なぜ資産運用が必要なのか?預金だけでは守れない時代にお金を育てる理由をFPが解説

目次

はじめに

「そもそも、なぜ資産運用をしなければならないのでしょうか」

FPとして相談を受けていると、このような質問をいただくことがあります。最近はNISAやiDeCoという言葉を耳にする機会が増え、金融庁も「貯蓄から投資へ」という流れを後押ししています。そのため、「資産運用はした方がいいらしい」という空気は広がっています。

しかし、初心者の方にとっては、そこに大きな疑問が残ります。

資産運用にはリスクがあります。投資信託も株式も、元本保証ではありません。相場が下がれば評価額は減ります。場合によっては、投資した金額を下回ることもあります。

それなら、なぜわざわざリスクを取ってまで資産運用をする必要があるのでしょうか。銀行預金に置いておけば減らないのに、なぜ値下がりする可能性のある商品にお金を回すのでしょうか。

この疑問はとても大切です。むしろ、資産運用を始める前に一度は考えておくべき問いです。

資産運用は、周りがやっているから始めるものではありません。NISAが話題だから始めるものでもありません。自分の家計や将来にとって、なぜ必要なのかを理解したうえで始めることが重要です。

この記事では、金融商品の販売を行わない独立系FPの立場から、「なぜ資産運用が必要なのか」を初心者にも分かりやすく解説します。

資産運用の目的は「お金を増やすこと」だけではない

資産運用は人生の選択肢を増やすための手段

資産運用という言葉を聞くと、多くの人は「お金を増やすこと」をイメージします。もちろん、資産運用にはお金を増やす目的があります。しかし、FPとして考えると、それだけでは少し不十分です。

本来、資産運用の目的は、将来の選択肢を増やすことです。

たとえば、老後に働く期間を少し短くできるかもしれません。子どもの進学時に、選べる学校や進路が増えるかもしれません。住宅購入のときに、無理のない頭金を準備できるかもしれません。転職や独立を考えたとき、生活費の不安が少なければ一歩踏み出しやすくなるかもしれません。

お金は目的ではなく、人生の選択肢を増やすための道具です。資産運用は、その道具を時間をかけて育てる行為だと考えると分かりやすいでしょう。

「お金を増やしたい」という気持ちだけで始めると、相場が下がったときに不安になります。しかし、「将来の選択肢を増やすために運用している」と理解していれば、短期的な値動きに振り回されにくくなります。

お金に働いてもらうという考え方

現役世代の多くは、働くことで収入を得ています。会社員であれば給与、自営業であれば事業収入です。これは、自分の時間や労働力を使ってお金を得る方法です。

しかし、労働には限界があります。1日は24時間しかありません。体力にも限界があります。年齢を重ねれば、若い頃と同じ働き方ができなくなる可能性もあります。病気やケガで働けなくなることもあります。

一方で、資産運用は、お金にも働いてもらう考え方です。

株式に投資するということは、企業の活動に参加することです。投資信託を通じて世界中の企業に投資すれば、自分が働いている間も、寝ている間も、投資先の企業は商品やサービスを生み出し続けています。その企業活動の成果の一部を、長期的に資産形成へ取り込もうとするのが資産運用です。

もちろん、必ず利益が出るわけではありません。企業業績や景気、市場環境によって価格は変動します。それでも、労働収入だけに頼るのではなく、資産にも働いてもらう仕組みを作ることは、長い人生を考えるうえで重要な視点です。

なぜ今、資産運用が必要と言われるのか

預金だけでお金が増えた時代は終わった

昔は、銀行にお金を預けておくだけでもある程度増える時代がありました。親世代や祖父母世代から「まずは貯金しなさい」と言われた方も多いと思います。実際、過去には預金金利が高く、定期預金に預けるだけで資産が増えやすい時代がありました。

しかし現在は、預金だけで大きくお金を増やすことは難しくなっています。

もちろん預金は大切です。生活費、急な出費、病気や失業への備えとして、現金は必ず必要です。生活防衛資金まで投資に回すべきではありません。

ただし、長期的に使う予定のないお金まで、すべて預金に置いておけば安心かというと、そうとは限りません。金利が低い状態では、預金はほとんど増えません。さらに物価が上がれば、預金残高は同じでも、実際に買えるものは少なくなります。

つまり、預金は「短期の安全性」には優れていますが、「長期的にお金の価値を守る力」は弱くなりやすいのです。

物価上昇でお金の価値は目減りする

資産運用が必要と言われる大きな理由の一つが、物価上昇です。物価が上がると、同じ金額で買えるものが少なくなります。

たとえば、昔は100円で買えたものが、今は120円、150円になっていることがあります。食品、電気代、ガソリン代、外食費など、生活に必要な支出が上がると、家計の負担は重くなります。

ここで重要なのは、預金残高が減っていなくても、お金の実質的な価値は下がるということです。

100万円を預金に置いていて、10年後も残高が100万円なら、一見すると減っていないように見えます。しかし、その間に物価が上がっていれば、100万円で買えるものは少なくなっています。これが、インフレによる実質的な目減りです。

資産運用は、この物価上昇に対抗するための方法の一つです。長期で使う予定のない資金を、株式や債券、投資信託などに分散して運用することで、お金の価値を守りながら育てることを目指します。

老後資金を預金だけで準備するのは負担が大きい

老後資金の問題も、資産運用が必要と言われる理由の一つです。2019年に話題になった「老後2,000万円問題」は、数字だけが大きく取り上げられました。しかし本質は、誰にでも必ず2,000万円が必要という話ではありません。

本当に重要なのは、退職後は収入が現役時代より減りやすい一方で、生活費は続くということです。

会社員であれば、現役時代は給与収入があります。しかし退職後は年金が中心になります。年金だけで生活できる人もいれば、毎月不足が出る人もいます。必要な老後資金は、生活水準、住居費、年金額、退職金、健康状態、家族構成によって大きく異なります。

ただ一つ言えるのは、老後期間が長くなっているということです。65歳で退職して90歳まで生きるとすれば、老後は25年あります。95歳までなら30年です。この長い期間の生活費を、現役時代の貯蓄だけで準備するのは簡単ではありません。

たとえば2,000万円を10年で貯めようとすると、単純計算で毎月約16.7万円の貯蓄が必要です。一方で30年かけて準備するなら、毎月約5.6万円です。さらに運用を組み合わせることで、毎月の負担を軽くできる可能性があります。

もちろん運用にはリスクがあります。しかし、時間を味方につけることで、老後資金づくりの負担を分散できる点は大きなメリットです。

FP相談で実際にあった「なぜ運用するのか」という相談

リスクを取る意味が分からないという相談

FPとして相談を受けた方の中に、「そもそもなぜ資産運用が必要なのですか。リスクを取ってまで増やす意味が分かりません」と話された方がいました。

その方は、堅実に貯金をしていました。毎月一定額を預金に回し、無駄遣いも少なく、家計管理もしっかりしていました。投資に対しては慎重で、「元本割れする可能性があるなら、やらない方が安心ではないか」と考えていました。

これは非常に自然な考え方です。資産運用をしたことがない人にとって、価格が上下する商品にお金を入れるのは怖いことです。特に、これまで真面目に貯金をしてきた人ほど、「減る可能性がある」という点に抵抗を感じます。

そこで私は、資産運用の話をする前に、まず将来必要になるお金を一緒に整理しました。老後の生活費、住宅修繕費、医療費、介護費、趣味や旅行に使いたいお金。さらに、物価上昇によって生活費が上がる可能性も考えました。

その結果、預金だけで準備するには、かなり高い貯蓄ペースが必要になることが分かりました。

その方は、「投資のリスクばかり見ていたけれど、預金だけで将来に備えることにもリスクがあるんですね」と話されました。

何もしないことにもリスクがある

初心者の方は、投資にはリスクがあると考えます。これは正しい理解です。投資信託も株式も、価格が下がることがあります。元本保証ではありません。

しかし、ここで忘れてはいけないのは、何もしないことにもリスクがあるということです。

預金だけで持っていれば、価格変動はありません。通帳の金額は減りません。しかし、物価が上がれば実質的な購買力は下がります。長寿化によって老後期間が長くなれば、必要な生活費は増えます。社会保険料や税負担が増えれば、手取り収入が思ったほど増えないこともあります。

つまり、資産運用は「リスクを取りに行く行為」ではなく、「別のリスクに備える行為」でもあります。

大切なのは、必要以上にリスクを取ることではありません。預金、保険、投資をそれぞれの役割に応じて使い分けることです。生活費や近い将来使うお金は預金で守り、長期で使わないお金は運用で育てる。この考え方が、家計全体の安定につながります。

給与だけに頼ることが難しくなっている

額面収入と手取り収入は違う

資産運用が必要と言われる背景には、給与だけで将来の不安をすべて解決することが難しくなっている現実もあります。

ニュースでは賃上げが話題になることがあります。しかし、家計にとって本当に重要なのは額面給与ではなく手取り収入です。仮に給与が上がっても、税金や社会保険料の負担が増えれば、自由に使えるお金は思ったほど増えない場合があります。

FP相談でも、「昇給したはずなのに、なぜか生活が楽にならない」という声を聞くことがあります。原因を確認すると、物価上昇で食費や光熱費が増えていたり、社会保険料や税金の負担が増えていたりすることがあります。

つまり、収入が少し増えても、支出や負担も同時に増えていれば、家計の余裕は生まれにくいのです。

労働収入以外の柱を作る意味

現役時代の中心は労働収入です。これは今後も変わりません。しかし、労働収入だけに頼る家計は、働けなくなったときや退職後に弱くなります。

資産運用は、労働収入以外の柱を作る方法の一つです。

もちろん、資産運用だけで生活する必要はありません。いきなり大きな資産所得を目指す必要もありません。最初は少額でも構いません。大切なのは、給与だけに依存しない仕組みを少しずつ作ることです。

たとえば、長期的に投資信託を積み立てる。NISAを使って非課税で運用する。iDeCoを活用して老後資金を準備する。こうした方法は、一攫千金を狙うものではなく、時間をかけて資産を育てるための仕組みです。

年金と長寿化をどう考えるか

年金は重要だが、それだけに頼り切らない

日本には公的年金制度があります。これは老後の生活を支える非常に重要な制度です。資産運用を考えるときも、年金を無視する必要はありません。

ただし、年金だけですべての生活費をまかなえるかは人によって異なります。会社員か自営業か、加入期間、収入、配偶者の年金、住居費の有無によって大きく変わります。

また、公的年金の受給開始は原則65歳です。繰上げや繰下げという選択肢もありますが、いずれにしても退職後の生活設計と合わせて考える必要があります。

資産運用は、年金を否定するものではありません。年金を土台とし、その上に自分で準備する資産を組み合わせることで、老後の安心感を高めるための手段です。

長生きは喜ばしいが、お金の準備も必要

長寿化は本来喜ばしいことです。長く生きられるということは、家族と過ごす時間や、自分の好きなことを楽しむ時間が増えるということでもあります。

しかし、長く生きるほど生活費も必要になります。老後が20年なのか、30年なのか、35年なのかによって、必要な資金は大きく変わります。

老後資金の準備で難しいのは、寿命が分からないことです。短く見積もれば資金が不足する可能性があります。長く見積もれば必要額が大きくなりすぎ、不安ばかりが膨らみます。

そのため、老後資金は一度にすべて準備しようとするのではなく、現役時代から少しずつ積み上げることが現実的です。資産運用は、その積み上げを助ける手段になります。

低金利とインフレが同時にある時代の家計

預金の役割と限界

預金は家計にとって必要不可欠です。急な病気、転職、家電の故障、冠婚葬祭など、人生には予期せぬ支出があります。そのため、すべてのお金を投資に回すのは危険です。

生活防衛資金として、生活費の6か月から1年分程度は現金で持っておくと安心です。個人事業主や収入が不安定な方は、もう少し厚めに持っておく考え方もあります。

一方で、10年、20年使う予定のないお金まで、すべて預金に置いておく必要があるかは考える余地があります。預金は安全ですが、低金利とインフレの環境では増えにくく、実質的な価値が目減りする可能性があります。

つまり、預金は「近い将来に使うお金を守る場所」であり、投資は「長期で使うお金を育てる場所」と考えると整理しやすくなります。

インフレに負けない家計を作る

物価が上がると、生活費は少しずつ増えます。食費が月5,000円増える。電気代が月3,000円増える。外食費や日用品も少しずつ高くなる。1つ1つは小さくても、年間で見ると大きな負担になります。

収入が同じで支出だけが増えれば、貯蓄できる金額は減ります。これが長期間続くと、将来の資産形成にも影響します。

インフレに対応する方法は、節約だけではありません。支出を見直すことも重要ですが、同時に収入を増やすこと、資産を運用することも考える必要があります。

資産運用は、インフレに必ず勝てる魔法ではありません。しかし、現金だけで持つよりも、長期的にお金の価値を守れる可能性があります。特に、世界中の企業に分散投資する投資信託などは、企業の成長や利益の拡大を通じて、物価上昇に対抗する手段の一つになります。

初心者が資産運用で失敗しやすい考え方

短期間で大きく増やそうとする

資産運用を始めるときに注意したいのが、短期間で大きく増やそうとすることです。

SNSや動画では、「短期間で資産が倍になった」「この銘柄で大きく儲かった」という話を見かけることがあります。そうした話を見ると、自分も早く増やしたいと思うかもしれません。

しかし、短期間で大きく増やそうとすると、必要以上にリスクの高い商品を選びやすくなります。値動きの大きい個別株、レバレッジ商品、流行のテーマ型商品などに集中してしまうと、相場が逆に動いたときに大きな損失を抱える可能性があります。

初心者にとって大切なのは、短期間で勝つことではありません。長く続けられる仕組みを作ることです。

資産運用は、ギャンブルではありません。家計と人生設計に合わせて、無理のない範囲で続けるものです。

生活費まで投資に回してしまう

もう一つの失敗は、投資に前のめりになりすぎて、生活費や近い将来使うお金まで投資に回してしまうことです。

投資は長期で行うほど効果が出やすくなります。しかし、途中でお金が必要になり、相場が下がっているタイミングで売却しなければならなくなると、損失が確定してしまいます。

そのため、投資に回すのは、当面使う予定のないお金が基本です。

生活防衛資金、数年以内に使う教育費、住宅購入資金、車の購入資金などは、無理に投資に回すべきではありません。

資産運用は、家計を苦しくしてまで行うものではありません。むしろ、家計を安定させるために行うものです。

資産運用を始める前に考えたいこと

まず家計の土台を整える

資産運用を始める前に、まず家計の土台を整えることが大切です。

毎月の収入と支出を把握する。生活防衛資金を準備する。高金利の借入があれば優先して返済する。保険に入りすぎていないか確認する。

このような基本を整えないまま投資を始めると、相場が下がったときに不安になりやすくなります。

FPとして相談を受けていても、運用商品の相談に来た方が、実は家計管理や保険の見直しを先にした方が良いケースは少なくありません。

資産運用は、家計の上に乗るものです。土台が不安定なまま運用だけ始めても、長く続けることは難しくなります。

目的と期間を決める

資産運用を始めるときは、何のために運用するのかを決めることが大切です。

老後資金なのか、教育資金なのか、住宅購入資金なのか、余裕資金の長期運用なのか。目的によって、取れるリスクは変わります。

また、運用期間も重要です。5年以内に使うお金と、20年以上使わないお金では、選ぶべき商品が変わります。

長期間使わないお金であれば、株式型の投資信託などを活用しやすくなります。一方で、近い将来使うお金は、預金や安全性の高い資産で保有する方が向いています。

資産運用で大切なのは、商品選びより先に、目的と期間を決めることです。

資産運用は未来の自分を助ける準備

少額でも早く始める意味

資産運用では、時間が大きな味方になります。毎月の積立額が大きくなくても、長く続けることで資産形成の効果は大きくなります。

若いうちは収入が少なく、投資に回せる金額も限られるかもしれません。しかし、少額でも始めることで、相場の値動きに慣れ、投資との付き合い方を学ぶことができます。

資産運用は、お金が十分に貯まってから始めるものではありません。生活防衛資金を確保したうえで、無理のない金額から少しずつ始めることが大切です。

最初から完璧を目指す必要はありません。毎月数千円でも、家計に無理のない範囲で始めることに意味があります。

資産運用は不安をあおるものではなく、備えるもの

資産運用の話になると、老後不安や年金不安が強調されがちです。もちろん、将来への備えは重要です。しかし、不安だけで資産運用を始めると、相場が下がったときに冷静さを失いやすくなります。

資産運用は、将来の不安をあおるためのものではありません。将来に備え、選択肢を増やすためのものです。

大切なのは、必要以上に怖がることでも、楽観しすぎることでもありません。預金、保険、投資の役割を分け、自分の家計に合ったバランスを作ることです。

金融商品の販売を行わない独立系FPの立場から見ると、資産運用で最も大切なのは、流行の商品を選ぶことではなく、納得して続けられる仕組みを作ることです。

まとめ

資産運用が必要と言われる理由は、単にお金を増やすためではありません。預金だけではお金が増えにくい時代になり、物価上昇によってお金の実質的な価値が目減りする可能性があります。さらに、長寿化によって老後期間は長くなり、給与や年金だけに頼ることが難しい場面も出てきます。

だからといって、すべてのお金を投資に回す必要はありません。生活費や近い将来使うお金は預金で守り、長期で使う予定のないお金を運用で育てる。この使い分けが重要です。

特に大切なポイントは次の通りです。

・資産運用の目的は、お金を増やすことだけでなく将来の選択肢を増やすこと
・預金は大切だが、低金利とインフレの時代には限界もある
・物価上昇によって、預金の実質的な価値は目減りする可能性がある
・老後資金は年金だけでなく、自分でも準備する視点が必要
・投資にはリスクがあるが、何もしないことにもリスクがある
・生活防衛資金を確保してから、余裕資金で始めることが大切
・短期間で大きく増やすのではなく、長期で無理なく続けることが基本
・商品選びよりも先に、目的と運用期間を決めることが重要

資産運用は、特別な人だけが行うものではありません。将来の安心や選択肢を増やしたいと考えるすべての人に関係があります。

大切なのは、周りに流されて始めることではなく、自分の家計と人生設計に合わせて考えることです。

リスクを正しく理解し、預金だけでは対応しづらい将来の変化に備える。そのための手段として、資産運用を少しずつ取り入れていきましょう。

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