退職金を受け取ったらどうする?老後の資産運用・取り崩しをFPが解説

定年退職を迎えると、公的年金を中心とした生活が始まります。同時に、長年勤めた会社から退職金を受け取ったり、企業型DC(企業型確定拠出年金)やiDeCo、個人年金保険などの受取時期を迎えたりする人もいるでしょう。

まとまった退職金が口座に振り込まれると、「預金に置いておくだけでよいのか」「投資信託で運用したほうがよいのか」「住宅ローンを完済すべきか」など、さまざまな疑問が生まれます。金融機関から退職金向けの運用商品を案内され、判断を急いでしまうケースも少なくありません。

しかし、退職金を受け取った直後に金融商品を決める必要はありません。最初に行うべきなのは、公的年金などの収入と老後の支出を確認し、退職金が何のために必要なのかを整理することです。

退職金の適切な使い方は、次のような条件によって変わります。

  • 公的年金だけで生活費を賄えるか
  • 企業型DCやiDeCo、個人年金などの収入があるか
  • 住宅ローンや家賃の支払いが残っているか
  • 医療・介護、住宅修繕などにいくら必要か
  • 退職金をいつから取り崩す予定か
  • 相場が下落しても生活に支障が出ないか

退職金を全額預金に置くことが正解とは限りませんが、全額を投資することも適切ではありません。基本となるのは、退職金を「近いうちに使うお金」「万一に備えるお金」「当面使わない運用資金」に分けることです。そのうえで、年齢や家計状況に合わせて運用と取り崩しの方法を変えていきます。

目次

退職金を受け取ったら最初にすること

すぐに金融商品を契約する必要はない

退職金を受け取ると、銀行や証券会社から定期預金、投資信託、保険、外貨建て商品などを案内されることがあります。期間限定の金利や特典が提示されると、早く決めなければ損をするように感じるかもしれません。

しかし、退職金は長い老後生活を支える大切な資産です。数週間や数か月を普通預金に置いて考えたからといって、老後の資金計画が大きく崩れるわけではありません。むしろ、使う時期が決まっていないまま長期間解約できない商品を契約したり、価格変動の大きい商品へ一括投資したりするほうが問題になりやすいでしょう。

退職直後は、生活リズムや家計も変化します。まずは受け取った金額を確認し、退職金にかかった税金、ほかに受け取れる給付、年金の見込額などを整理することが先です。

公的年金と生活費の差額を計算する

退職金の使い道を考えるうえで、最初に確認したいのが毎月の家計収支です。

例えば、夫婦の公的年金収入が月22万円、基本生活費が月25万円であれば、毎月3万円の不足が生じます。年間では36万円、単純計算で20年間続けば720万円です。実際には物価や支出、年金額が変化するため正確に720万円になるとは限りませんが、少なくとも退職金の一部を生活費に充てる必要があることは分かります。

一方、公的年金が月25万円、生活費が月22万円であれば、日常生活だけで退職金を継続的に取り崩す可能性は低くなります。同じ2,000万円の退職金を受け取ったとしても、家計収支によって投資に回せる金額や取れるリスクは大きく異なるのです。

確認する際は、年金の額面ではなく、税金や社会保険料などを差し引いた手取り額で考えることが大切です。支出についても、食費や光熱費だけでなく、固定資産税、マンションの管理費・修繕積立金、生命保険料、自動車関連費などを含めます。

医療・介護・住宅修繕などの大型支出を見積もる

毎月の収支が黒字でも、退職金をすべて運用に回せるとは限りません。老後には、毎月の生活費とは別にまとまった支出が発生する可能性があるからです。

例えば、次のような費用が考えられます。

  • 自宅の外壁、屋根、給湯器などの修繕費
  • 自動車の買い替え費用
  • 医療費や入院時の差額ベッド代
  • 介護サービスや介護施設への入居費用
  • 子どもの結婚や住宅取得への援助
  • 旅行、趣味、家電の買い替え
  • 高齢者向け住宅への住み替え費用
  • 葬儀や自宅整理などの終活費用

必要額を正確に予測することはできません。だからこそ、予定している支出と予測できない支出を分け、一定の予備費を値動きのある投資商品とは別に確保しておく必要があります。

退職金を「使う・備える・運用する」資金に分ける

退職金を一つのまとまった資産として扱うと、「預金か投資か」という二者択一になりがちです。実際には、使う目的と時期によって分けるほうが判断しやすくなります。

資金の役割主な用途基本的な置き場所
近いうちに使うお金生活費の不足、旅行、住宅修繕、車の購入など預貯金など換金しやすい資産
万一に備えるお金医療、介護、緊急支出など預貯金や値動きの小さい資産
当面使わないお金将来の生活費、インフレ対策、相続予定資金など株式・債券・投資信託などを含めて検討

実際の割合は、年金額や生活費、保有資産、健康状態によって異なります。「退職金の何%を投資すべき」と一律に決めるのではなく、必要資金を差し引いた残額から運用可能額を求めるのが基本です。

退職後は「増やす運用」から「長持ちさせる運用」へ変わる

現役時代と年金生活では収入構造が異なる

現役時代の資産運用では、給与収入から積立を続けながら資産を増やすことが主な目的になります。相場が下落しても、すぐに資産を売却する必要がなければ、回復を待つことができます。価格が下がった時期にも積立を続けることで、購入単価を抑えられる場合もあります。

年金生活になると、この条件が変わります。給与収入がなくなる、または大きく減り、公的年金が主な収入源になります。生活費が年金を上回れば、保有資産を売却しながら不足額を補わなければなりません。

そのため、退職後の運用では、単に高い収益を目指すのではなく、「必要なときに必要なお金を取り出せるか」「相場が下落しても生活を続けられるか」という視点が重要になります。

退職後も生活費が大幅に減るとは限らない

退職すると通勤費や仕事上の交際費が減る一方、すべての支出が減少するわけではありません。

自由な時間が増えることで旅行や趣味の支出が増える場合があります。自宅で過ごす時間が長くなれば、光熱費が上がることもあるでしょう。また、70代後半以降は医療や介護に関する支出が増える可能性があります。

老後資金を試算するときは、「退職後は今より使わないだろう」と感覚で決めず、退職後に送りたい生活を具体的に考える必要があります。節約だけを前提にすると、旅行や趣味を必要以上に我慢し、資産を残したまま十分に活用できないこともあります。

老後の資産管理は、お金を減らさないことだけが目的ではありません。生活の安心を保ちながら、使いたいことにも計画的に使える状態をつくることが大切です。

老後資金は何年持たせる必要があるのか

退職金を何年持たせればよいかは、退職年齢、年金受給開始年齢、配偶者との年齢差、健康状態などによって変わります。

例えば65歳から90歳までなら25年間、95歳までなら30年間です。夫婦の場合は、どちらか一方が長生きする可能性も考えなければなりません。一人になった後は生活費が単純に半分になるわけではなく、住居費や光熱費などは一定額が残ります。

そのため、平均寿命だけを基準に計算するのではなく、長生きした場合にも対応できるよう、やや長めの期間で資金計画を作るほうが安心です。ただし、30年分の支出をすべて現金で保有する必要があるという意味ではありません。近い将来に使う資金と、10年、20年先に使う可能性がある資金を分け、後者については物価上昇への対応も考えます。

退職直後の相場下落が資産寿命に与える影響

退職後の資産運用で特に気をつけたいのが、運用開始直後や取り崩し開始直後の相場下落です。

例えば2,000万円を株式中心で運用し、相場下落によって1,400万円まで減ったとします。その時期にも生活費を補うために売却すると、安い価格で多くの資産を手放すことになります。その後に相場が回復しても、運用に残っている資産が少ないため、元の金額まで戻りにくくなります。

このように、同じ平均利回りでも、収益が発生する順番によって資産の持続期間が変わることを「シーケンス・オブ・リターンリスク」といいます。

対策は、相場を正確に予測することではありません。数年以内に使う生活費を現金などで確保し、相場下落時に株式や投資信託を慌てて売らずに済む仕組みをつくることです。

退職金を全額預金・全額投資にしないほうがよい理由

全額預金ではインフレに対応しにくい

退職後は安全性を優先し、退職金を全額預金に置きたいと考える人もいます。預金は一定の範囲で元本が守られ、必要なときに引き出しやすいため、生活資金や緊急予備資金の置き場所として有効です。

一方で、預金残高が減らなくても、お金の実質的な価値が維持されるとは限りません。物価が上がれば、同じ金額で購入できる商品やサービスは少なくなります。

仮に物価が年2%ずつ上昇すれば、20年後に現在と同じ生活を送るためには、単純計算で約1.49倍のお金が必要になります。現在100万円で賄える支出が、約149万円になる計算です。実際の物価は毎年一定に上がるわけではありませんが、20~30年にわたる老後ではインフレを無視できません。

預金を持つことが悪いのではなく、すぐに使わない資金まで全額預金に置くことには、購買力が低下するリスクがあるということです。

全額投資では必要な時期の下落に耐えられない

反対に、退職金を全額投資することにも大きなリスクがあります。株式や投資信託は長期的な成長やインフレ対策を期待できる一方、短期間で大きく値下がりすることがあります。

現役世代なら、給与収入で生活しながら相場の回復を待てる場合があります。しかし年金生活では、下落中でも生活費、医療費、住宅修繕費などが必要です。必要な時期と相場下落が重なると、損失が出た状態で売却せざるを得ません。

特に避けたいのは、退職直後に金融機関から勧められた一つの商品へ、退職金の大部分を一括投資することです。商品自体に問題がなくても、家計に必要な資金まで投資してしまえば、値下がりに耐えられなくなります。

また、販売手数料、信託報酬、為替手数料、解約条件などを十分に理解しないまま契約すると、想定以上の費用がかかることもあります。「退職金向け」という名称だけで安全性が高いと判断せず、元本割れの可能性と資金拘束の期間を確認しましょう。

投資に回せるのは当面使う予定のない余裕資金

退職金から投資に回せる金額は、次のような計算で考えられます。

退職金などの金融資産-生活費の不足に備える資金-予定している大型支出-緊急予備資金=運用を検討できる資金

例えば退職金が2,000万円あっても、年金で不足する生活費、住宅ローン、住宅修繕、医療・介護の予備費として1,500万円を確保する必要があれば、残る500万円の範囲で運用方法を考えます。

反対に、年金だけで基本生活費を賄え、ほかにも十分な預貯金や企業年金があるなら、退職金のうち運用に回せる割合は高くなる可能性があります。

資産額だけを見て判断せず、退職金が生活に必要な「使うお金」なのか、しばらく使わない「余裕資金」なのかを区別することが欠かせません。

一括投資と分割投資はどちらがよいか

長期間の運用を前提とする場合、早く投資したほうが市場に参加する期間は長くなります。一方、一括投資の直後に相場が大きく下落すれば、精神的な負担が大きくなり、途中で売却してしまう可能性もあります。

投資時期を数回に分ければ、購入直後の下落による影響を和らげられます。ただし、分割すれば必ず有利になるわけではありません。投資を待っている間に相場が上昇すれば、一括投資より購入価格が高くなることもあります。

退職金の場合は、期待収益だけでなく、値下がりしたときに運用を続けられるかが重要です。初めてまとまった金額を投資する人や、価格変動に不安がある人は、投資額を抑えたり、時期を分けたりするほうが継続しやすい場合があります。

退職金の使い道を決める具体的な判断手順

手順1:年金と生活費の年間差額を求める

最初に、公的年金、企業年金、個人年金、再雇用収入などの年間手取り収入を確認します。そこから年間生活費を差し引き、黒字か赤字かを把握しましょう。

月3万円の赤字なら年間36万円、月5万円なら年間60万円を資産から補う必要があります。この不足額が老後の基本的な取り崩し額になります。

手順2:数年以内に使う予定の資金を確保する

住宅修繕、自動車の買い替え、旅行、子どもへの援助など、時期と金額がある程度決まっている支出を洗い出します。

数年以内に使うことが分かっているお金は、価格変動の大きい資産で運用するのに向きません。使う直前に相場が下落しても、支出の時期を簡単には変更できないからです。

手順3:医療・介護などの予備費を分ける

予定された支出とは別に、医療、介護、家電の故障、災害などに備える資金を確保します。必要額は、健康状態、加入している保険、住居の状況、頼れる家族の有無などによって異なります。

金額を一律に決めるのではなく、「何が起きたときに、どの資金から支払うか」を考えておくことが大切です。

手順4:住宅ローンなどの負債を確認する

退職後も住宅ローンやほかの借入が残る場合は、毎月返済額と完済年齢を確認します。収入が年金中心になると、現役時代と同じ返済額でも家計への負担は大きくなる可能性があります。

ただし、退職金で一括返済すればよいとは限りません。完済後に手元資金がいくら残るのか、医療・介護や修繕費に対応できるかまで確認する必要があります。

手順5:残った余裕資金の運用方法を考える

生活費、大型支出、予備費、負債への対応を整理した後、当面使う予定のない資金がいくら残るかを確認します。その資金について、預金、債券、株式、投資信託などを組み合わせて運用を検討します。

この順番で考えれば、退職金のうちどの程度まで価格変動を受け入れられるかが明確になります。運用商品から考えるのではなく、家計から運用可能額を決めることが基本です。

退職金で住宅ローンを完済すべきか

完済によって毎月の支出を減らせるメリット

退職金で住宅ローンを完済すると、毎月の返済がなくなり、年金生活の固定費を減らせます。返済終了までに支払う予定だった利息も削減できるため、退職後の家計を安定させる効果があります。

変動金利で借りている場合は、将来の金利上昇によって返済負担が増える不安をなくせる点もメリットです。老後に借入を残したくないという心理的な安心感も得られるでしょう。

全額返済で手元資金が不足するデメリット

一方で、退職金の大部分を返済に使うと、自由に使える現金が少なくなります。住宅という資産は残りますが、生活費や医療費が必要になっても、その一部だけを簡単に現金化することはできません。

例えば、退職金2,000万円のうち1,500万円を完済に充て、手元に500万円しか残らない場合、住宅修繕や介護費が重なると資金不足になる可能性があります。後から自宅を担保に借りる方法もありますが、希望どおり利用できるとは限りません。

金利・返済額・団信・退職後の資産残高から判断する

住宅ローンを返済するかどうかは、少なくとも次の項目を比較します。

  • 適用金利と今後の金利上昇リスク
  • 毎月返済額と年金手取り額の割合
  • 完済予定年齢
  • 住宅ローン控除が残っているか
  • 団体信用生命保険の保障内容
  • 完済後に残る預貯金
  • 今後の住宅修繕費
  • 運用を続ける場合に許容できる元本割れ

金利が低く、毎月の返済を年金収入で無理なく賄え、手元資金を十分に確保できているなら、急いで完済しない選択もあります。反対に、返済負担が家計を圧迫している場合や、金利上昇への対応が難しい場合は、繰り上げ返済の優先度が高くなります。

住宅ローン控除が適用されている場合でも、控除だけを理由に借入を残すのではなく、実際の控除額と支払利息を比較する必要があります。

一部繰り上げ返済という選択肢もある

完済か継続かの二択ではありません。退職金の一部で繰り上げ返済し、ローン残高や毎月返済額を減らしながら、一定の現金を手元に残す方法もあります。

返済期間を短縮する方法と毎月返済額を減らす方法がありますが、年金生活の家計を安定させることが目的なら、毎月の負担を減らす方法が適するケースもあります。金融機関によって手数料や手続きが異なるため、返済前に確認しましょう。

65~75歳頃の資産運用は追加収入の有無で変わる

65歳から75歳頃までの期間は、その後の資産寿命を左右する時期です。ただし、65歳になったら一律に株式を売却したり、75歳になったら運用を終了したりする必要はありません。

公的年金以外の収入、退職金の取り崩し開始時期、健康状態などを踏まえて判断します。

企業型DC・iDeCo・個人年金がある場合

企業型DCやiDeCoを年金形式で受け取る場合、公的年金以外にも一定期間の収入を得られる可能性があります。個人年金保険の受取や再雇用収入がある人も同様です。

例えば、税金などを考慮する前の金額として、公的年金が月20万円、企業型DCが月5万円、個人年金保険が月3万円なら、合計月28万円の収入になります。生活費をこの範囲で賄えるなら、退職金をすぐに取り崩さずに済む可能性があります。

当面使わない資金を確保できる場合は、現金だけで保有せず、株式、債券、投資信託などを組み合わせて運用を続けることも選択肢です。一定の成長資産を保有することで、長期化する老後やインフレに備えられる可能性があります。

ただし、企業型DCや個人年金の受取には終了時期があります。その収入がなくなった後に家計が赤字になるのであれば、終了後の取り崩しまで含めて準備しておかなければなりません。

なお、企業型DC・iDeCoの年金と個人年金保険では税務上の扱いが同じとは限りません。提示された受取額が、そのまま生活に使える手取り額になるわけではない点にも注意が必要です。

公的年金と退職金だけで生活する場合

公的年金と退職金だけで生活し、年金収入より生活費が多い場合、退職金はすでに取り崩し段階に入っています。

例えば公的年金が月22万円、生活費が月25万円なら、毎月3万円を資産から補う必要があります。このような家庭では、退職金を積極的に増やすことより、相場下落時にも生活費を確保しながら長持ちさせることを優先します。

一定の現金を持ち、債券などの比較的値動きを抑えた資産と、低コストで広く分散された投資信託などを組み合わせる方法が考えられます。株式比率は年齢だけで決めず、生活費の不足額と投資資産を売却せずに待てる期間から判断します。

再雇用収入がある場合も同じではない

定年後も再雇用などで働く場合、給与収入が続く間は退職金を取り崩さずに済むことがあります。その期間を活用して運用を続けたり、今後の支出に備えて現金を積み増したりすることも可能です。

一方、再雇用収入は現役時代より少なくなることが多く、契約終了後には家計が変化します。在職中の収支だけで判断せず、給与収入がなくなった後の年金生活まで試算しておきましょう。

年齢だけで株式比率を決めない

「退職後は株式を持たないほうがよい」「高齢者は債券と預金だけでよい」と一律に決めることはできません。65歳でも退職金を当面使わない人がいる一方、年金生活が始まった時点から資産を取り崩す人もいるからです。

株式などの成長資産をどの程度持てるかは、次の条件から判断します。

  • 年金などで基本生活費を賄えるか
  • 値下がりした資産を売らずに待てるか
  • 近い将来の支出を現金で確保しているか
  • 資産が減ったときに精神的に耐えられるか
  • 家族が資産内容を把握できるか
  • 将来、資産管理を単純化できるか

退職後の運用目的は、資産額を最大化することではありません。必要な生活費を確保しながら、物価上昇や長生きにも対応できる状態をつくることです。

iDeCo・企業型DCは受け取り方で手取りが変わる

退職後の資金計画では、企業型DCやiDeCoを「いくら受け取れるか」だけでなく、「どのように受け取るか」まで考える必要があります。

企業型DC・iDeCoの老齢給付金は、制度や加入先の規約によって、一時金、年金、一時金と年金の併用から選べる場合があります。受取方法によって適用される所得控除が異なるため、受取総額が同じでも税引き後の手取り額は変わります。

ただし、控除を使えるという理由だけで受取方法を決めるのは適切ではありません。老後の生活費として毎月受け取りたいのか、住宅ローン返済などにまとまった資金が必要なのかという資金用途も重要です。

一時金・年金・併用受取の違い

企業型DCやiDeCoを一時金で受け取る場合は、原則として退職所得として扱われ、退職所得控除を利用できます。会社から受け取る退職金も退職所得に該当するため、受取時期や勤続期間・加入期間の重なりによって控除額の計算が変わります。

年金形式で受け取る場合は、公的年金等に係る雑所得として扱われ、公的年金等控除の対象になります。ただし、老齢基礎年金や老齢厚生年金、ほかの企業年金などと合算して計算されるため、年金形式なら必ず税負担が軽くなるわけではありません。

併用受取は、まとまった支出に必要な分を一時金で受け取り、残りを年金形式で受け取る方法です。生活設計に合わせやすい一方、すべての制度で選択できるとは限りません。加入している制度の規約や受取可能期間を確認する必要があります。

受取方法主な税務上の扱い向いている可能性があるケース
一時金退職所得・退職所得控除住宅ローン返済など、まとまった用途がある
年金公的年金等に係る雑所得・公的年金等控除毎年の生活費を安定的に補いたい
併用一時金と年金の扱いをそれぞれ適用大型支出と生活費の両方に備えたい

なお、年金形式で受け取る間も運用が続く制度では、受取総額が運用成果によって変動することがあります。給付中の手数料がかかる場合もあるため、税金だけでなく運用方法や手数料まで確認しましょう。

一時金で利用する退職所得控除

退職所得控除は、原則として勤続年数や確定拠出年金の加入期間などを基に計算します。一般的な計算方法は次のとおりです。

勤続年数等退職所得控除額
20年以下40万円×勤続年数等(最低80万円)
20年超800万円+70万円×(勤続年数等-20年)

通常、退職所得は退職金などの収入から退職所得控除額を差し引き、その残額の2分の1を課税対象とします。ただし、役員等としての勤続年数や勤続年数5年以下の退職金などでは、2分の1課税が制限される場合があります。

また、「退職所得の受給に関する申告書」を提出していない場合は、原則として支給額の20.42%が源泉徴収されます。後から確定申告によって精算できる場合がありますが、受取前に必要書類を確認しておくほうがスムーズです。

年金受取で利用する公的年金等控除

企業型DCやiDeCoを年金で受け取る場合、公的年金等控除の対象になります。控除額は、受給者の年齢、公的年金等の収入額、公的年金等以外の所得によって異なります。

注意したいのは、DCの年金だけを単独で判定するのではなく、老齢基礎年金、老齢厚生年金、企業年金などと合算されることです。合計収入が増えれば、所得税や住民税だけでなく、翌年度の国民健康保険料や介護保険料などに影響する可能性があります。

税金が少ない方法と、社会保険料まで含めた手取りが多い方法が一致するとは限りません。受取期間ごとの収入を並べ、手取りベースで比較することが大切です。

2026年から変わった退職所得控除の重複調整

会社の退職金と企業型DC・iDeCoの一時金について、重複する加入期間に対して退職所得控除を二重に利用できないよう、一定期間内に受け取った退職金等を考慮する調整があります。

2026年1月1日以後に会社の退職金を受け取る場合、DCの一時金を先に受け取り、その後9年以内に会社の退職金を受け取ると、加入期間と勤続期間の重複部分が調整対象になる可能性があります。

反対に、会社の退職金を先に受け取り、後からDCの一時金を受け取る場合は、原則として前年以前19年内に受け取った退職金との期間重複が調整されます。

そのため、「受取年を数年ずらせば、それぞれで退職所得控除を満額使える」と単純には判断できません。加入期間、勤続期間、受取順序、受取年によって結果が変わります。

具体的な受取方法を決めるときは、勤務先から受け取る退職金の源泉徴収票、企業型DC・iDeCoの加入履歴、受取予定額を準備し、勤務先や運営管理機関、税務署、税理士などへ確認すると安心です。税制は今後変更される可能性もあるため、実際に受け取る時点の制度を確認してください。

個人年金保険はDCと税務上の扱いが異なる

民間の個人年金保険は、企業型DCやiDeCoとは税務上の扱いが異なります。保険料を負担した人と年金を受け取る人が同じ場合、年金形式の受取は一般に公的年金等以外の雑所得となり、受取額のうち必要経費に相当する部分を差し引いて所得を計算します。

保険料負担者と受取人が異なる場合には、贈与税が関係する可能性もあります。一時金で受け取る場合も所得区分が変わることがあるため、契約者、被保険者、保険料負担者、受取人を確認し、DCの年金と同じものとして扱わないようにしましょう。

老後の資産配分はどう考えるか

老後の資産配分は、年齢だけで決めるものではありません。現金、債券、株式などにそれぞれ異なる役割を持たせ、使う時期に合わせて組み合わせます。

現金は近い将来に使うお金として確保する

預貯金は大きな収益を期待する資産ではありませんが、必要なときに金額を減らさず使えることが強みです。年金で不足する生活費、数年以内の住宅修繕、医療・介護の予備費などは、原則として現金で確保します。

確保すべき生活費を一律に「何年分」と決めることはできません。毎月の赤字額が大きい人、投資資産の割合が高い人、相場下落への不安が強い人ほど、現金を厚めに持つ必要があります。

ただし、将来必要になるすべてのお金を現金にすると、インフレによって購買力が低下する可能性があります。近い将来に使うお金と、10年以上先に使う可能性があるお金を分けることが大切です。

債券は資産全体の値動きを抑えるために活用する

債券は、国や企業などにお金を貸し、利息を受け取り、原則として満期に額面金額の返済を受ける金融商品です。一般に株式より値動きが小さい傾向があり、老後資産全体の変動を抑える役割を期待できます。

ただし、債券なら必ず安全というわけではありません。発行体が返済できなくなる信用リスク、満期前に売却する場合の価格変動、外貨建て債券の為替変動などがあります。金利や物価の動きによっては、受け取る利息だけではインフレに追いつかない可能性もあります。

個別債券を利用する場合は、発行体や満期を一つに集中させないことが大切です。必要になる時期に合わせて満期を複数の年に分ければ、満期金を生活費や大型支出へ充てやすくなります。

利付債を生活費の補助に使う場合の注意点

一定の時期に利息を受け取る利付債は、年金以外の定期収入として使える場合があります。現役時代のように利息をすべて再投資するのではなく、受け取った利息を生活費の一部に充てる考え方です。

ただし、利息を受け取る仕組みであっても、投資元本の安全性や実質的な収益が保証されるわけではありません。高い利率だけを見て、信用力の低い発行体や値動きの大きい外貨建て債券へ集中するのは避けたいところです。

利率、通貨、満期、途中売却の条件、発行体の信用力を確認し、生活費のすべてを利息で賄おうとしないことが基本になります。

個別債券と債券投資信託は仕組みが異なる

個別債券には満期があり、発行体が債務不履行にならなければ、原則として満期に額面金額が戻ります。一方、複数の債券を組み入れる債券投資信託には、通常、投資家ごとの決まった満期がありません。金利の変動などによって基準価額が上下します。

債券投資信託は少額から分散しやすい反面、「満期まで持てば額面で戻る」という個別債券と同じ感覚では利用できません。どちらが適するかは、必要な時期、金額、管理のしやすさによって異なります。

株式・投資信託はインフレへの備えになる可能性がある

株式は短期的な価格変動が大きい一方、企業の利益成長や物価上昇を長期的に反映する可能性があります。そのため、10年、20年先に使う老後資金の一部を、広く分散された低コストの投資信託などで運用することには一定の合理性があります。

ただし、老後に必要なのは、最も高い収益を狙うことではありません。特定の国、業種、個別株に集中せず、下落しても生活費に影響しない範囲に抑える必要があります。

資産が30%下落したときに不安で売却してしまうなら、当初の株式比率が高すぎた可能性があります。期待できる利益だけでなく、実際に耐えられる損失から配分を考えましょう。

新NISAは非課税でも元本保証ではない

退職金の一部を新NISAで運用することもできます。運用益や配当・分配金が制度の範囲内で非課税になる点はメリットですが、新NISAは投資商品の安全性を高める制度ではありません。

非課税枠が余っているからといって、退職金を急いで投資する必要はありません。生活資金まで投資したり、枠を使い切ることを目的に価格変動の大きい商品を購入したりすれば、本来の老後設計から外れてしまいます。

新NISAを利用する場合も、投資可能額を家計から先に決め、その範囲内で商品や投資時期を検討します。

老後資金を長持ちさせる取り崩し方

資産運用を始めるときは、何を買うかに注目しがちです。しかし、年金生活では、保有資産をどのように売却して生活費へ変えるかも重要です。

定額・定率・必要額方式の違い

老後資産の主な取り崩し方には、次のような違いがあります。

取り崩し方方法メリット注意点
定額方式毎月・毎年、一定額を取り崩す生活費を管理しやすい資産が減っても同額を使うと枯渇が早まる
定率方式資産残高の一定割合を取り崩す残高減少時に取崩額も減る毎年使える金額が変動する
必要額方式年金で足りない分だけ補う家計に合った取崩額になる収支を継続的に把握する必要がある
併用方式基本額を決め、残高や相場に応じて調整する生活の安定と資産寿命を両立しやすい事前に調整ルールを決める必要がある

「資産の何%なら安全に取り崩せる」と一律に決めることはできません。運用期間、資産配分、年金額、臨時支出、相場環境によって結果が変わるためです。

実際には、年金で不足する基本生活費を定額で補い、旅行などの裁量的な支出は資産残高や運用状況に応じて調整する方法が考えられます。

相場下落時に株式を売らずに済む仕組みをつくる

株式市場が下落した年にも、生活費は必要です。その都度、値下がりした株式や投資信託を売却すると、資産の回復力を弱める可能性があります。

対策として、数年以内に取り崩す予定の金額を預貯金などで分けておき、相場が大きく下落したときは、その資金から生活費を補います。相場が回復した時期や資産配分を見直す時期に、値上がりした資産を売却して現金を補充する方法もあります。

ただし、回復時期を正確に予測することはできません。現金を使い切ってから考えるのではなく、「現金が一定額を下回ったら補充する」といったルールを決めておくと管理しやすくなります。

毎年一度は家計と資産残高を見直す

退職時に作った計画を、その後20~30年間変えずに使うことはできません。物価、年金額、健康状態、家族構成、運用成果などが変化するからです。

少なくとも年に一度は、次の項目を確認します。

  • 年金などの年間手取り収入
  • 基本生活費と臨時支出
  • 現金で何年分の不足額を補えるか
  • 株式・債券・預金の割合
  • 翌年以降に予定している大型支出
  • 保険、口座、金融商品の整理状況

資産が想定以上に減った場合は、使う金額や資産配分を調整します。一方、十分な資産が残っているなら、旅行や趣味、家族との時間などに使う金額を増やすことも検討できます。

75歳以降は「運用」から「管理と活用」へ移行する

75歳は、すべての人が投資をやめる年齢ではありません。しかし、資産運用の目的や管理方法を見直す一つの目安になります。

企業型DCやiDeCo、個人年金などの受取が終了する人が増え、医療や介護に関する支出も意識する時期です。認知機能や判断力が低下する前に、資産構成を分かりやすくしておくことも重要になります。

医療・介護費に対応できる現金を増やす

年齢が上がるにつれて、急な入院や介護サービス、住み替えなど、時期を選びにくい支出が発生する可能性が高まります。そのため、65歳時点と同じ資産配分を維持するのではなく、必要に応じて現金や値動きの小さい資産の割合を増やします。

ただし、不安だからという理由だけで、すべてを一度に現金化する必要はありません。公的年金で生活費を賄えている人や、十分な予備費がある人は、インフレ対策や長生きへの備えとして成長資産を残す選択もあります。

株式比率と資産の値動きを徐々に抑える

株式を売却する場合は、特定の年齢で一斉に処分するのではなく、数年かけて徐々に比率を下げる方法があります。相場が大きく下落した時期に、年齢だけを理由に売却することを避けやすくなるためです。

「何歳だから株式を何%にする」と機械的に決めるのではなく、今後の不足額、予備費、管理能力、家族の支援状況を確認します。本人が価格変動に強い不安を感じるようになった場合も、比率を見直すきっかけです。

金融機関や商品の数を減らす

複数の銀行、証券会社、保険会社に資産が分散し、個別株や投資信託を多数保有していると、本人だけでなく家族も全体像を把握しにくくなります。

75歳頃までを一つの目安として、使っていない口座を解約し、同じ役割の商品を整理します。資産を一社へ過度に集中させる必要はありませんが、本人が管理できないほど複雑な状態は避けたほうがよいでしょう。

80代以降を見据えた認知症・相続対策

認知機能が低下すると、金融機関が本人の意思を確認できず、預金の引き出しや金融商品の売却が難しくなる場合があります。家族であっても、本人名義の資産を自由に動かすことはできません。

そのため、判断能力が保たれているうちに、資産の所在と管理方法を整理しておくことが大切です。

資産一覧と連絡先を家族に共有する

口座番号や暗証番号を誰にでも伝える必要はありませんが、少なくとも次の情報は一覧にして、信頼できる家族が所在を把握できるようにします。

  • 利用している銀行・証券会社
  • 保有している保険や年金
  • 不動産や借入の有無
  • 通帳、証券、契約書などの保管場所
  • 担当者や専門家の連絡先
  • 定期的に支払っている費用
  • 遺言書などの保管場所

必要に応じて、任意後見制度、家族信託、遺言なども検討します。これらは家族構成や資産内容によって向き不向きがあるため、司法書士、弁護士、税理士などの専門家へ相談するとよいでしょう。

本人の生活費を確保してから相続を考える

相続税を減らしたい、子どもへ早めに財産を渡したいと考える人もいます。しかし、贈与を優先しすぎて本人の介護費や生活費が不足しては本末転倒です。

相続対策は、本人と配偶者が長生きした場合の生活費、医療・介護費、住み替え費用を確保した後に行うことが基本です。老後資産の第一の目的は、本人が安心して生活することにあります。

FP相談で想定される退職金2,000万円の事例

例えば、65歳の夫と63歳の妻が、2,000万円の退職金を受け取ったケースを考えます。夫婦の公的年金手取り見込額は月22万円、基本生活費は月25万円で、毎月3万円の不足があります。夫には10年間受け取れる企業型DCがあり、住宅ローン残高は300万円、自宅は5年以内に200万円程度の修繕を予定しているとします。

この場合、退職金をすぐに全額投資するのではなく、まず住宅修繕費、生活費の不足、医療・介護の予備費を分けます。住宅ローンについては、完済した場合と返済を続けた場合の手元資金を比較します。

企業型DCの受取期間中は退職金の取り崩しを抑えられるため、当面使わない資金の一部を分散投資に回す余地があるかもしれません。ただし、10年後にDCの受取が終了した後は収入が減ります。その時点で株式を売却しなくても生活できるよう、75歳頃までに現金や債券などを増やしておく計画が必要です。

同じ退職金2,000万円でも、公的年金だけで生活費を賄える家庭なら、運用できる金額は増える可能性があります。反対に、家賃や住宅ローンの負担が大きい家庭、医療・介護に備える必要性が高い家庭では、現金を多めに確保する判断になります。

この事例はあくまで考え方を示すものであり、具体的な資産配分の正解ではありません。運用可能額は、退職金の額ではなく、将来の家計収支から判断します。

退職金の運用で初心者が避けたい失敗

受取直後に勧められた商品を契約する

退職金の入金直後は、まとまった金額を持った安心感と、何かしなければならないという焦りが重なりやすい時期です。期間限定の金利やキャンペーンだけで判断せず、商品を保有する目的、元本割れ、手数料、解約条件を確認しましょう。

退職金の大部分を一つの商品に集中させる

一つの投資信託、個別株、外貨、保険などへ集中すると、その商品や市場の変動が老後生活に直接影響します。販売会社や商品名が異なっていても、実質的に同じ国や資産へ集中している場合があるため、中身まで確認する必要があります。

税金だけで受取方法を決める

一時金の税負担が少なくても、受け取った後に管理できなければ適切とはいえません。反対に年金受取を選んでも、公的年金との合算によって税金や社会保険料が増える可能性があります。

受取方法は、税引き後の手取り、生活費の不足、住宅ローン、大型支出、管理のしやすさをまとめて比較します。

相続を優先して自分のお金を使えなくなる

子どもへ資産を残したいという気持ちから、旅行や趣味、住環境の改善まで我慢する人もいます。しかし、老後資金は残すためだけのものではありません。

必要な予備費を確保したうえで、本人や家族の生活を豊かにするために使うことも、退職金の大切な役割です。

退職金を受け取る前後の確認リスト

最後に、退職金と老後資産を管理する手順を時期別に整理します。

退職前

  • 退職金、企業型DC、iDeCoなどの見込額を確認する
  • 公的年金の受給見込額を確認する
  • 一時金・年金・併用受取の選択肢を調べる
  • 退職所得控除の重複調整を確認する
  • 退職後の生活費を試算する
  • 住宅ローンやほかの借入残高を確認する

退職金を受け取った直後

  • すぐに全額を運用しない
  • 税引き後の入金額を確認する
  • 近いうちに使うお金を分ける
  • 医療・介護などの予備費を確保する
  • 金融商品の提案は持ち帰って比較する

運用を始める前

  • 元本割れしても生活に影響しない金額か確認する
  • 株式、債券、現金の役割を分ける
  • 手数料、為替、信用リスクを確認する
  • 相場下落時の生活費を確保する
  • 売却・取り崩しのルールを決める

75歳頃まで

  • 収入が減る時期を確認する
  • 医療・介護に備える現金を見直す
  • 株式などの価格変動リスクを調整する
  • 使っていない口座や複雑な商品を整理する
  • 資産一覧を作り、家族が所在を確認できるようにする
  • 認知症・相続対策の必要性を検討する

まとめ|退職金は商品選びより使い方の設計が大切

退職金を受け取った後に最初に考えるべきなのは、どの金融商品で運用するかではありません。公的年金などの手取り収入と生活費の差額を確認し、退職金を何年間、何のために使うのかを整理することです。

近いうちに使う生活費や大型支出、医療・介護の予備費は、預貯金などで確保します。そのうえで、当面使う予定のない資金については、現金、債券、株式、投資信託などに役割を持たせて運用を検討します。

退職金を全額預金に置けば、元本割れを避けやすい一方、インフレによって実質的な価値が低下する可能性があります。全額投資すれば、相場下落時にも生活費のために売却しなければならない危険があります。どちらか一方に偏らず、使う時期に合わせて資金を分けることが基本です。

企業型DC、iDeCo、個人年金、再雇用収入がある人は、退職金をすぐに取り崩さず、一定期間運用を続けられる場合があります。一方、公的年金と退職金だけで生活する人は、資産を増やすことより、必要な生活費を安定して確保することを優先します。

企業型DCやiDeCoの受取方法は、退職所得控除、公的年金等控除、ほかの退職金の受取時期によって手取りが変わります。税制だけでなく、生活に必要な時期や社会保険料への影響も含めて比較しましょう。

75歳頃からは、運用成果だけでなく管理のしやすさも重要になります。現金を増やし、複雑な商品や口座を整理し、家族が資産の所在を確認できる状態をつくります。

老後資産の目的は、最後まで残高を減らさないことでも、最大限に増やすことでもありません。長生きや物価上昇に備えながら、自分や家族のために安心して使える仕組みを整えることが、退職金の活用で最も大切な考え方です。

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