金利が上がると家計はどうなる?住宅ローン・預金・資産運用への影響をFPが解説

「金利が上がると住宅ローンの返済額はいくら増えるのか」「預金金利が上がれば、家計にもメリットがあるのか」「金利上昇は株式や投資信託にとって悪いことなのか」。日本銀行の金融政策や住宅ローン金利がニュースになるなか、このような疑問を持つ人も多いのではないでしょうか。

金利は、金融機関や投資家だけが確認すればよい数字ではありません。普通預金や定期預金で受け取る利息、住宅ローンや自動車ローンで支払う利息、株式や債券の値動き、企業活動、物価などを通じて、私たちの生活に影響しています。

金利が上がると、預金金利は上がりやすくなります。その一方で、住宅ローンなどの借入負担は増えやすくなり、株式や債券を取り巻く環境も変わります。預金が多く借入がない家計と、多額の変動金利型住宅ローンを返済している家計では、同じ金利上昇でも受ける影響は異なります。

したがって、「金利上昇は得か損か」と一つの答えに決めるのではなく、家計が保有する資産と負債の両方を見て判断することが大切です。

この記事では、金融商品の販売を目的としない独立系FPの立場から、金利の基本的な仕組みと、金利上昇が預金、生活、住宅ローン、資産運用に与える影響を初心者にも分かりやすく解説します。

目次

金利が上がると家計はどうなる?最初に結論

金利上昇による家計への主な影響は、預金、借入、資産運用の3つに分けて考えると分かりやすくなります。

預金を持つ人にとっては、受け取れる利息が増えやすくなるためプラスです。一方、変動金利型の住宅ローンなどを利用している人は、支払う利息や返済額が増える可能性があります。

資産運用では、金利上昇が株価の逆風になる場合がある一方、新しく購入する債券の利回りは改善しやすくなります。すでに保有している債券は、市場金利の上昇によって価格が下がることがあるため、「金利が上がればすべての運用商品が有利になる」とはいえません。

家計の項目金利が上がったときの主な影響
普通預金・定期預金受け取れる利息が増えやすい
変動金利型住宅ローン適用金利や利息負担が増える可能性がある
固定金利型住宅ローンすでに借りている人の適用金利は原則として変わらない
新規の固定金利型住宅ローン借入時の金利が上がる可能性がある
株式企業の借入コスト増加などが逆風になることがある
新しく購入する債券利回りが高くなりやすい
保有中の債券市場価格が下がることがある
日常生活企業活動や物価を通じて間接的な影響を受ける

金利が上がったときに確認すべきなのは、預金金利が何%になったかだけではありません。住宅ローンの金利タイプ、毎月の返済余力、近い将来に必要なお金、資産配分、定年時のローン残高まで含めて考える必要があります。

金利とは「お金の値段」

預金では受け取る利息になる

金利とは、お金を貸し借りするときに発生する対価です。「お金の値段」と考えると分かりやすいでしょう。

銀行にお金を預けることは、預金者が銀行に資金を提供することでもあります。銀行は集めた預金を企業や個人へ貸し出すなどして運用し、預金者に利息を支払います。

たとえば、100万円を年1%の定期預金へ1年間預けると、税引前の利息は1万円です。実際に受け取る金額は、利息に対する税金が差し引かれるため1万円より少なくなります。

金利が高いほど受け取れる利息は増えますが、預金先を選ぶときは金利だけでなく、預入期間、中途解約時の条件、預金保険制度の対象かどうかなども確認する必要があります。

ローンでは支払う利息になる

住宅ローンや自動車ローンでは、金融機関からお金を借りるため、借りた側が利息を支払います。

同じ金額を借りても、金利が高いほど毎月返済額や総返済額は増えやすくなります。特に住宅ローンは借入額が大きく、返済期間も長いため、わずかな金利差が家計へ大きな影響を与えることがあります。

つまり金利は、家計にとって次の両方に関係します。

  • 預金では受け取るお金
  • 借入では支払うお金

預金だけを見れば金利上昇は歓迎しやすいものですが、多額の借入があれば、受け取る利息の増加より支払う利息の増加が大きくなる可能性があります。家計への影響は、預金と借入を差し引いて考える必要があります。

金利と利息・利率の違い

日常会話では「金利」「利率」「利息」が同じように使われますが、厳密には意味が異なります。

金利や利率は、元本に対してどの程度の利息が発生するかを割合で示したものです。一方、利息は実際に受け取る、または支払う金額を指します。

たとえば、100万円を年1%で1年間預けた場合、年1%が金利、税引前の1万円が利息です。

住宅ローンでは、金利だけでなく借入残高や返済期間によって利息額が変わります。金利が同じでも、借入額が大きい人や返済期間が長い人ほど、支払う利息の総額は増えやすくなります。

金利の種類を初心者向けに整理

短期金利と長期金利の違い

金利は、お金を貸し借りする期間によって短期金利と長期金利に分けられます。

短期金利は、一般的に1年未満の資金取引に使われる金利です。日本銀行の政策金利の影響を受けやすく、銀行同士の短期的な資金取引や、金融機関の資金調達などに関係します。

長期金利は、一般的に1年以上の資金取引に使われる金利です。日本では10年国債の利回りが代表的な指標として使われます。現在の政策金利だけでなく、将来の景気、物価、金融政策、国債の需要と供給なども反映します。

家計との主な関係を整理すると、次のようになります。

  • 短期金利:変動型住宅ローンや預金金利などに影響しやすい
  • 長期金利:全期間固定型住宅ローンや債券の利回りなどに影響しやすい

ただし、金融商品の金利が一つの指標だけで機械的に決まるわけではありません。金融機関の資金調達環境や商品戦略なども影響します。

固定金利と変動金利の違い

住宅ローンを借りる側から見ると、金利は固定金利と変動金利に分けられます。

固定金利は、契約で定められた期間中の適用金利が変わらない仕組みです。全期間固定型であれば、借入時に返済終了までの金利と返済額が確定します。将来の家計を計画しやすい一方、借入時点では変動金利より高く設定されることがあります。

変動金利は、市場金利や金融機関の基準金利の変化に応じて、適用金利が定期的に見直されます。借入当初の金利は固定金利より低い傾向がありますが、将来の金利上昇によって利息負担が増える可能性があります。

この中間に、当初10年間など一定期間だけ金利を固定する「固定期間選択型」もあります。固定期間が終わった後は、その時点の金利条件で変動金利または新たな固定期間を選択するのが一般的です。

金利タイプ主な特徴注意点
全期間固定型完済まで金利と返済額が確定当初金利が高めになることがある
固定期間選択型一定期間の金利を固定固定期間終了後に返済額が増える可能性がある
変動型当初金利が低めになりやすい金利上昇によって利息負担が増える可能性がある

どの金利タイプが適しているかは、今後の金利を当てられるかではなく、返済額が増えたときに家計が耐えられるかで判断することが大切です。

基準金利と適用金利の違い

住宅ローンの金利を見ると、「店頭金利」「基準金利」「優遇金利」「適用金利」といった複数の数字が表示されていることがあります。

基準金利は、金融機関が住宅ローン金利を設定する基準となる金利です。そこから審査結果や取引条件に応じた優遇幅を差し引いたものが、実際に借り手へ適用される金利です。

たとえば、基準金利が年3%、優遇幅が年2%であれば、適用金利は年1%になります。

基準金利が上がっても優遇幅が変われば、適用金利の上昇幅は同じにならない場合があります。また、新規借入者向けの優遇条件と、すでに返済している人の契約条件が異なることもあります。

ニュースで住宅ローン金利の上昇を知ったときは、広告に表示された新規借入金利だけでなく、自分の契約で適用金利がどのように決まるかを確認しましょう。

名目金利だけでなく物価との関係も確認する

預金金利や債券利回りを見るときは、表示された金利だけでなく、物価上昇との関係も考える必要があります。

たとえば、預金金利が年1%でも、物価が年2%上昇すれば、預金残高は利息によって増える一方、そのお金で買える商品やサービスは実質的に減る可能性があります。

税金を考慮しない単純な考え方では、預金金利1%から物価上昇率2%を差し引いた実質的な利回りはマイナス1%です。実際には預金利息への課税もあるため、手取りで見た差はさらに大きくなる場合があります。

預金金利の上昇は家計にとってプラスですが、「金利が上がったから預金だけで物価上昇に備えられる」とは限りません。

金利は誰がどのように決めるのか

日本銀行の政策金利と物価安定目標

金利は銀行が自由に決めているように見えますが、その背景には日本銀行の金融政策、市場で形成される金利、金融機関の資金調達コスト、借り手の信用力などがあります。

日本銀行は、消費者物価の前年比上昇率2%を「物価安定の目標」として掲げ、金融政策を運営しています。

景気や物価の動向を見ながら政策金利を調整し、金融市場や企業・家計の借入、消費、投資などへ働きかけます。ただし、日本銀行が住宅ローンや預金の金利を直接決めているわけではありません。

2026年8月時点の政策金利

2026年8月7日時点で、日本銀行は、無担保コールレート・オーバーナイト物を1.0%程度で推移するよう促す方針を示しています。

無担保コールレート・オーバーナイト物とは、金融機関同士が担保なしで、原則として翌日まで資金を貸し借りするときの金利です。日本の政策金利を示す代表的な指標として使われています。

2026年3月時点では0.75%程度でしたが、同年6月に1.0%程度へ引き上げられました。7月30日・31日の金融政策決定会合では、1.0%程度に据え置かれています。

政策金利は、今後の景気や物価、賃金、海外経済などによって変更される可能性があります。住宅ローンや資産運用を判断するときは、特定時点の数字だけでなく、金利が家計へ伝わる仕組みを理解しておくことが大切です。

政策金利から預金・ローン金利へ波及する仕組み

政策金利が変更されると、金融機関が短期資金を調達する際の金利や、市場で取引されるさまざまな金利へ影響が広がります。

その結果、次のような流れで家計にも波及します。

  1. 日本銀行が政策金利を変更する
  2. 市場金利や金融機関の資金調達環境が変わる
  3. 預金金利やローン金利に影響が及ぶ
  4. 家計や企業の借入・消費・投資行動が変わる
  5. 景気や物価に影響する

ただし、政策金利が0.25%上がったからといって、すべての預金金利や住宅ローン金利が同時に0.25%上がるわけではありません。

短期金利の影響を受けやすい商品もあれば、長期金利の影響を受けやすい商品もあります。金融機関の競争や経営判断によっても、金利を変更する時期や幅は異なります。

景気・物価・国債利回りも金利に影響する

長期金利は、現在の政策金利だけでなく、将来の金融政策や物価上昇に対する市場の予想も反映します。

将来も物価上昇が続き、政策金利がさらに上がると予想されれば、長期金利が先に上昇することがあります。そのため、全期間固定型の住宅ローン金利は、日本銀行が実際に政策金利を引き上げる前から上がる場合があります。

反対に、景気悪化によって将来の利下げが予想されれば、政策金利が据え置かれていても長期金利が下がることがあります。

「政策金利が変わってから住宅ローン金利が動く」とは限らず、市場の予想を先に織り込んで動く場合があることを理解しておきましょう。

借入金利は信用力・担保・期間でも変わる

家計が実際に利用する借入金利は、世の中の金利だけで決まるわけではありません。

主に次のような要素が影響します。

  • 借入先と商品の種類
  • 借り手の収入や勤続状況
  • 他の借入や返済履歴
  • 担保や保証の有無
  • 借入金額と返済期間
  • 固定金利か変動金利か
  • 金融機関の優遇条件

住宅ローンは住宅を担保とし、審査も行われるため、無担保のカードローンなどより金利が低くなる傾向があります。無担保ローンは貸し手のリスクが高いため、一般的に金利も高くなります。

借入を減らす場合も、すべての借入を均等に返すのではなく、金利の高い借入から優先する方が、利息負担を減らしやすくなります。

金利上昇が預金と日常生活に与える影響

普通預金・定期預金の利息は増えやすい

金利上昇の分かりやすいメリットは、普通預金や定期預金の金利が上がりやすくなることです。同じ金額を預けていても、以前より多くの利息を受け取れる可能性があります。

特に、生活防衛資金や数年以内に使う予定のお金は、価格変動の大きい投資へ回しにくいため、預金金利の上昇は家計にとってプラスになります。

ただし、高い金利が適用される期間や預入額に上限が設けられている商品もあります。キャンペーン金利を見るときは、通常金利へ戻る時期や中途解約の条件も確認しましょう。

預金金利が上がっても家計が楽になるとは限らない

預金金利が上がることと、家計全体が楽になることは同じではありません。

たとえば、預金500万円の金利が年0.2%上がれば、税引前の利息は年間1万円増えます。しかし、住宅ローン残高が3,000万円あり、金利が年0.2%上がった場合、単純計算による当初1年間の利息負担の増加は約6万円です。実際の増加額は返済方式や元金の減少によって異なりますが、借入残高の方が大きければ、家計全体ではマイナスになる可能性があります。

また、食費、光熱費、家賃などが預金利息以上に増えていれば、生活に余裕が生まれたとは感じにくいでしょう。

預金金利の上昇だけを見るのではなく、受け取る利息、支払う利息、物価上昇を合わせて確認することが必要です。

金利上昇は家賃や企業活動にも間接的に影響する

住宅ローンを借りていない人も、金利上昇と無関係ではありません。

企業の借入金利が上がれば、設備投資や新規採用を控えることがあります。借入負担の増加を商品やサービスの価格へ反映する企業もあるでしょう。

賃貸住宅では、所有者の借入負担が増えたことだけを理由に家賃が自動的に上がるわけではありません。ただし、周辺相場、物価、修繕費などと合わせて、更新時や新規契約時の賃料設定に影響する可能性はあります。

生命保険会社の運用環境が改善すれば、貯蓄性保険の予定利率や商品設計に影響する場合もあります。ただし、既存契約の条件が自動的に有利になるとは限りません。金利上昇だけを理由に保険を解約・変更すると不利になることもあるため、保障内容や解約返戻金を確認して判断する必要があります。

金利上昇が住宅ローンに与える影響

変動金利と固定金利は影響の受け方が違う

金利上昇の影響が家計に最も大きく表れやすいのが住宅ローンです。

すでに全期間固定金利で借りている場合は、原則として市場金利が上がっても、契約時に決まった適用金利と返済額は変わりません。ただし、新しく全期間固定金利で借りる人は、借入時の金利が以前より高くなる可能性があります。

変動金利では、契約に定められた時期に適用金利が見直されます。市場金利や金融機関の基準金利が上がれば、利息負担が増える可能性があります。

固定期間選択型では、固定期間中の適用金利は変わりませんが、固定期間の終了後に金利が上昇していれば、その後の返済額が増えることがあります。

変動金利から固定金利への変更や借り換えを考える場合も、金利上昇が始まってからでは固定金利がすでに上がっている可能性があります。「金利が上がりそうになったら固定へ変えればよい」と簡単には考えられません。

金利1%の差で返済額はいくら変わるのか

金利差が住宅ローンへ与える影響を、簡単な条件で比較してみましょう。

4,000万円を35年間、元利均等返済、ボーナス返済なしで借り、全期間を通して金利が変わらないと仮定します。

借入金利毎月返済額の概算総返済額の概算
年1%約11万3,000円約4,742万円
年2%約13万3,000円約5,565万円
約2万円約823万円

金利が1%違うと、毎月の返済額は約2万円、総返済額は約823万円変わる計算です。

ただし、これは当初から完済まで同じ金利が続く場合の比較です。変動金利が返済途中から上がった場合は、その時点の残高、残り期間、金利の上昇幅、返済額の見直し方法によって結果が変わります。

また、実際の借入には融資手数料、保証料、団体信用生命保険の上乗せ金利などが加わる場合があります。金利だけを比べず、諸費用を含む総負担で確認しましょう。

変動金利はいつ見直されるのか

変動型住宅ローンでは、多くの商品で適用金利が半年ごとなど定期的に見直されます。ただし、金利が見直される時期と、毎月返済額が見直される時期が同じとは限りません。

元利均等返済では、適用金利が上がっても毎月返済額を一定期間据え置く商品があります。その場合、返済額が変わっていないからといって、金利上昇の影響を受けていないわけではありません。

毎月返済額のうち、利息へ回る割合が増え、元金の減り方が遅くなることがあります。見た目の返済額が同じでも、ローン内部では負担が増えている可能性があるため、適用金利と元金残高を確認する必要があります。

5年ルール・125%ルールがあっても利息は増える

変動型住宅ローンの元利均等返済では、金融機関によって「5年ルール」や「125%ルール」が採用されています。

5年ルールは、適用金利が見直されても毎月返済額を5年間変えない仕組みです。125%ルールは、返済額を見直す際に、新しい返済額を直前の返済額の125%以内に抑える仕組みです。

たとえば、毎月返済額が10万円であれば、125%ルールによる見直し後の上限は12万5,000円になります。

返済額が急激に増えるのを抑える効果はありますが、増えた利息が免除されるわけではありません。金利が上がれば、毎月返済額のうち利息の割合が増え、元金の返済が遅くなります。金利が大きく上昇した状態が続けば、返済しても元金が十分に減らない可能性があります。

また、すべての金融機関や住宅ローンに5年ルール・125%ルールがあるわけではありません。元金均等返済や一部のネット銀行の商品では、適用されない場合があります。

変動金利で返済している人は、少なくとも次の点を契約書や返済予定表で確認しておきましょう。

  • 適用金利が見直される時期
  • 毎月返済額が見直される時期
  • 5年ルール・125%ルールの有無
  • 基準金利と優遇幅
  • 現在の元金残高
  • 金利が上昇した場合の返済額
  • 定年時点で残る予定のローン残高

5年ルールや125%ルールは、金利上昇による負担をなくす制度ではありません。返済額の急増を遅らせる仕組みと理解し、その間に家計の見直しや返済計画の再確認を進めることが大切です。

FP相談事例|慌てて繰り上げ返済しようとした子育て世帯

金利上昇を不安に感じ、手元資金で返済しようとした

FP相談の現場では、金利上昇のニュースを見て、「今のうちに住宅ローンをできるだけ返した方がよいのではないか」と不安になる人もいます。

たとえば、変動金利型住宅ローンを返済している子育て世帯が、手元にある預貯金の大部分を繰り上げ返済に充てようとしていたケースを考えてみましょう。

繰り上げ返済をすれば、住宅ローン残高が減るため、その後に支払う利息を削減できます。金利が上昇するほど、借入残高を減らす効果も大きくなります。

しかし、家計全体を確認せずに手元資金を大きく減らすと、別の問題が起こる可能性があります。

数年以内に教育費と住宅修繕費が必要だった

この世帯では、数年以内に子どもの進学費用が必要でした。さらに、住宅設備の交換や外壁修繕に備える必要もありました。

手元資金の大部分を繰り上げ返済に使えば、住宅ローンの利息は減らせます。一方、教育費や修繕費が発生したときに預貯金が足りず、教育ローンやカードローンなど、住宅ローンより金利の高い借入を利用することになりかねません。

住宅ローンは、一度返した元金を簡単に引き出せる仕組みではありません。手元資金を減らしてから「やはり教育費が必要だった」と気づいても、同じ条件で再び借りられるとは限らないのです。

返済より先に残すべきお金を分けた

このような場合は、繰り上げ返済の前に、次のお金を確保する必要があります。

  • 病気や失業などに備える生活防衛資金
  • 数年以内に必要となる教育費
  • 住宅の修繕・設備交換費
  • 自動車の買い替え費用
  • 税金や保険料など予定されている支出

これらを差し引き、その後も残る余剰資金の範囲で繰り上げ返済を検討します。

金利上昇への不安がある場合でも、預貯金をすべて返済に回す必要はありません。余剰資金の一部だけを繰り上げ返済し、残りを預金や資産運用に分ける方法もあります。

複数の金利で返済額と定年時残高を試算した

変動金利を利用している場合、現在の金利だけで返済計画を作るのではなく、金利が上昇した場合も試算しておくことが大切です。

たとえば、現在の金利に加えて、適用金利が年0.5%、1%、2%上昇した場合について、次の項目を確認します。

  • 毎月返済額はいくらになるか
  • 年間の返済負担はいくら増えるか
  • 教育費が多い時期と重ならないか
  • 定年時に住宅ローンがいくら残るか
  • 収入減少時にも返済を続けられるか

実際の返済額は契約内容によって異なります。金融機関のシミュレーションを使い、分からない場合は借入先へ確認しましょう。

金利上昇への備えは、金利を予測することではありません。上昇した場合の家計をあらかじめ確認し、耐えられない水準になる前に対策を考えることです。

金利上昇時は繰り上げ返済と資産運用のどちらを優先する?

繰り上げ返済の効果は「確定する利息削減」

繰り上げ返済をすると、その元金に対して将来支払う予定だった利息が減ります。

たとえば、実質的な住宅ローン金利が年1%であれば、繰り上げ返済には、概ね年1%分の利息負担を減らす効果があると考えられます。市場価格の変動によって効果が失われるものではなく、返済した時点で利息削減がほぼ確定することが特徴です。

ただし、正確な効果は残高、残りの返済期間、返済方法、繰り上げ返済の時期によって変わります。返済期間の早い段階ほど、その後の利息を減らせる期間が長いため、効果も大きくなりやすい傾向があります。

投資の期待リターンは確定した利益ではない

一方、資産運用の期待リターンは、将来得られる可能性がある平均的な収益であり、確定した利益ではありません。

住宅ローン金利が年1%で、長期投資の期待リターンを年4〜5%と仮定すれば、数字の上では投資を続ける方が資産を増やせる可能性があります。しかし、実際の投資成果は毎年一定ではありません。運用開始直後に相場が下落し、長期間元本を下回ることもあります。

借入金利と投資リターンを比較するときは、次の違いを理解する必要があります。

繰り上げ返済資産運用
利息削減効果は原則として確定するリターンは確定しない
元本割れはない元本割れの可能性がある
返したお金は原則として引き出せない売却して現金化できるが、相場状況に左右される
住宅ローン残高が減る資産が増える可能性がある
金利が高いほど効果が大きい運用期間が長いほど価格変動を受け止めやすい

投資には税金や手数料がかかる場合もあります。NISAを利用すれば対象となる運用益は非課税ですが、利益そのものが保証されるわけではありません。

住宅ローン控除期間中は効果が変わる

住宅ローン控除を利用している場合、年末の住宅ローン残高をもとに控除額が計算されます。繰り上げ返済で年末残高を減らすと、受けられる控除額が小さくなる可能性があります。

また、繰り上げ返済によって返済期間が短くなり、住宅ローン控除の要件を満たさなくなる場合もあるため、注意が必要です。

実際の控除額は、入居時期、住宅の性能、借入限度額、所得税・住民税の額などによって異なります。住宅ローン金利と控除率だけを見て、「控除期間中は絶対に返済しない方がよい」と決めることもできません。

繰り上げ返済を行う前に、借入先の金融機関へ返済条件を確認し、税務上の取扱いに迷う場合は税務署や税理士へ相談しましょう。

繰り上げ返済を優先しやすいケース

次のような場合は、繰り上げ返済を優先する合理性が高くなります。

  • 住宅ローン金利が上がり、利息負担が大きくなっている
  • 定年時に多額の住宅ローンが残る見込みである
  • 毎月返済額の増加が家計を圧迫している
  • 生活防衛資金や教育費をすでに確保している
  • 投資の値動きに強い不安を感じる
  • 高金利の借入を抱えている

特に住宅ローンより金利の高いカードローンやリボ払いなどがある場合は、一般的にそちらの返済を先に検討します。

資産運用を継続しやすいケース

一方、次の条件がそろっていれば、低金利の住宅ローンを急いで返しすぎず、長期の資産運用を継続する選択肢があります。

  • 住宅ローン金利が比較的低い
  • 毎月返済額が増えても家計に余裕がある
  • 生活防衛資金と近い将来の支出を確保している
  • 10年以上の運用期間を確保できる
  • 投資の価格変動を受け入れられる
  • 定年時の住宅ローン残高を計画的に減らせる

繰り上げ返済か投資かを二者択一にせず、毎月の積立投資を続けながら、余剰資金の一部を返済する方法もあります。

どちらが適しているかは、金利差だけでは決まりません。家計の安全性、資金の使用時期、運用期間、心理的な負担まで含めて判断しましょう。

住宅ローンは定年までに完済すべきか

年金生活で住宅ローンが残るリスク

現役時代は給与収入から住宅ローンを返済できますが、定年後は収入が年金中心になるケースが一般的です。収入が減った後も住宅ローンが残っていると、老後の固定費が重くなります。

老後には、医療費、介護費、住宅修繕費など、時期や金額を正確に予測しにくい支出もあります。住宅ローン返済が続けば、こうした支出へ柔軟に対応しにくくなります。

そのため、定年退職時に住宅ローンを完済できる状態を目指すことは、老後の家計を安定させるうえで基本的に望ましい考え方です。

定年時の残高から逆算する

大切なのは、完済直前になって初めて考えるのではなく、早い段階から定年時の残高を把握することです。

現在の返済予定表を確認し、定年時点で次の状態になるかを試算します。

  • 住宅ローン残高はいくらか
  • 退職後も毎月いくら返済するのか
  • 年金収入に占める返済額の割合はどの程度か
  • 完済まで何年かかるのか
  • 金利上昇時には残高や返済額がどう変わるか

定年時に残高が大きい場合は、現役中に一部繰り上げ返済を行う、返済用の資金を別に準備する、毎月返済額を見直すなどの方法があります。

退職金をすべて返済に使わない

「退職金で残りの住宅ローンを完済すればよい」と考える人もいます。しかし、退職金の大部分を返済に使い、老後の預貯金がほとんど残らなければ、家計の安全性が下がります。

定年時には、住宅ローン残高だけでなく、次のお金も確認する必要があります。

  • 毎月の生活費を補う資金
  • 医療・介護への備え
  • 住宅の修繕費
  • 自動車の買い替え費用
  • 子どもへの援助や冠婚葬祭費
  • 緊急時に使える現金

これらを確保したうえで、完済、一部返済、返済継続を比較します。

定年時完済は有力な目標ですが、老後資金を使い切ってまで完済することが、すべての人に適しているわけではありません。

金利上昇時に住宅ローンを借り換えるべきか

変動から固定への借り換えが有効なケース

変動金利の上昇が不安な場合、固定金利への借り換えを検討する方法があります。

固定金利へ変更すれば、その後の返済額を確定できるため、教育費など大きな支出を控えた家庭でも計画を立てやすくなります。今後の金利上昇による返済額増加に耐えにくい家計では、安心を得るために固定金利を選ぶ考え方もあります。

ただし、借り換え時点では、固定金利もすでに上昇している可能性があります。借り換え後の金利が現在の変動金利より高ければ、当面の返済額は増えます。

固定金利への変更は、必ず返済総額を減らす方法ではありません。将来の返済額を確定するために、現在より高い金利を受け入れる選択でもあります。

金利差だけでなく諸費用と保障内容を確認する

借り換えでは、新しい住宅ローンの金利だけでなく、次の項目を確認します。

  • 現在の住宅ローン残高
  • 残りの返済期間
  • 借り換え後の毎月返済額と総返済額
  • 融資事務手数料や保証料
  • 抵当権の抹消・設定にかかる登記費用
  • 司法書士への報酬
  • 団体信用生命保険の保障内容
  • 住宅ローン控除への影響

金利が下がっても、残高や残り期間が少なければ、諸費用を回収できないことがあります。反対に、返済額が少し増えても、保障内容の充実や返済額の確定に価値を感じる人もいるでしょう。

借り換えの目的を「支払総額を減らす」「金利上昇リスクを抑える」「団体信用生命保険を見直す」などに分けて考えることが大切です。

金利上昇が資産運用に与える影響

株式はなぜ金利上昇の影響を受けるのか

一般に、金利上昇は株式市場の逆風になりやすいといわれます。

企業の借入金利が上がれば、支払利息が増えて利益を圧迫する可能性があります。設備投資や事業拡大を控える企業が増えれば、将来の成長にも影響します。

また、預金や債券の利回りが上がると、価格変動の大きい株式を保有する魅力が相対的に低下し、株式から債券などへ資金が移る場合があります。

特に、現在の利益に比べて将来の成長期待を大きく織り込んでいる企業は、金利上昇の影響を受けやすい傾向があります。

金利上昇でも株価が上がることはある

金利が上がれば、必ず株価が下がるわけではありません。

景気や企業業績が好調で、需要や賃金の増加を背景に金利が上がっている場合は、企業利益の成長が金利上昇のマイナスを上回り、株価が上昇することもあります。

銀行などは、貸出金利と預金金利の差が広がることで収益が改善する可能性があります。ただし、保有債券の価格下落、貸倒れの増加、資金需要の減少などがマイナスになる場合もあり、「金利上昇なら銀行株が必ず上がる」とは限りません。

初心者が金利のニュースだけを見て、特定の業種へ資産を集中させるのは注意が必要です。長期・分散を基本とし、資産形成の目的に沿って投資を続けることが大切です。

債券は金利が上がると価格が下がりやすい

債券価格と市場金利は、一般的に反対方向へ動きます。

たとえば、年1%の利息を受け取れる既発債を保有しているときに、新しく年2%の債券が発行されれば、投資家は新しい債券を選びやすくなります。そのため、年1%の既発債を途中で売るには、価格を下げる必要が生じます。

一方、金利上昇後に新しく債券を購入する人にとっては、以前より高い利回りを得られる可能性があります。

個別債券と債券投資信託は扱いが異なる

個別債券は、発行体が破綻せず、途中売却せずに満期まで保有できれば、原則として決められた利息を受け取り、満期に額面金額で償還されます。ただし、途中売却する場合は市場価格によって元本割れすることがあります。

債券投資信託は複数の債券を入れ替えながら運用しており、通常は商品全体として決まった満期がありません。そのため、「満期まで待てば必ず額面で戻る」とは考えられません。

また、外国債券や海外債券ファンドには、金利変動に加えて為替変動の影響もあります。表面上の利回りだけでなく、価格変動、信用リスク、為替、手数料を確認する必要があります。

金利上昇時は、預金、株式、債券のどれか一つへ極端に偏らせるのではなく、それぞれの役割を見直す機会と考えましょう。

金利上昇時に初心者が陥りやすい失敗

手元資金をすべて繰り上げ返済に使う

繰り上げ返済には確実な利息削減効果がありますが、手元資金を失うデメリットがあります。生活防衛資金や近い将来の支出を確保してから実行することが基本です。

5年ルールがあれば安心だと思う

毎月返済額が据え置かれていても、適用金利が上がれば利息負担は増えます。元金の減り方が遅くなっていないか、返済予定表や残高を確認しましょう。

預金金利だけを見て資金を移す

高い預金金利には、期間、金額、取引条件などが設けられている場合があります。また、物価上昇率が預金金利を上回れば、実質的な購買力は低下します。

預金は生活防衛資金や短期資金の置き場所として有効ですが、金利だけを理由に長期資産まですべて預金へ移す必要はありません。

金利上昇を理由に株式をすべて売却する

金利上昇は株式の逆風になる場合がありますが、株価は企業業績や景気、市場心理など複数の要因で動きます。

金利だけで売却すると、その後の回復や経済成長を取り逃す可能性があります。資金の使用時期とリスク許容度に問題がなければ、長期・分散投資の方針を維持することも選択肢です。

高い利回りだけを見て債券を選ぶ

利回りが高い債券ほど、発行体の信用リスクや為替リスクが大きい場合があります。金利上昇時に利回りの高さだけを見て購入せず、発行体、満期、通貨、途中売却の可能性を確認しましょう。

退職金での一括完済を前提にする

将来受け取る退職金の金額や制度は変わる可能性があります。また、退職金の大半を返済に使えば、老後の生活資金が不足するかもしれません。

定年前から残高を減らし、退職金だけに頼らない返済計画を作ることが大切です。

金利上昇に備えて家計が確認する7つの項目

金利上昇のニュースを見て不安になったときは、次の順番で家計を確認してみましょう。

1.預金と借入の残高を整理する

普通預金、定期預金、住宅ローン、自動車ローン、カードローンなどの残高と金利を一覧にします。受け取る利息と支払う利息のどちらが家計に大きな影響を与えるかを確認します。

2.住宅ローンの金利タイプと契約内容を確認する

固定、変動、固定期間選択型のどれかを確認します。変動金利の場合は、適用金利と返済額の見直し時期、5年ルール・125%ルール、優遇幅も調べましょう。

3.金利上昇後の返済額を試算する

現在の金利だけでなく、0.5%、1%、2%上昇した場合も試算します。返済額の増加を、毎月の黒字や貯蓄額で吸収できるか確認します。

4.生活防衛資金と近い将来の支出を確保する

繰り上げ返済より先に、病気や失業への備え、教育費、住宅修繕費などを確保します。住宅ローンより高い金利の借入がある場合は、そちらを優先的に見直します。

5.繰り上げ返済と資産運用を条件別に比較する

借入金利、住宅ローン控除、運用期間、投資リスク、税金・手数料を比較します。返済と投資を併用する場合も、家計に無理のない金額を設定しましょう。

6.定年時の住宅ローン残高を確認する

完済年齢だけでなく、定年時点の残高と毎月返済額を確認します。残高が大きい場合は、現役中から返済用資金を準備します。

7.預金・株式・債券の役割を見直す

生活防衛資金や短期資金は預金、長期的な成長を目指す資金は株式、値動きを抑えたい資金は債券など、目的に応じて分けます。

金利が上がったからといって、資産配分を一度に大きく変更する必要はありません。使用時期と許容できる値動きから判断することが大切です。

まとめ|金利上昇は家計全体で判断する

金利は「お金の値段」です。預金では受け取る利息、住宅ローンなどの借入では支払う利息として家計に関係します。

金利が上がると、預金金利は上がりやすくなります。一方、変動金利型住宅ローンなどの借入負担は増える可能性があります。株式には逆風となる場合がありますが、金利上昇の理由や企業業績によっては、株価が上昇することもあります。

債券は、市場金利が上がると既発債の価格が下がりやすくなりますが、新しく購入する債券の利回りにはプラスです。個別債券と債券投資信託でも、金利上昇の影響や満期の考え方が異なります。

住宅ローンの繰り上げ返済と資産運用を比べるときは、借入金利と期待リターンの数字だけで判断しないことが大切です。繰り上げ返済による利息削減は原則として確定する一方、投資の利益は保証されません。

判断する際は、生活防衛資金、教育費、住宅修繕費、住宅ローン控除、運用期間、定年時の残高まで確認しましょう。すべてを返済または投資へ回さず、両方を組み合わせる選択肢もあります。

老後の家計を安定させるうえでは、定年退職時の住宅ローン完済を目標にすることが望ましいでしょう。ただし、退職金や預貯金を使い切ってまで完済するのではなく、医療費、介護費、修繕費などを残したうえで判断する必要があります。

金利上昇への備えで大切なのは、今後の金利を当てることではありません。金利が上がった場合の返済額を試算し、預金、借入、資産運用、老後資金を含めた家計全体で対応できる状態を作ることです。

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