近年はNISAやiDeCoの普及によって、「投資をしなければ将来が危ない」「預金だけではお金は増えない」という言葉を耳にする機会が増えました。実際に物価上昇が続いていることもあり、資産運用への関心は以前より高まっています。しかし、FP相談の現場では次のような質問を受けることが少なくありません。
「投資がもてはやされているけれど、預貯金は残さなくていいのでしょうか?」
「そもそも預貯金を残すメリットと、残しすぎるデメリットは何ですか?」
これは非常に良い質問です。なぜなら、資産形成で本当に大切なのは「投資をすること」ではなく、「お金を目的に応じて適切に配置すること」だからです。
SNSなどを見ていると、まるで預貯金が悪者であるかのような意見を見かけることがあります。しかし実際には、預貯金には預貯金にしか果たせない重要な役割があります。一方で、預貯金だけに頼りすぎることで将来の資産形成に大きな影響を与えてしまうこともあります。
私は独立系FPとして資産形成やライフプランニングの相談を数多く受けていますが、お金がしっかり貯まる人ほど預貯金と投資の役割を理解しています。逆に失敗する人は、預貯金だけに偏るか、投資だけに偏るかのどちらかであるケースがほとんどです。
この記事では、預貯金で資産運用するメリットとデメリットを詳しく解説しながら、実際の相談事例や初心者の失敗例も交え、どのように預貯金を活用すればよいのかを分かりやすく解説します。
預貯金とはどのような金融商品なのか
預貯金とは、銀行やゆうちょ銀行などの金融機関にお金を預ける金融商品のことです。多くの人にとって最も身近な金融商品であり、給与の受け取りや生活費の管理にも利用されています。
預貯金にはいくつかの種類があります。普通預金は日常的な入出金に利用される口座であり、定期預金は一定期間お金を預ける代わりに普通預金より高い金利を受け取れる仕組みです。また、積立定期預金は毎月一定額を自動的に積み立てることができるため、将来のための貯蓄手段として利用されています。
資産運用というと株式や投資信託を思い浮かべる方も多いかもしれませんが、預貯金も立派な資産運用手段の一つです。ただし、その役割は株式や投資信託とは大きく異なります。
預貯金で資産運用するメリット
元本割れのリスクがほとんどない
預貯金最大のメリットは、元本割れのリスクが極めて低いことです。
投資信託や株式は市場の変動によって資産価値が上下します。昨日まで100万円だった資産が、今日には95万円になることも珍しくありません。しかし預貯金の場合、預けたお金が市場の影響によって減ることは基本的にありません。
特に投資経験が少ない人にとっては、この安心感は非常に大きなメリットになります。資産運用で最も避けたいことの一つは、値下がりへの不安から慌てて売却してしまうことです。その点、預貯金は価格変動がないため精神的な負担が少なく、安心して保有することができます。
必要なときにすぐ使える
預貯金には高い流動性があります。つまり、必要になったときにすぐ引き出せるということです。
人生には予測できない支出が発生します。突然の病気やケガ、転職による収入減少、自動車の故障、家電の買い替えなど、予定していなかった支出は誰にでも起こり得ます。
こうした状況で投資信託しか持っていない場合、相場が下落しているタイミングで売却しなければならない可能性があります。しかし預貯金であれば、相場環境に関係なく必要な金額を引き出すことができます。
実は、この「いつでも使える」という機能こそが預貯金の本当の価値なのです。
預金保険制度によって保護されている
預貯金は金融機関が破綻した場合でも、預金保険制度によって一定額まで保護されます。
一般的な預金であれば、1金融機関につき元本1,000万円とその利息まで保護されます。そのため、多くの家庭が保有する預金額であれば、万が一金融機関に問題が起きても大きな影響を受けにくい仕組みになっています。
この制度があることで、多くの人が安心して資金を預けられる環境が整っています。
お金を貯める習慣を作りやすい
FP相談をしていると、「投資の前にまず貯蓄習慣を身につけることが大切です」とお伝えすることがあります。
なぜなら、資産形成で最も重要なのは商品選びではなく、お金を継続的に残す仕組みを作ることだからです。
積立定期預金などを活用すれば、毎月自動的に貯蓄することができます。投資を始める前段階としても、預貯金は非常に優秀な仕組みだといえるでしょう。
預貯金で資産運用するデメリット
預貯金には多くのメリットがありますが、それだけで資産形成を行うことには課題もあります。特に近年は物価上昇や長寿化の影響もあり、「安全だから預貯金だけで良い」とは言い切れなくなっています。
お金がほとんど増えない
預貯金の最大の弱点は、資産を増やす力が非常に小さいことです。
現在は金利が上昇傾向にあるとはいえ、預金だけで老後資金を準備できるほどの利息を期待することは現実的ではありません。例えば100万円を預けていても、受け取れる利息は決して大きな金額にはなりません。
もちろん元本が減らない安心感はあります。しかし、老後資金や教育資金など数十年単位で必要になるお金を準備する手段として考えると、預貯金だけでは十分とはいえないのが現実です。
インフレによって実質的な価値が下がる
近年特に重要になっているのがインフレの問題です。
インフレとは物価が上昇することを意味します。例えば現在100円で買える商品が、10年後には120円になっているとします。この場合、預金残高が変わらなくても、買える商品の量は減ってしまいます。
つまり預貯金は数字上は減っていなくても、お金の価値そのものは下がっている可能性があるのです。
実際にここ数年は食品や電気代、ガソリン代など多くの生活必需品が値上がりしています。その結果、「貯金は減っていないのに生活が苦しくなった」と感じる人も増えています。
これはまさにインフレによる資産価値の低下が原因です。


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老後資金不足につながる可能性がある
人生100年時代と呼ばれる現在、定年後の生活は20年から30年以上続く可能性があります。
仮に老後に毎月5万円不足するとすれば、年間では60万円です。30年間続けば1,800万円の資金が必要になります。
この金額を預貯金だけで準備しようとすると、現役時代にかなり大きな貯蓄が必要になります。
もちろん投資にはリスクがあります。しかし長期間運用することによって、資産形成の効率を高められる可能性があります。そのため近年は預貯金と投資を組み合わせる考え方が重視されているのです。


FP相談で実際にあった事例
私が相談を受けた方の中に、50代の会社員男性がいました。
その方は若い頃から堅実に働き続け、約1,500万円の金融資産を保有していました。しかし、そのほぼ全額を普通預金で保有していたのです。
理由を伺うと、「投資は損をするから怖い」「預金なら安心だから」というものでした。
確かに預貯金は安心です。しかしライフプランを作成し、将来必要となる老後資金を試算してみると、このままでは資金不足になる可能性がありました。
そこで私は、預貯金をゼロにするのではなく、生活防衛資金や近い将来使うお金は残したまま、一部をNISAを活用した長期運用へ回す提案を行いました。
その方は最初こそ不安そうでしたが、「預金をなくすのではなく役割分担する」という考え方に納得されました。
資産形成で大切なのは、預貯金か投資かを選ぶことではありません。それぞれに適した役割を持たせることなのです。
初心者によくある失敗例
預貯金をほとんど残さず投資してしまう
最近はSNSや動画サイトの影響もあり、「現金は無駄」「すべて投資に回した方がいい」と考える人もいます。
しかしこれは非常に危険です。
例えば急な病気や転職による収入減少が発生した場合、生活費を確保するために投資信託を売却しなければならなくなります。
しかも相場が下落しているタイミングで売却すると、本来であれば長期保有できた資産を損失確定することになります。
実際の相談でも、「NISAに全額入れた後に車が故障して困った」というケースがありました。
投資は余裕資金で行うものです。生活費まで投資に回してはいけません。

預貯金だけで安心してしまう
反対に多いのが、「預金だから安全」と考えてしまうケースです。
もちろん元本割れのリスクは小さいですが、インフレや老後資金不足という別のリスクがあります。
実際に相談者の中には、「20年間コツコツ貯金してきたのに思ったよりお金が増えていなかった」と話される方もいます。
預貯金は安全性が高い反面、長期間の資産形成には向かない部分もあります。
安全性だけで判断するのではなく、お金の役割に応じて使い分けることが重要です。
預貯金はいくら残しておくべきなのか
FP相談で非常によく聞かれるのが、「結局いくら預貯金を残せばいいのでしょうか」という質問です。
残念ながら全員に共通する正解はありません。しかし目安はあります。
まず確保したいのが生活防衛資金です。
会社員であれば生活費の6か月分程度、自営業者であれば1年分程度を目安に考えるとよいでしょう。
例えば毎月25万円で生活している会社員であれば、150万円程度が目安になります。
さらに住宅購入資金や教育費、自動車購入費など、数年以内に使う予定があるお金についても預貯金で保有することが望ましいでしょう。
一方で10年以上使う予定がない資金については、投資信託やNISAなどを活用した長期運用を検討する価値があります。
独立系FPが考える預貯金との付き合い方
金融商品の販売を行わない独立系FPとしてお伝えしたいのは、「預貯金か投資か」という二択で考えないことです。
相談者の中には、「投資を始めたら預金は不要ですよね」と聞かれる方もいます。しかし私はそのようには考えていません。
なぜなら、お金にはそれぞれ役割があるからです。
生活費として使うお金、緊急時に備えるお金、数年後に使うお金、老後のために増やすお金では、適した置き場所が異なります。
預貯金は増やすためのお金というよりも、「守るためのお金」です。一方で投資は、将来のために「育てるお金」と考えることができます。
この考え方を持つだけで、預貯金と投資のバランスが非常に分かりやすくなります。
まとめ
預貯金には元本割れのリスクが低く、必要なときにすぐ使えるという大きなメリットがあります。また預金保険制度による保護もあり、家計を支える土台として非常に重要な役割を担っています。
しかし一方で、金利が低く資産が増えにくいことや、インフレによって実質的な価値が下がるというデメリットもあります。そのため、預貯金だけで将来の資産形成を行うことには限界があります。
大切なのは預貯金をなくすことではなく、役割を理解することです。生活防衛資金や近い将来使うお金は預貯金で確保し、長期間使わない余裕資金は投資で育てる。この考え方が、将来の安心と資産形成を両立させるポイントになります。
資産形成は預貯金か投資かを選ぶものではありません。それぞれの特徴を理解し、自分のライフプランに合わせて使い分けることが大切です。


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