預貯金で資産運用するメリット・デメリット|現金はいくら残すべき?

NISAやiDeCoの普及によって、「預金だけではお金が増えない」「現金を持ちすぎると損をする」といった言葉を目にする機会が増えました。物価上昇が続いていることもあり、預貯金から投資へ資金を移すべきか悩んでいる人も多いでしょう。

一方、FP相談では次のような質問もよく想定されます。

「投資を始めたら、預貯金はあまり残さなくてよいのでしょうか」

「NISAへいくら回し、現金はいくら残せばよいのでしょうか」

資産形成で大切なのは、預貯金と投資のどちらか一方を選ぶことではありません。使う目的と時期に合わせて、お金の置き場所を分けることです。

預貯金は大きく増やすための資産ではありませんが、日常生活や緊急時を支え、投資商品を不利な時期に売却することを防ぐ重要な役割があります。一方、老後まで使わないお金をすべて預貯金に置くと、インフレによって購買力が低下したり、長期的な資産成長の機会を逃したりする可能性があります。

基本的には、お金を次のように分けて考えます。

  • 日常生活で使うお金:普通預金
  • 急な支出や収入減に備えるお金:普通預金
  • 数年以内に使うお金:普通預金や定期預金
  • 10年以上使わないお金:NISAなどによる長期投資も検討

この記事では、預貯金で資産運用するメリットとデメリット、預金保険制度、インフレによる実質的な目減り、預貯金と投資を使い分ける判断基準を、独立系FPの視点から解説します。

目次

預貯金も資産運用の一部|投資とは役割が違う

資産運用というと、株式や投資信託を購入してお金を増やすことをイメージするかもしれません。しかし、預貯金も金融資産の置き場所であり、家計全体の資産管理に欠かせません。

ただし、株式や投資信託とは目的が異なります。投資が長期的に資産を育てるための手段であるのに対し、預貯金は現在の生活と近い将来の支出を守るための手段です。

預貯金はお金を増やすより安全に管理する手段

預貯金にも利息はつきますが、預金だけで大幅に資産を増やすことは簡単ではありません。金利が上昇した場合でも、税引後の金利が物価上昇率を下回れば、お金の実質的な価値は低下します。

それでも預貯金を持つ意味がなくなるわけではありません。預貯金には、投資商品にはない次の役割があります。

  • 給与を受け取り、生活費を支払う
  • 家賃や公共料金などを決済する
  • 急な病気や失業に備える
  • 住宅購入や教育費など、近い将来の支出を確保する
  • 相場下落時に投資商品を売らずに済むようにする
  • 金融資産全体の値動きを小さくする

預貯金の利回りだけを見ると、株式などより魅力が小さく感じられるかもしれません。しかし、必要なときに予定した金額を使えることには大きな価値があります。

預貯金は「増えないから無駄な資産」ではなく、「生活と長期投資を支えるための資産」と考えると役割が分かりやすくなります。

預金と貯金の違い

一般的な会話では、「預金」と「貯金」はほぼ同じ意味で使われています。どちらも金融機関へお金を預ける仕組みですが、厳密には取扱機関によって呼び方が異なります。

銀行、信用金庫、信用組合、労働金庫などへ預けるお金は、一般的に「預金」と呼ばれます。一方、ゆうちょ銀行や農業協同組合などでは「貯金」という名称が使われます。

利用者にとっての基本的な役割に大きな違いはありません。ただし、金融機関の種類によって、破綻時に利用する保護制度が異なる場合があります。

この記事では、銀行預金やゆうちょ銀行の貯金などをまとめて「預貯金」と表記します。実際に口座を選ぶ際は、その金融機関と商品がどの保護制度の対象になるかを確認しましょう。

普通預金・定期預金・積立定期預金の使い分け

預貯金には複数の種類があり、それぞれ使いやすさや金利が異なります。

種類主な特徴向いているお金
普通預金自由に入出金しやすい生活費、生活防衛資金
定期預金一定期間預けることを前提とする数年以内に使う予定資金
積立定期預金毎月一定額を自動で積み立てる教育費、車、旅行などの積立
決済用預金無利息などの条件を満たし、全額保護される決済資金、多額の待機資金

普通預金は流動性が高く、給与の受け取り、公共料金の引き落とし、緊急時の支出に向いています。

定期預金は普通預金より高い金利が設定されることがありますが、満期前に解約すると適用金利が下がる場合があります。途中で使う可能性があるお金をすべて定期預金へ移すのではなく、使う時期に合わせて選びましょう。

積立定期預金は、毎月の給与から自動的にお金を分けられるため、貯蓄が苦手な人にも利用しやすい仕組みです。ただし、金融機関によって金利や中途解約の条件が異なります。

預貯金と投資を比較

預貯金と投資は、どちらが優れているかではなく、役割が異なります。

比較項目預貯金株式・投資信託
主な目的生活と近い将来の支出を守る長期的に資産を育てる
元本の値動き円建て一般預金は基本的になし市場によって増減する
期待できる収益比較的小さい預貯金より高い可能性がある
必要時の利用普通預金ならすぐ使いやすい売却や入金に時間がかかる
インフレへの対応金利が物価上昇率を下回る可能性長期的に対応できる可能性がある
主なリスクインフレ、金融機関破綻など元本割れ、価格変動など
向いている期間短期から中期原則として長期

株式や投資信託には、長期間の運用によって資産を増やせる可能性があります。しかし、必要なときに値下がりしているかもしれません。

預貯金は大きく増えにくい一方、使う時期が決まっているお金を管理しやすいという特徴があります。使用目的と期間を決めずに、金利や期待リターンだけで選ばないことが大切です。

預貯金で資産運用するメリット

預貯金には、安全性、流動性、分かりやすさという大きなメリットがあります。特に、毎日の家計や数年以内のライフイベントへ備える資産として重要です。

元本の価格変動が基本的にない

円建ての一般的な普通預金や定期預金は、株式や投資信託のように市場価格が変動しません。100万円を預けた直後に、相場の影響で95万円になることは基本的にありません。

この安定性は、使用時期が決まっているお金を管理するうえで大きなメリットです。

たとえば、2年後に使う住宅購入の諸費用や、翌年に必要な大学の入学金を株式で運用すると、使用直前の相場下落によって資金が不足する可能性があります。預貯金なら、市場環境に左右されず、予定した金額を確保できます。

ただし、「預金」と名のつく商品がすべて円建て普通預金と同じ安全性を持つわけではありません。外貨預金は為替変動と手数料によって円換算額が元本を下回る可能性があります。仕組預金も、中途解約に制限があったり、解約時に元本割れしたりする場合があります。

安全性を重視する場合は、商品名だけでなく、通貨、元本保証の条件、中途解約の取扱い、預金保険制度の対象かどうかを確認しましょう。

必要なときにすぐ使える

普通預金は、ATM、振り込み、口座振替などを通じて、必要なときに利用できます。この換金しやすさを「流動性が高い」といいます。

人生では、次のような予測できない支出が発生します。

  • 病気やけが
  • 休職や失業
  • 家族の介護
  • 車や家電の故障
  • 冠婚葬祭
  • 急な引っ越し
  • 災害による出費

投資信託を売却してから銀行口座へ入金されるまでには、商品によって数営業日以上かかることがあります。海外資産へ投資する商品では、さらに時間がかかる場合もあります。

また、相場下落中に売却すれば、回復を待てずに損失を確定することになります。普通預金を確保しておけば、必要な支払いへすぐ対応し、投資資産を売却するかどうかを落ち着いて判断できます。

預金保険制度によって一定範囲が保護される

日本国内に本店がある対象金融機関の一般預金等は、金融機関が破綻した場合でも、預金保険制度によって一定範囲が保護されます。

利息のつく普通預金や定期預金などは、原則として1金融機関ごとに預金者1人当たり、合算して元本1,000万円までと破綻日までの利息等が保護されます。

預金保険制度によって、株式や投資信託とは異なる安全性が確保されています。ただし、保護額には上限があり、対象外の商品もあります。

貯蓄を自動化しやすい

資産形成では、どの商品を選ぶかより、収入の一部を継続的に残す仕組みをつくることが重要です。

給与が振り込まれた直後に、一定額を別の預金口座へ自動で移せば、残った金額で生活する習慣をつくれます。月末に残ったお金だけを貯めようとすると、支出に応じて貯蓄額が変わりやすくなります。

たとえば、毎月3万円を自動で積み立てると、利息を除いても年間36万円、5年間で180万円を準備できます。

積立定期預金を使わなくても、自動振替によって生活用口座から貯蓄用口座へ移す方法があります。大切なのは、金利だけでなく、無理なく続けられる仕組みを作ることです。

投資資産を不利な時期に売るリスクを抑えられる

生活防衛資金を預貯金で持つことは、投資を長く続けるためのリスク対策でもあります。

たとえば、金融資産のすべてをNISAの投資信託へ回した直後に、収入が途絶えたとします。相場が30%下落していても、生活費を支払うために売却せざるを得ないかもしれません。

生活費6か月分などの現金があれば、すぐに売却せず、再就職や収入回復を待てる可能性があります。

預貯金そのものが高い収益を生まなくても、投資商品を安値で売らずに済むことで、長期運用を支える役割を果たします。

家計と資産全体の値動きを小さくできる

金融資産のすべてを株式で保有すると、相場下落時に資産全体が大きく減少します。一部を預貯金に置けば、資産全体の値動きを抑えられます。

たとえば、金融資産1,000万円のうち、700万円を株式、300万円を預貯金で持っているとします。株式部分が30%下落した場合、株式の損失は210万円です。預貯金が変わらなければ、金融資産全体の下落率は約21%になります。

これに対して全額を株式で保有していれば、資産全体も30%下落します。

預貯金を持つことで、相場上昇時の利益は小さくなる可能性があります。その代わり、下落時の損失と精神的な負担を抑えられます。

どちらが適しているかは、年齢だけでなく、使う時期、家計、収入の安定性、下落への耐性によって変わります。

預金保険制度でいくらまで守られる?

預金保険制度は、金融機関が破綻した場合に預金者を保護する仕組みです。ただし、「預金なら無制限に保護される」という制度ではありません。

多額の現金を保有する人は、保護の単位と対象商品を理解しておく必要があります。

一般預金等は1金融機関につき元本1,000万円まで

利息のつく普通預金、定期預金、定期積金などの一般預金等は、原則として1金融機関ごとに預金者1人当たり、合算して元本1,000万円までと破綻日までの利息等が保護されます。

たとえば、同じ銀行に普通預金600万円と定期預金700万円を持っている場合、合計は1,300万円です。このうち制度上保護されるのは、原則として元本1,000万円までとその利息等です。

1,000万円を超える部分が直ちにすべて失われるわけではありません。破綻した金融機関の財産状況に応じて支払われますが、一部が支払われない可能性があります。

同じ銀行の複数支店は合算される

預金保険制度の1,000万円という限度額は、口座や支店ごとではなく、1金融機関ごとに計算されます。

同じ銀行のA支店に800万円、B支店に500万円を預けても、別々に1,000万円ずつ保護されるわけではありません。同一名義の預金は合算され、合計1,300万円として扱われます。

また、合併前は別の金融機関だった銀行でも、合併後には一つの金融機関として扱われることがあります。多額の預金を分散するときは、支店名ではなく金融機関そのものが別かを確認しましょう。

決済用預金は全額保護される

次の3つの要件を満たす決済用預金は、金融機関が破綻した場合でも全額保護されます。

  • 利息がつかない
  • 預金者がいつでも払い戻しを請求できる
  • 振り込みなどの決済サービスに利用できる

当座預金や、決済用預金として提供される無利息型普通預金などが該当します。

事業資金、不動産の売却代金、住宅購入直前の資金など、一時的に1,000万円を超える現金を一つの金融機関で管理する必要がある場合は、決済用預金が選択肢になります。

ただし、通常の利息がつく普通預金は、自由に引き出せても決済用預金ではありません。利用する際は、金融機関へ対象商品か確認しましょう。

外貨預金など対象外の商品がある

預金保険制度の対象外となる代表的な商品には、外貨預金や譲渡性預金などがあります。

外貨預金には、次のリスクがあります。

  • 為替変動による円換算額の減少
  • 預入時と払出時の為替手数料
  • 金融機関が破綻した場合に預金保険で保護されない
  • 金利が高くても円高で損失が出る可能性

外貨預金は、外国通貨で見た残高が減っていなくても、円へ戻すと元本割れすることがあります。円建て普通預金の代わりとなる生活防衛資金には向かない場合が多いでしょう。

仕組預金についても、商品によっては預金保険制度の対象ですが、満期が金融機関の判断で延長されたり、中途解約時に元本割れしたりする可能性があります。「預金」という名称だけで普通預金と同じだと考えず、商品説明を確認する必要があります。

1,000万円を超える預金の分け方

預金保険制度の対象となる一般預金等を1金融機関に1,000万円以上保有する場合は、次の方法を検討できます。

  • 複数の金融機関へ分散する
  • 決済用預金を利用する
  • 使用時期に応じて定期預金の満期を分ける
  • 個人向け国債など他の安全性重視の商品も比較する
  • 預金保険制度の対象商品か金融機関へ確認する

金融機関を分けすぎると、口座管理が複雑になり、相続時に家族が把握しにくくなることがあります。保護上限だけでなく、使いやすさや管理のしやすさも考えましょう。

預貯金で資産運用するデメリット

預貯金は家計を守るために欠かせませんが、長期間使わないお金まで預貯金だけで保有することには課題があります。

主なデメリットは、資産が増えにくいこと、インフレによって購買力が低下すること、長期的な成長機会を取り込めないことです。

長期間では大きく増やしにくい

預金金利が上昇すれば、以前より多くの利息を受け取れる可能性があります。しかし、預貯金だけで老後資金や教育費を大きく増やすことは簡単ではありません。

たとえば、100万円を年1%で1年間預けた場合、税引前の利息は1万円です。元本に対する価格変動がない代わりに、株式などと比べて期待できる収益も限定されます。

預金金利は金融機関や商品によって異なり、キャンペーン金利には適用期間、残高上限、給与振込などの条件が設定されることがあります。高い表示金利だけを見ず、実際に受け取れる利息を確認しましょう。

預金利息には20.315%の税金がかかる

国内の預貯金から受け取る利息には、原則として20.315%の税金が源泉徴収されます。内訳は、所得税・復興特別所得税15.315%、地方税5%です。

100万円を年1%で1年間預け、税引前利息が1万円だった場合、税引後の受取利息は概算で7,969円です。

1万円×(1-20.315%)=7,968.5円

実際には利息計算の方法や端数処理、預入期間によって金額が異なりますが、預金金利を比較するときは税引後で考える必要があります。

NISAは預金を入れる制度ではないため、通常の預金利息をNISAで非課税にすることはできません。

インフレで実質的な価値が下がる

インフレとは、商品やサービスの価格が全体として上昇することです。

預金残高が100万円のまま減っていなくても、物価が上昇すれば、100万円で買える商品やサービスの量は少なくなります。

仮に物価が毎年2%ずつ上昇した場合、現在100万円で買えるものを10年後に買うには、単純な複利計算で約122万円が必要です。預金が10年間で122万円以上に増えていなければ、実質的な購買力は低下しています。

預金の実質的な利回りは、次のように考えられます。

税引後の預金金利-物価上昇率=実質利回りの目安

たとえば、税引後金利が年0.8%程度で、物価上昇率が年2%なら、実質利回りは概算でマイナス1.2%です。

実際の物価上昇率は年によって変動し、家庭によって購入する商品も異なります。それでも、預金残高が減っていないことと、お金の価値が守られていることは同じではありません。

長期投資の機会を逃す可能性がある

長期間使わない資金をすべて預貯金に置くと、株式市場や世界経済が成長した場合、その成長を取り込めない可能性があります。

これを機会損失と呼ぶことがあります。ただし、投資しなかったことによる機会損失は、口座残高から実際に差し引かれる確定損失ではありません。

預貯金を持つことで、安全性、流動性、安心感を得ています。相場下落による損失を避けられる可能性もあるため、「現金を持っただけで失敗」と考える必要はありません。

問題になるのは、10年、20年以上使う予定がなく、価格変動にも耐えられる資金まで、理由を整理せず預貯金だけに置き続ける場合です。

老後資金など長期で準備するお金については、預貯金を土台にしながら、NISAやiDeCoなどを利用した投資も比較する価値があります。

老後資金を預金だけで準備すると必要な積立額が増える

老後の生活費が公的年金などの収入を毎月5万円上回り、その状態が30年間続くと仮定すると、単純計算では1,800万円が必要です。

5万円×12か月×30年=1,800万円

実際には物価、年金額、医療・介護費、運用成果などが変化するため、すべての人に1,800万円必要という意味ではありません。

ただし、資産をほとんど増やせない前提で老後資金を準備するなら、必要額の多くを現役時代の収入から貯めなければなりません。

長期間の投資には元本割れの可能性がありますが、運用によって資産形成の効率を高められる可能性もあります。

預貯金だけでは不足するから全額投資する、という考え方ではありません。生活防衛資金と近い将来の支出は預貯金で守り、長期間使わない資金の一部を投資で育てるという役割分担が大切です。

預金金利は「税引後」と「物価上昇率」で判断する

預金金利を比較するときは、金融機関のWebサイトに表示された金利だけを見ないことが大切です。実際に受け取れる利息は税金を差し引いたあとの金額であり、物価が上昇すれば、その利息以上にお金の購買力が低下する可能性があります。

そのため、預金の条件を確認するときは、次の3段階で考えます。

  1. 表示されている税引前年利を確認する
  2. 税引後に受け取れる利息を計算する
  3. 物価上昇率と比較して実質的な価値を考える

表示金利と受取利息は異なる

金融機関に表示されている預金金利は、通常、税引前の年利です。実際の預金利息には、原則として20.315%の税金が源泉徴収されます。

たとえば、表示金利が年1%であっても、税引後の金利は概算で年0.79685%相当です。

1%×(1-20.315%)=約0.79685%

預金額、預入日数、利息の計算方法、端数処理によって、実際の受取額は異なります。年利が表示されていても、3か月定期や6か月定期なら、その期間に応じた利息になる点にも注意しましょう。

100万円を年1%で預けた場合の計算例

100万円を年1%の定期預金へ1年間預けたと仮定すると、税引前利息は1万円です。

そこから20.315%の税金が差し引かれるため、受取利息は概算で7,969円となります。

項目概算額
預入元本100万円
税引前年利1%
税引前利息1万円
税金約2,031円
税引後利息約7,969円
1年後の合計約100万7,969円

元本割れを避けながら利息を受け取れる点は、預金のメリットです。ただし、この利息だけで物価上昇に対応できるかは別に考える必要があります。

実質利回りがマイナスになる仕組み

預金の実質利回りは、簡易的には次の式で考えられます。

税引後の預金金利-物価上昇率=実質利回りの目安

仮に税引後金利が約0.8%で、物価が年2%上昇した場合、実質利回りは概算でマイナス1.2%です。

口座残高は増えていても、物価の上昇に追いつかず、買える商品やサービスの量は減る可能性があります。

ただし、生活防衛資金や数年以内に使うお金については、実質利回りがマイナスだからといって投資へ回す必要はありません。近い将来に使うお金では、増やすことより予定した金額を確保することが優先されるからです。

実質利回りは、長期間使わない資金をどこに置くか判断する材料として使いましょう。

金利以外に確認したい条件

預金商品を選ぶ際は、金利だけでなく次の条件を確認します。

  • 通常金利か期間限定のキャンペーン金利か
  • 金利が適用される預金額の上限
  • 新規口座開設や給与振込などの条件
  • 適用される預入期間
  • 満期後の取扱い
  • 中途解約時の金利
  • ATMや振込手数料
  • 預金保険制度の対象か
  • 必要なときに引き出しやすいか

年1%という表示があっても、3か月だけ適用され、預入上限が100万円という商品もあります。この場合、1年間を通して1%の利息を受け取れるわけではありません。

生活防衛資金では、わずかな金利差より、緊急時の引き出しやすさや手数料を優先したほうがよい場合があります。

預貯金はいくら残すべき?

「投資を始める前に、現金をいくら残せばよいか」という疑問に、すべての人へ共通する答えはありません。

必要な預貯金額は、毎月の生活費、働き方、家族構成、住宅、今後の予定によって変わります。年収や金融資産に対する一定割合ではなく、使用目的から積み上げて計算する方法が分かりやすいでしょう。

1.毎月使う生活費

給与振込口座には、家賃、住宅ローン、光熱費、通信費、食費、クレジットカード代など、毎月の生活に必要なお金を置きます。

最低限必要な金額だけでは、引き落とし日や臨時支出によって残高不足になる可能性があります。そのため、毎月の生活費1〜2か月分程度を、日常用の普通預金に置く方法があります。

ただし、生活費用の口座に多額の預金を置くと、使ってよいお金と貯めるお金の区別がつきにくくなります。日常生活費と生活防衛資金は、口座を分けて管理すると分かりやすくなります。

2.急な収入減に備える生活防衛資金

生活防衛資金は、失業、休職、病気、災害など、予期しない出来事に備えるお金です。

会社員で収入が安定している場合は生活費3〜6か月分、または6か月分程度が一つの目安です。片働きの子育て世帯や自営業者などは、6か月〜1年分を検討します。

毎月25万円で生活している会社員が6か月分を準備するなら、目安は150万円です。

25万円×6か月=150万円

実際には、公的保障、勤務先の休職制度、配偶者の収入、家族からの支援などを考慮して調整します。

3.5年以内に使う予定資金

5年以内に使うことが決まっているお金は、原則として預貯金で確保します。

主な例は次のとおりです。

  • 住宅購入の頭金・諸費用
  • 子どもの入学金や学費
  • 車の購入費
  • 引っ越し費用
  • 住宅の修繕費
  • 結婚費用
  • 旅行や家電の買い替え

これらを株式や投資信託で運用すると、必要な時期の相場下落によって資金が不足する可能性があります。

使用時期を延期できず、金額を減らせない支出ほど、預貯金での準備が適しています。

4.5〜10年以内に使う可能性がある資金

5〜10年先に使う資金は、目的や柔軟性によって判断が分かれます。

使う時期を延期できず、元本割れを受け入れられないなら、預貯金を中心にします。一方、使用時期を数年ずらせる、必要額の一部を毎年の収入で補えるという場合は、資金の一部を投資する選択肢もあります。

たとえば、8年後の住宅購入を考えているものの、相場が悪ければ購入を延期できる人と、子どもの進学に合わせて必ず購入したい人では、取れるリスクが異なります。

年数だけでなく、次の点を確認しましょう。

  • 使用時期を延期できるか
  • 必要額を減らせるか
  • 元本割れした場合に収入から補えるか
  • 値下がりした状態で売却せずに済むか

5.10年以上使わない長期資金

老後資金など、10年以上使わない資金については、NISAやiDeCoを活用した長期投資を検討できます。

預貯金では価格変動を避けられますが、長期間ではインフレの影響を受けやすくなります。株式や投資信託には元本割れの可能性がある一方、世界経済や企業の成長を取り込める可能性があります。

ただし、10年以上使わないからといって、全額を投資する必要はありません。年齢、資産額、下落への耐性に応じて、預貯金と投資の割合を調整します。

生活防衛資金は生活費何か月分必要?

生活防衛資金の目安は、職業や家族構成によって変わります。

家庭・働き方目安
共働きで収入が安定している生活費3〜6か月分
一人暮らしの会社員6か月分程度
片働き・子育て世帯6か月〜1年分
自営業・歩合給1年分程度も選択肢
転職・独立を予定している無収入期間を見込んで上乗せ
退職後数年分の取り崩し資金も検討

この目安より多ければ無駄、少なければ危険と一律に判断するものではありません。

公的保障と家族からの支援を考慮する

会社員には、健康保険の傷病手当金や雇用保険の基本手当などを利用できる可能性があります。勤務先に休職制度や所得補償がある場合もあります。

共働きであれば、一方の収入が減っても、もう一方の収入で生活費の一部を賄えるかもしれません。実家で暮らせる、家族から一時的な支援を受けられるといった事情も判断材料になります。

一方、住宅ローン、教育費、介護費など、簡単に減らせない支出が多い家庭は、手元資金を厚めにする必要があります。

予定している支出は生活防衛資金と分ける

翌年に車を購入する予定がある場合、その購入費は緊急資金ではありません。生活防衛資金と予定支出を同じ口座で管理すると、車を購入したあとに緊急資金が不足します。

次の3つを分けて計算しましょう。

  • 毎月の生活費
  • 予期しない事態に備える生活防衛資金
  • 数年以内に予定している特別支出

必要な預貯金額は、この3つを合計して考えます。

普通預金・定期預金を上手に使い分ける方法

預貯金は、ただ一つの口座にまとめるより、目的や使用時期に合わせて分けると管理しやすくなります。

日常生活費と生活防衛資金の口座を分ける

日常生活費と生活防衛資金を同じ口座に置くと、預金残高が多く見えるため、使いすぎることがあります。

口座を次のように分ける方法があります。

  • 生活用口座:給与受取、家賃、カード代など
  • 生活防衛資金口座:失業、病気、災害などへの備え
  • 目的別口座:教育費、住宅、車など
  • 投資口座:10年以上使わない資金

金融機関を増やしすぎる必要はありません。一つの銀行で目的別口座を利用したり、貯蓄用として別の銀行を一つ用意したりする方法でも十分です。

定期預金は使用時期が決まった資金に使う

定期預金は、当面使わないものの、投資には回したくない資金に向いています。

ただし、満期前に解約すると、当初の金利ではなく中途解約利率が適用される場合があります。普通預金より引き出しに手間がかかることもあります。

生活防衛資金のすべてを定期預金にせず、すぐ使う可能性のある部分は普通預金に残しましょう。

満期を分散する定期預金の使い方

まとまった金額を定期預金へ預ける場合は、預入期間を分ける方法があります。一般に、満期を段階的にずらす方法は「定期預金のラダー運用」と呼ばれることがあります。

たとえば、300万円を次のように分けます。

  • 100万円:1年定期
  • 100万円:2年定期
  • 100万円:3年定期

毎年一部が満期になるため、全額を同じ期間の定期預金へ預けるより、資金を使いやすくなります。満期時に金利が上がっていれば、新しい金利で預け直すこともできます。

ただし、将来の金利がどうなるかは分かりません。ラダー運用は金利上昇を保証する方法ではなく、預入期間と満期時期を分散する方法です。

高金利キャンペーンだけで選ばない

金融機関によっては、新規口座開設者や一定額以上の預入れを対象に、期間限定の金利を設定しています。

利用する前に、次の点を確認しましょう。

  • キャンペーン終了後の通常金利
  • 適用期間
  • 預入金額の上限
  • 自動継続後の金利
  • 中途解約の条件
  • ATM・振込手数料
  • 店舗や問い合わせ窓口の使いやすさ

キャンペーン終了後も預けたままにすると、低い通常金利へ変わる場合があります。満期日や適用条件を記録しておきましょう。

外貨預金・仕組預金を普通預金と同じ安全性で考えない

外貨預金は金利が高く見えることがありますが、円と外国通貨を交換するときの手数料がかかります。預入時より円高になれば、外貨で利息を受け取っても、円換算では損失になる可能性があります。

さらに、外貨預金は預金保険制度の対象外です。生活防衛資金や数年以内に使う資金の置き場所としては、慎重な判断が必要です。

仕組預金は、金融機関が満期を延長できる商品や、為替の状況によって外貨で払い戻される商品などがあります。高い金利には理由があるため、通常の円定期預金と同じものだと考えないようにしましょう。

FP相談で想定される預貯金の見直し事例

50代の会社員が、金融資産約1,500万円のほぼ全額を普通預金で保有しているケースを考えてみます。

本人は堅実に貯蓄してきましたが、「投資で損をするのが怖い」と考え、NISAも利用していません。数年後に住宅の修繕を予定し、退職も近づいています。

この場合、預金比率が高いという理由だけで、すぐに多額を投資へ移すのは適切ではありません。次の順番で整理します。

  1. 毎月の生活費と生活防衛資金を計算する
  2. 住宅修繕など数年以内の予定支出を確保する
  3. 退職金と年金の見込額を確認する
  4. 老後の年間収支を試算する
  5. 10年以上使わない資金を抽出する
  6. 許容できる損失額を確認する
  7. 少額から段階的にNISAで積み立てる

たとえば、生活防衛資金、住宅修繕費、退職直後の生活費として1,000万円を預金で残し、残りのうち無理のない金額を数年に分けて投資する方法が考えられます。

ただし、適切な金額は住宅費、年金、退職金、家族構成によって変わります。重要なのは、預金を減らすことではなく、いつ使うお金かを明確にすることです。

預貯金と投資で初心者が陥りやすい失敗

生活防衛資金までNISAへ入れる

NISAは利益が非課税になる制度ですが、元本を保証する制度ではありません。

手元の現金をほとんどNISAへ移したあとに、車の故障や収入減が発生すると、値下がりした投資信託を売却する可能性があります。投資は、生活防衛資金と予定支出を除いた資金で行いましょう。

預金だからすべて安全だと思う

円建て普通預金や定期預金と、外貨預金や仕組預金ではリスクが異なります。

また、円預金でも預金保険の保護には範囲と上限があります。元本保証という言葉だけで判断せず、通貨、中途解約、金融機関破綻時の扱いを確認する必要があります。

預金金利だけを見て金融機関を選ぶ

金利が高くても、適用期間が短い、預入上限が少ない、振込手数料が高いといった場合があります。

緊急資金の口座では、ATMの利用しやすさ、即時振込、問い合わせ対応なども大切です。金利差による受取利息を計算し、利便性を失ってまで移す価値があるか判断しましょう。

投資が怖いという理由で長期資金まで預金に置く

投資には元本割れの可能性があり、誰にでも同じ投資比率が適しているわけではありません。

ただし、老後まで20年以上使わない資金まで預金に置くと、インフレによる購買力低下の影響を受けやすくなります。

一度に大きな金額を投資するのが不安なら、少額の積立から始める方法があります。値動きを経験しながら、自分が耐えられる範囲を確認しましょう。

投資比率を一度に大きく変える

預金が多すぎると気づいても、急に数百万円を株式へ移す必要はありません。

一括投資には、早く市場へ資金を置ける利点がある一方、投資直後に下落すると精神的な負担が大きくなります。数か月から数年に分け、積立額を段階的に増やす方法も検討できます。

預貯金と投資の割合を決める手順

手順1.金融資産を一覧にする

普通預金、定期預金、NISA、iDeCo、企業型DC、保険などを一覧にします。口座残高だけでなく、資産を使う目的も書き出しましょう。

手順2.生活防衛資金を計算する

毎月の最低生活費を確認し、働き方や家族構成に応じた月数を掛けます。住宅ローンなど簡単に減らせない支出も含めます。

手順3.10年以内の予定支出を書き出す

住宅、教育、車、修繕、独立などに必要な時期と金額を整理します。時期を延期できない資金は預貯金を中心に準備します。

手順4.預金として残す必要額を合計する

日常生活費、生活防衛資金、予定支出を合計します。これが、現時点で預貯金として確保したい金額の目安です。

手順5.残った長期資金の投資可能額を判断する

預金として必要な金額を差し引き、10年以上使わない資金を確認します。その全額を投資するのではなく、年齢、目標、損失許容度に応じて配分を決めます。

手順6.年1回またはライフイベント時に見直す

結婚、出産、住宅購入、転職、退職などによって必要な現金は変わります。

少なくとも年1回、または大きな変化があったときに、預貯金と投資の割合を確認しましょう。相場の値動きだけを理由に頻繁に変更する必要はありません。

まとめ|預貯金は投資を続けるための土台になる

預貯金には、元本の価格変動が基本的になく、必要なときに使いやすいというメリットがあります。生活費、生活防衛資金、数年以内に使うお金の置き場所として、家計に欠かせません。

一方、預貯金だけで長期的な資産形成を行う場合は、次の課題があります。

  • 大きな利息を期待しにくい
  • 利息には原則20.315%の税金がかかる
  • 物価上昇によって購買力が低下する可能性がある
  • 株式市場などの成長を取り込めない
  • 老後資金を準備するための積立負担が大きくなりやすい

預貯金を残すときは、次の順番で考えましょう。

  • 日常生活費を普通預金へ置く
  • 生活費3〜12か月分を状況に応じて確保する
  • 10年以内の予定支出を整理する
  • 近い将来使うお金は預貯金を中心に管理する
  • 10年以上使わない資金は投資も検討する
  • 1金融機関で1,000万円を超える場合は保護範囲を確認する

預貯金と投資は、どちらか一方を選ぶものではありません。預貯金は現在の生活と将来の予定を守り、投資は長期間使わないお金を育てる役割があります。

必要な現金を確保できれば、相場が下落しても投資商品を慌てて売らずに済みます。預貯金は投資の反対にあるものではなく、投資を長く続けるための土台です。

自分のライフプランから必要な預貯金額を計算し、残った長期資金について、NISAやiDeCoなどを利用した運用を検討しましょう。

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