知るきっかけにとどめ、投資先とリスクを確認してから購入します。
インデックス型なら何でも安全だと思う
インデックスファンドの中にも、世界中の株式へ幅広く投資する商品だけでなく、一つの国、業種、テーマへ集中する商品があります。
「インデックス」という名称だけで判断せず、連動を目指す指数の構成や投資地域を確認しましょう。また、株式中心の商品は広く分散されていても、相場全体の下落時には大きく値下がりする可能性があります。

値下がりした直後に積み立てをやめる
相場の下落時は、投資を続けることに不安を感じます。しかし、家計や運用目的に変化がなく、当初から長期投資を予定していたのであれば、値下がりだけを理由に方針を変えるべきか慎重に考える必要があります。
不安が強すぎる場合は、積立額を減らす、預貯金の割合を増やすなど、自分が継続できるリスクまで下げることも選択肢です。
複数の商品を買いすぎて管理できなくなる
分散投資をしようとして、多数の投資信託を購入する人もいます。しかし、似た指数に連動する商品を複数保有しても、投資先が重複し、実質的な分散にならない場合があります。
商品数を増やすことより、資産、地域、業種などがどのように分散されているかを確認することが大切です。
近いうちに使う教育費や住宅資金を投資する
長期的には増えることを期待できても、必要になる直前に価格が下がれば、予定していた金額を用意できません。
使う時期を変更できないお金は預貯金を中心にし、投資する場合も、損失が出ても目的を守れる範囲に限定しましょう。
FP相談で想定される事例|教育費をNISAに回すべきか迷う子育て世帯
たとえば、夫婦と中学生、小学生の子どもがいる家庭で、教育費をNISAで準備すべきか迷っているケースを考えてみます。
預貯金は500万円あり、毎月5万円を教育費として積み立てられます。上の子の大学進学までは5年程度、下の子までは10年程度です。
同じ教育費でも、必要になる時期が異なります。上の子の進学費用は、相場下落から回復するまで待つ時間が限られるため、預貯金を中心に準備するほうが安心です。下の子の教育費は上の子より運用期間がありますが、10年あれば必ず増えるわけではありません。必要最低額を預貯金で確保し、時期や金額を調整できる一部だけをNISAで運用する方法が考えられます。
さらに、大学進学が近づいたら評価額を確認し、目標額に達した部分から段階的に現金化します。教育費全体を「投資するか、しないか」で決めるのではなく、使用時期と必要性によって分けることが判断のポイントです。
NISAで失敗を防ぐための始め方
NISAを利用する準備が整っている場合は、次の順番で検討すると、家計とのずれを防ぎやすくなります。
1.家計の収支と借入を確認する
毎月の手取り収入、生活費、特別費、借入返済額を確認します。家計が赤字の場合や高金利の借入がある場合は、その改善を優先します。
2.生活防衛資金と近い将来の支出を分ける
病気や失業などに備える資金と、教育費、住宅購入費、車の買い替えなど数年以内に使うお金を預貯金で分けます。これらを差し引いた後の余剰資金が投資の候補です。
3.運用目的と期間を決める
「お金を増やしたい」だけでなく、老後、教育、住宅などの目的と、おおよその使用時期を決めます。目的が分かれば、価格変動をどの程度受け入れられるかも考えやすくなります。
4.理解できる商品を少額から選ぶ
投資先、値動きの特徴、手数料を確認できる商品を選びます。最初から年間投資枠を使い切る必要はありません。実際の値動きを経験しながら、自分が継続できる金額を確認します。
5.相場ではなく家計の変化に合わせて見直す
価格が上がった、下がったという理由だけで方針を頻繁に変えるのではなく、収入、支出、家族構成、運用目的の変化に合わせて見直します。
少なくとも年に1回程度、積立額、預貯金、投資商品の割合が現在の家計に合っているか確認するとよいでしょう。
6.出口となる売却時期も考えておく
使う時期が近づいたら、目標額と評価額を確認し、必要に応じて段階的に売却します。すべてを一度に売却する必要はありません。
老後資金であれば、退職前後に必要な生活費を現金で確保し、残りは運用を続けながら少しずつ取り崩す方法もあります。
NISAを始めるか迷ったときの確認リスト
最後に、現在NISAを始めてもよい状態か確認してみましょう。
- 生活防衛資金を確保している
- リボ払いやカードローンなど、高金利の借入がない
- 数年以内に使うお金を投資資金と分けている
- 投資した資金が元本割れする可能性を理解している
- 値下がりしても生活に困らない
- 購入する商品の投資先とコストを確認している
- SNSやランキングだけで商品を決めていない
- 家計に無理のない積立額を設定できる
- 相場ではなく目的に基づいて売却時期を考えられる
すべてに当てはまらなくても、直ちにNISAを諦める必要はありません。生活防衛資金が不足しているなら預貯金を増やす、商品を理解していないなら購入前に調べるなど、不足している条件を一つずつ整えましょう。
まとめ|NISAは無理に始めず、使える家計を先に作る
NISAは運用益などが非課税になる有利な制度ですが、誰もが今すぐ始めるべきものではありません。生活防衛資金がない人、高金利の借入がある人、近いうちに使うお金しかない人、元本割れを受け入れられない人は、投資より先に家計の準備を整える必要があります。
運用期間についても、10年以上あれば必ず利益が出るわけではありません。長期・積立・分散投資はリスクを抑えやすくする考え方ですが、元本割れを防ぐものではないため、必要になる時期が近づいたら段階的に現金化することも大切です。
積立額は、相場の動きではなく家計やライフプランに合わせて決めます。収入減少や教育費の増加があれば、減額や休止をしても構いません。無理をして積み立てることより、生活を守りながら継続できることを優先しましょう。
貯金が苦手な人は、まず預貯金の自動積立で生活防衛資金を作り、その後に長期間使わないお金の運用先としてNISAを検討します。NISAは無理をして利用する制度ではありません。焦って始めるのではなく、家計、目的、運用期間、受け入れられるリスクを確認し、自分が使える状態になってから始めることが、失敗を防ぐ第一歩です。




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